日本における汚染物質は、発生源や特性に応じて体系的に分類されており、金属加工業界では特に注意が必要な物質群が存在している 。
大気汚染防止法では、工場から排出される物質を「ばい煙」「粉じん」「自動車排出ガス」「特定物質」「有害大気汚染物質」「揮発性有機化合物(VOC)」に区分している 。特にばい煙には硫黄酸化物、ばいじん、そして5種類の有害物質(カドミウム及びその化合物、塩素及び塩化水素、フッ素及びフッ化水素、鉛及び鉛化合物、窒素酸化物)が含まれ、金属加工現場で頻繁に発生する物質である 。
参考)工場及び事業場から排出される大気汚染物質に対する規制方式とそ…
有害大気汚染物質については、環境省が248種類もの物質をリストアップしており、その中でも23種類は「優先取組物質」として特に重点的な対策が求められている 。金属加工に関連する主要な物質には、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ホルムアルデヒド、マンガン及びその化合物、クロム及びその化合物、ニッケル及びその化合物などが挙げられる 。
参考)https://www.env.go.jp/content/900397166.pdf
金属加工工程において発生する汚染物質は、作業内容によって異なる特徴を持っている 。
参考)https://www.georhizome.co.jp/soil_contamination/opportunity/metal_processing_factory/
脱脂工程では、1・1-ジクロロエチレン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなどの塩素系溶剤が主要な汚染物質として発生する 。酸洗い工程では、金属表面の酸化皮膜を除去するためにフッ酸が使用されることが多く、ふっ素化合物による汚染リスクが高まる 。焼入れ工程では、シアン化物による汚染の可能性があり、極めて危険な物質として慎重な管理が必要となる 。
塗装工程においては、顔料に含まれる重金属類が問題となることが多い 。具体的には砒素、セレン、カドミウム、水銀、六価クロム、鉛などの特定有害物質が塗料や顔料から放出される可能性があり、これらは土壌汚染や地下水汚染の原因となりうる 。
参考)金属加工工場内跡地での土壌汚染状況調査について。
金属加工現場で発生する汚染物質は、複数の経路を通じて作業者の健康に深刻な影響を与える可能性がある 。
参考)金属加工による大気汚染:原因と排出物 - Kleanland
呼吸器系への影響が最も顕著で、金属加工時に発生する微細な粉じんや金属粉が肺の奥深くまで浸透することで、じん肺症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクが高まる 。特に超微粒子(PM2.5以下)については、血液中に取り込まれることで全身の臓器に影響を及ぼす可能性が指摘されている 。
参考)金属加工は体に悪い?健康への影響と対策を徹底解説!
化学物質による影響では、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなどの有機溶剤が中枢神経系に作用し、頭痛、めまい、意識障害を引き起こすことがある 。重金属については、カドミウムによる腎機能障害、鉛による神経系への影響、六価クロムによる発がんリスクなどが報告されている 。
金属加工工場から排出される汚染物質は、大気、水質、土壌の各環境媒体を通じて広範囲に拡散し、生態系全体に影響を与える可能性がある 。
参考)https://gurilabo.igrid.co.jp/article/2432/
大気中への拡散では、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が酸性雨の原因となり、森林や農作物への被害をもたらすことが知られている 。また、これらの物質は光化学スモッグの原因物質でもあり、都市部の大気質悪化に直結する問題となっている 。
揮発性有機化合物(VOC)については、大気中で光化学反応を起こすことでオゾンや二次粒子状物質を生成し、PM2.5濃度の上昇につながることが確認されている 。これらの反応生成物は、植物の成長阻害や生態系のバランス破壊を引き起こす要因となる 。
金属加工業界特有の汚染物質管理では、工程別の汚染源対策と廃棄物処理の両面からアプローチする必要がある 。
参考)特定有害産業廃棄物とは?分類基準やリサイクル方法も紹介
切削油剤については、使用後の処理方法が環境への影響を大きく左右する重要な要素となっている 。不適切な焼却処理を行った場合、塩化水素、硫黄酸化物、ダイオキシン、窒素酸化物などの有害物質が生成され、大気汚染防止法やダイオキシン法の規制対象となる可能性がある 。
参考)金属加工現場の環境汚染
特定有害産業廃棄物の適正処理については、廃PCB等、PCB汚染物、廃水銀等、廃石綿等の8分類について、それぞれ専門的な処理技術と許可を持つ業者への委託が義務付けられている 。これらの廃棄物は、含有量基準や溶出基準を超えた場合に特定有害産業廃棄物として分類され、一般的な産業廃棄物とは異なる厳格な管理体制が要求される 。
参考)https://www.pref.tochigi.lg.jp/d05/eco/haikibutsu/haikibutsu/documents/tokuteiyuugaisanngyouhaikibutu.pdf