切削加工において最も厄介な問題の一つが「切りくず処理」です。適切に管理されない切りくずは、工具寿命の低下、加工精度の悪化、さらには作業の中断を引き起こします。チップブレーカーは、この切りくず問題を解決するための重要な技術です。
チップブレーカーとは、切削工具(インサート)のすくい面に設けられた溝や凹凸のことで、切りくずを効率的に分断し、コントロールする役割を果たします。その主な機能は以下の3つです。
特にNC工作機械による自動化が進んだ現代の加工現場では、切りくず管理の重要性がさらに高まっています。長い切りくずが発生すると、機械内部で絡まり、無人運転の妨げになるだけでなく、工具やワークに絡まることで不良品発生の原因にもなります。
効率的な切りくず処理によって得られるメリットは数多くあります。例えば、切りくずが短く分断されることで排出がスムーズになり、チップコンベアのトラブルを減らせます。また、切りくずが適切に処理されることで、加工面への傷つきを防ぎ、切削抵抗も安定するため、工具寿命の延長にもつながります。
金属加工における切りくずの温度上昇は、材料の変形によって発生します。理想的には、金属を変形させずに切削することで、切りくずの温度上昇を抑えられます。これにより、材料本来の性能を維持したまま加工が可能になります。チップブレーカーは、この観点からも重要な役割を担っているのです。
チップブレーカーには大きく分けて「溝形」と「突起形」の2種類があります。それぞれ特性が異なるため、加工目的や条件に合わせた選択が重要です。
①溝形チップブレーカー
溝形チップブレーカーは、すくい面に溝が設けられており、この溝によって切りくずを湾曲させて自然に折断します。研削加工によって成形されるため、切れ味が鋭く、精密な仕上げ加工に適しています。
特徴。
②突起形チップブレーカー
突起形チップブレーカーは、すくい面に凹凸の模様が施されており、複雑な形状によって広範囲の切削条件で切りくずを効率的に折断します。プレス加工によって成形されるため、溝形に比べて切れ味はやや劣りますが、荒加工にも対応できる汎用性があります。
特徴。
チップブレーカーの形状も多様で、用途によって選択肢があります。
形状 | 特徴 | 適した用途 |
---|---|---|
V字型ブレーカー | 切りくずを中央に集めて分断 | 汎用的な加工、中切削 |
U字型ブレーカー | 切りくずを滑らかに流しつつ分断 | 仕上げ加工、低抵抗切削 |
凸型ブレーカー | 突起により切りくずを折り曲げて分断 | 荒加工、高送り切削 |
被削材や加工状態に応じたブレーカー選定も重要です。たとえば、鋼材加工では「FA」(軽切削)、「MA」(中切削)、「RA」(荒切削)など、加工工程に応じた専用ブレーカーが用意されています。ステンレス加工ではさらに異なるブレーカー(「FD」、「MG」、「RD」など)が最適となります。
適切なチップブレーカーを選ぶためには、以下の3つのポイントを考慮することが重要です。
これらの要素を総合的に判断し、最適なチップブレーカーを選定することで、切りくず処理性、加工品質、工具寿命のすべてを向上させることができます。
チップブレーカーの性能を最大限に引き出すためには、加工条件に合わせた最適化が不可欠です。適切な条件設定により、切りくず処理性が向上し、生産効率が大幅にアップします。
送り量と切込み深さの最適化
チップブレーカーの効果は、送り量と切込み深さに大きく影響されます。送り量が小さすぎると切りくずが薄くなりすぎて分断されにくく、大きすぎると切りくずが厚くなりすぎて工具負荷が増大します。
一般的な目安として。
これらの値はあくまで目安であり、被削材や工具材種によって最適値は変わります。メーカーのカタログやアプリケーションガイドを参考にしながら、実際の加工状況に合わせて調整することが重要です。
切削速度の調整と冷却方法
切削速度も切りくず形状に大きな影響を与えます。速度が速すぎると切りくずが熱くなりすぎて柔らかくなり、分断されにくくなります。逆に遅すぎると生産性が低下します。
また、切削油剤の選択と供給方法も重要です。高圧クーラントを使用することで、切りくずの折れやすさが向上し、チップブレーカーの効果を高められます。特に深穴加工や難削材加工では、クーラント供給方法の工夫が切りくず処理に大きく貢献します。
被削材に適したチップブレーカー選定
被削材の特性によって最適なチップブレーカーは異なります。例えば。
複合加工や多品種少量生産の現場では、汎用性の高いチップブレーカー(MG/MGタイプなど)を選定することで、段取り替えの手間を減らしつつ安定した加工を実現できます。
実践的な最適化ステップ
実際の最適化には以下のステップが効果的です。
切削点が安定している場合、排出される切りくずは常に同じ形状で、一定の場所に飛びます。反対に、不安定な切削点では異なる形状の切りくずが四方八方に飛散します。同じ形状の切りくずが安定して排出されることが、チップブレーカーが適切に機能している証拠です。
問題のある切りくず形状と対策
切りくずの形状から問題を診断し、適切な対策を講じることができます。
切りくず形状 | 考えられる問題 | 対策 |
---|---|---|
長い連続型(ひも状) | チップブレーカーが機能していない | 送り量を増やす、より強いブレーカータイプに変更[2] |
厚すぎる短い切りくず | 送り過ぎ、工具への負荷大 | 送り量を減らす、切削速度を上げる |
青く変色した切りくず | 切削温度が高すぎる | 切削速度を下げる、クーラント供給を改善[1] |
不規則な形状の切りくず | 切削条件が不安定 | 工具の剛性確保、切削条件の見直し[1] |
切りくず形状による加工条件の微調整方法
切りくずの観察から、以下のように加工条件を微調整できます。
これらの対策を組み合わせることで、自動化ラインにおける切りくずトラブルを最小限に抑え、生産性を最大化できます。
サステナビリティとチップブレーカー技術
環境負荷低減が求められる現代において、チップブレーカー技術はサステナビリティにも貢献します。適切な切りくず管理により、工具寿命が延長されれば資源消費の削減につながります。また、効率的な切りくず処理によって切削油剤の使用量も削減できるため、環境負荷の低減にも寄与します。
最新のエコフレンドリーなチップブレーカー技術は、加工効率向上と環境負荷低減の両立を可能にし、持続可能な製造業の実現に貢献しています。
以上のような最新技術と戦略を活用することで、チップブレーカーの性能を最大限に引き出し、自動化時代の金属加工における生産性と品質の向上を実現することができるでしょう。