無人化工場とは、製造工程における人の作業を最小限に抑え、機械やロボット、AIなどの技術を活用して工場全体の自動運転を実現する取り組みです 。従来、人が担っていた作業を自動化機器が代替することで、生産性の向上や人件費の削減、安全性の確保といった多くのメリットが得られます 。
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金属加工分野における無人化工場は、特に注目されています 。高精度かつ多品種対応が求められる金属切削加工において、人手不足の解消や生産性向上を目的に、自動化の一環としてロボットの導入が進んでいます 。従来の職人技をデータ化し、職人が一つずつ吟味を重ねて対応してきた機械加工プログラム作成のパラメータを大幅に削減することによって、たとえ新人でも高精度加工を行える支援システムが開発されています 。
参考)金属切削加工におけるロボット導入の課題と対応
ひびき精機では2020年6月、5G通信を利用したシステム化によるIoT対応無人化工場の操業を開始しました 。新工場では高速・大容量、低遅延、多接続などローカル5Gの特性を生かし、高精細カメラでの遠隔監視や工作機械の遠隔操作を実施しています 。このように、無人化工場は既に実用段階に入っており、特に金属加工業界において大きな変革をもたらしています。
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無人化工場を実現するためには、さまざまな機械設備の導入が不可欠です 。人手に頼っていた作業を機械に置き換えるには、単体のロボットだけでなく、工程全体をカバーするシステムとして機能する設備を組み合わせる必要があります 。
製造現場において最も広く活用されているのが産業用ロボットです 。搬送、組立、検査といった工程を自動でこなすことで、生産性と精度を大幅に向上させることができます 。搬送用ロボットは、部品や製品を高速かつ正確に次の工程へ運び、ライン全体の流れをスムーズに保ちます 。組立用ロボットは、位置や力加減を調整しながら繊細な作業をこなすことができ、高い再現性を実現します 。
AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)も重要な要素です 。工場内での資材・部品の運搬を自動化する移動型ロボットとして機能します 。あらかじめ決められたルートを走行するAGVに対し、AMRはセンサーやマップ情報を活用して自律的に最適なルートを選択することができます 。
さらに、センサー、カメラ、AIシステムなどのデジタル技術も不可欠です 。各種センサーは、温度・湿度・圧力・振動などのデータを取得し、設備の状態監視や異常検知に活用されます 。カメラは外観検査や工程監視に利用され、AIと組み合わせることで、製品の欠陥検出や設備の予知保全といった高度な分析が可能になります 。
工場を無人化・自動化することで得られるメリットは多岐にわたります 。最も顕著な効果は品質の安定化です 。無人化によって作業のバラつきやヒューマンエラーを抑えることができ、人間の体調や集中力に左右されないため、一定の条件で高精度な作業を継続でき、不良品の削減や納期遅延の防止につながります 。
安全性の向上も重要なメリットです 。危険作業を機械に任せることができ、高温・高所・重量物など、事故のリスクが高い作業を自動化することで、従業員の安全性が大幅に向上し、労災の発生を防ぐことができます 。特に金属加工分野では、切削時の切粉や高温環境での作業から作業者を解放できる点が重要視されています 。
人手不足に対応可能な点も無人化の重要な利点です 。熟練工への依存を減らせることも無人化の重要な利点で、属人的な技能に頼るのではなく、自動化された設備によって安定した工程管理が可能となり、人材不足やベテラン社員の退職による影響を最小限に抑えることができます 。
生産性の向上については、無人化工場の最大の利点として24時間365日の稼働が可能になる点が挙げられます 。休憩やシフトの制約がなく、需要変動に応じた柔軟な対応ができ、同じ時間で生産できる量が増え、利益を最大化しやすくなります 。
参考)無人化工場のコスト対効果と利点
