自動運転技術は、国際的にレベル0からレベル5までの6段階で分類されており、各レベルにおいて事故発生時の責任の所在が明確に定められています 。レベル2までの運転支援システムでは、基本的にドライバーが運転操作を行い、システムは補助的な役割を果たすため、事故の責任はドライバーにあると判断されています 。
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レベル3の条件付自動運転では、システムが主体となって運転操作を行いますが、システムから要請があればドライバーが対応しなければならず、2019年現在、事故の責任はドライバーが負うという方針が決まっています 。しかし、車のシステムにトラブルが起きたりハッキングされたりした場合は、自動車メーカーやシステム開発責任者に責任があると判断される可能性があります 。
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レベル4以上のドライバーが全く関与しない完全自動運転については、事故の責任はメーカーの責任とされており、道路環境の影響がある場合は、管轄する自治体の責任となる可能性も考えられています 。現在の法制度においては、2024年4月時点でレベル4の「特定条件下での完全自動運転」が一部解禁されており、無人バス等での運用が開始されています 。
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無人運転車両による事故において、重要な法的基盤となるのが自動車損害賠償保障法第3条に基づく運行供用者責任です 。運行供用者とは「自己のために自動車を運行の用に供する者」であり、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは損害を賠償する責任を負います 。
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運行供用者の要件は、自動車の運行について支配・管理していること(運行支配)と、自動車の運行によって利益を得ていること(運行利益)の2つです 。具体的には、自動車の所有者や管理者、タクシーやバス・社用車などを所有する法人も運行供用者責任の対象となります 。
各レベルの車が走行する現時点においては、一次的には現行の自賠責保険での枠組みである運行供用者が責任を負うという整理になっており、運行供用者とは「自動車の使用について支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」で、車両所有者等が該当します 。サイバー攻撃によって乗っ取られた自動走行車が暴走した場合でも、まずは自動車損害賠償保障法に基づく運行供用者の責任が問われることになります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/giiij/81/4/81_53/_pdf/-char/ja
自動車メーカーは、事故を引き起こした自動運転車という「製造物」を製造・販売しているため、不法行為責任のみならず製造物責任法第3条に基づく製造物責任を負うことになります 。製造物責任における「製造物」とは「製造又は加工された動産」を指すため、ソフトウェア自体は無体物であることから製造物に該当しませんが、ソフトウェアを組み込んだ部品や自動車が製造物となります 。
参考)【スマートシティ連載企画】第9回 自動運転と民事責任
製造物責任においては、欠陥、損害及び両者の因果関係が要件となります 。「欠陥」とは、「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます 。
参考)自動運転と民事上・刑事上の責任
自動運転車の安全性に関する要件として、2018年9月に国土交通省自動車局により「自動運転車の安全技術ガイドライン」が定められ、10の要件が設定されており、このガイドラインが遵守されているかどうかが欠陥判断の重要なポイントになると考えられています 。ソフトウェアの不具合が当該部品や自動車としての欠陥と評価される限り、当該部品メーカーや自動車メーカーが製造物責任を負う可能性があります 。
自動運転車は必然的にネットワークに常時接続した自動車(connected car)となることが予想されるため、従来の自動車に比べてサイバー攻撃に対する脆弱性が大きくなります 。サイバー攻撃を受けた自動運転車が第三者に被害を発生させた場合の責任については、「泥棒運転」に関するこれまでの裁判例の延長上で捉えることが考えられています 。
サイバー攻撃による事故の場合、サイバーセキュリティ法の下で企業や国民に課された義務を考慮する必要があり、そのような対応では大規模なサイバーテロ攻撃などに対して十分な備えとはならないおそれが大きいため、サイバーリスクを正面から取り込んだ制度設計、そして保険商品の設計が求められています 。
現在実用化されている自動運転機能は、運転者自身が運転することを前提とした「運転支援技術」であり、事故が発生した場合には原則として運転者が責任を負うものとされていますが、運転者の損害賠償責任の有無が明らかでなくその確定に時間を要するケースが想定されます 。このような場合において、運転者に損害賠償責任がない場合でも保険金をお支払いする「被害者救済費用特約(自動セット)」が新設されています 。
参考)https://www.sompo-hd.com/csr/action/customer/content1/
金属加工業界においても、IoTを活用した工作機械の知能化による自律加工技術や、ロボットを用いた材料・加工品の搬送システムなど、無人運転技術と類似した自動化システムが導入されています 。精密金属加工分野では、連続24時間の無人稼働ができるように製品脱着のロボット化・自動化に取り組んでおり、ミクロンの要求精度を確保しつつ製品の脱着自動化をいかに行うかが重要な課題となっています 。
5G通信を利用したシステム化によるIoT対応無人化工場では、高速・大容量、低遅延、多接続などローカル5Gの特性を活かし、高精細カメラでの遠隔監視や工作機械の遠隔操作を実施しており、不具合発生が50%以上削減され、利益率が飛躍的に向上した事例があります 。
無人化工場での事故や製品不良が発生した場合の責任の所在についても、自動運転車と同様に複雑な課題が存在します。完全自動化システムでは、生産工程の調整から工作機械の制御まで全てがシステム化されているため 、事故発生時にはシステム開発者、設備メーカー、運用者のいずれが責任を負うのかが問題となります。金属加工業界における自動化の進展は、無人運転車両と同じく、技術の進歩に法的責任体系の整備が追いついていない状況を示しており、両分野における責任の明確化が急務となっています 。
参考)【福岡】一点もの部品の三松、金属加工完全自動化へ 生産能力2…