無人化工場を実現するには、相当な投資が必要です 。設備投資として、ロボット、搬送装置、AI制御システムの導入費用が必要で、システム開発では自社に合わせた制御ソフトやデジタル管理ツールの開発、インフラ整備ではセンサーやネットワーク、電源設備などの更新が必要です 。初期投資は非常に大きく、数億円規模になるケースも珍しくありません 。
より具体的な費用としては、自動化設備にかかる費用は、ロボットの導入と周辺装置、プログラムという一連のロボットシステムを導入する必要があります 。ロボット本体が400万円、ロボット関連装置が200万円、ロボット周辺装置が300万円、システムインテグレーションが600万円で、総額1,500万円程度がおおよその目安になります 。
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金属加工分野特有の課題も存在します 。従来の協働ロボットによる旋盤操作は、ワーク脱着や扉開閉に時間がかかり、量産における生産性に課題がありました 。またスペースの問題や、切粉(切削により生じる金属片)の除去やワークの変更も自動化を阻む障壁です 。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000156195.html
精密加工においてミクロンの要求精度を確保しつつ製品の脱着自動化をいかに行うかが重要で、ロボットでの製品脱着を行うだけでは、セット治具の寸法バラツキや製品セット位置バラツキが重なり、要求される加工精度に仕上げることができません 。位置ズレさせない製品セット方法や製品位置を正確に測定して、加工ツール位置を補正することが良品製造のポイントです 。
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金属加工業界では、実際に無人化工場の導入が進んでいます。あるメーカーでは、CNC旋盤操作に特化した独自AIと既存工作機械との連携により、切粉除去プロセスの自動化やワーク変更対応を標準搭載し、実運用レベルでの無人稼働を可能にしています 。町工場に最適化した架台・治具等を設計・開発し、省スペースで設置可能な構成とすることで、中小工場でも導入しやすいロボットソリューションを創出しています 。
テクマック第5工場では、IOTを活用した24時間365日完全無人化工場を実現しています 。従来の職人の切削技術をすべて数値化することで、材料をセットすると金属の切削、寸法測定、箱詰めまで自動で行うシステムを構築しました 。タブレット端末1台で工作機械を遠隔操作でき、工場稼働状況の見える化、アラームの見える化、全自動寸法監視、工作機械のカメラ監視、温度監視、機械停止・寸法補正遠隔操作が可能です 。
参考)無人化生産システム
精密切削加工分野では、生産ロット数量がわずか1個から多くても1000個/日程度でも、数量の多い製品は連続24時間の無人稼働ができるように製品脱着のロボット化・自動化に取り組む事例があります 。NC旋盤と5軸マシニングセンタの改善により、ミクロンの要求精度を確保しつつ製品の脱着自動化を実現しています 。
金属切削加工におけるロボット活用は、今後さらに進化が期待されています 。AIと画像認識を組み合わせた自律的判断による柔軟な多品種対応、クラウド連携型の稼働管理による稼働率や異常情報の遠隔把握・制御、熟練工の技能継承支援として加工音・振動の分析によるノウハウの可視化などが進展すると予想されます 。
製造業のスマートファクトリー化における最終的なステップは、工場の無人化だと想定されています 。データを学習したAIにより自律的な判断を実施することで、生産量の調整やエラーの修復などの作業を自動化できます 。工場の無人運転に向けて、今後はさらに高度なデータ活用の取り組みが進んでいくと思われます 。
参考)製造業におけるスマートファクトリー化事例や最新トレンドを紹介…
特に金属加工業界においては、従来の手作業に依存していた高精度作業の自動化が進むことで、国際競争力の向上が期待できます。職人の技能をデータ化し、それをAIが学習することで、経験・ノウハウが少ない方でも簡単にものづくりが可能となる世界の実現が目指されています 。ユーザーは設計データ(3Dデータ)をアップロードし公差指示等を行えば、工作機械稼働用データ(NCデータ)や加工手順書が自動で作成される仕組みの普及により、金属加工業界全体の生産性向上と技術継承が促進されると期待されています 。
参考)HILLTOP株式会社(京都企業紹介)/京都府ホームページ