密着性試験 塗装 JIS規格の評価基準と実施方法

塗装品質を左右する密着性試験について、JIS K5600規格に基づくクロスカット法とプルオフ法の違いを理解し、正確な試験実施で不良品を事前に防ぐには、どのような評価基準と手法を選ぶべきでしょうか?

密着性試験 塗装 JIS規格

密着性試験の重要性と試験方法の概要
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塗装品質評価の根幹

塗膜と素地の密着力は製品の耐久性を左右する最重要要素です。金属加工業では塗膜の剥離やはがれが大きなクレーム原因となるため、出荷前の厳格な密着性試験が必須です。

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JIS規格による2つの試験方法

密着性評価にはJIS K5600で規定されたクロスカット法(定性試験)とプルオフ法(定量試験)があり、目的に応じて使い分けます。

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適切な試験方法選択のポイント

簡易的な現場確認ならクロスカット法、正確な数値評価が必要なら精密機器を用いたプルオフ法を選択することで、コストと精度のバランスを最適化できます。

密着性試験 JIS K5600規格の位置付け

 

JIS K5600は日本の塗料試験方法を統一した最重要規格であり、塗装業界の品質管理の基盤となっています。この規格では塗膜の機械的性質を複数の方法で評価することを定めており、特に密着性(付着性)に関しては2つの異なるアプローチが用意されています。

 

JIS K5600-5-6はクロスカット法を、JIS K5600-5-7はプルオフ法を規定しており、企業は試験目的に応じて最適な方法を選択できます。従来の旧規格JIS K5400との大きな違いは、試験の簡略化と標準化にあり、1999年の改正後、碁盤目が100マスから25マスへ縮小され、より実用的な試験体系が確立されました。

 

密着性試験 クロスカット法の実施手順と評価基準

クロスカット法は塗装現場で最も広く採用されている手法で、その簡潔さと迅速な結果判定が特徴です。試験は塗膜表面にカッターガイドを用いて素地に達する格子状の切り込みを入れ、粘着テープを貼り付けて剥がす、という単純なプロセスです。

 

切り込み間隔は塗膜の厚さと素地の硬さによって決定されます。0~60μmの薄い塗膜で硬い素地の場合は1mm間隔、軟らかい素地なら2mm間隔、61~120μmの中程度の塗膜は素地の硬さに関わらず2mm間隔、121~250μmの厚い塗膜では3mm間隔が使用されます。評価は0から5の6段階に分類され、数字が小さいほど密着性が優れていることを示します。

 

評価の詳細は以下の通りです。

  • 分類0:どの格子の目もはがれがない(最高品質)
  • 分類1:カット交差点における塗膜の小さなはがれで、はがれ面積が5%を上回らない
  • 分類2:塗膜がカットの線に沿って部分的にはがれており、はがれ面積が5%以上15%未満
  • 分類3:塗膜がカットの線に沿って部分的・全面的にはがれており、はがれ面積が15%以上35%未満
  • 分類4:塗膜がカットの線に沿って部分的・全面的に大規模なはがれを生じており、はがれ面積が35%以上65%未満
  • 分類5:はがれが分類4以上である最悪の状態

実施における重要な注意点として、テープ剥離の角度が試験結果に大きく影響します。JIS規格では60°に近い角度で0.5~1.0秒で確実に引き離すことを求めており、このタイミングと角度のズレは判定結果を左右する最大の誤差要因となっています。

 

密着性試験 プルオフ法による定量的評価

クロスカット法が視覚的な良否判定に留まるのに対し、プルオフ法は塗膜の密着強度を数値で測定する定量試験です。JIS K5600-5-7およびISO 4624で規定されており、国際的な基準としても採用されています。

 

プルオフ法はドリーと呼ぶ円筒形の金属治具を塗膜表面に接着し、専用の試験装置で垂直方向に引張荷重をかけて塗膜が剥離するときの応力値を測定します。測定値はMPa(メガパスカル)で表示され、塗料メーカーやクライアントが指定する許容値との比較により、塗膜の品質を客観的に評価できます。

 

プルオフ法の大きな利点は、塗膜と素地の真の密着強度を反映した数値を得られることです。クロスカット法ではテープの粘着力や剥離角度など外部要因に左右されるのに対し、プルオフ法では塗膜そのものの付着性メカニズムを直接測定します。ただし、専用の高価な試験装置が必要であり、測定に一定のスキルを要することが課題です。

 

最新の精密機器には自動軸調整機能(SELF-ALIGNMENT機能)が搭載されており、ドリーの傾きを自動補正することで測定精度を大幅に向上させています。レポート事例では、軸調整機能のあるドリーを使用した場合、標準偏差が約1/4に低下し、測定精度が格段に改善されたと報告されています。

 

密着性試験 クロスカット法とプルオフ法の選択基準

現場での試験方法選択は、求められる精度、コスト、実施環境の3要素によって決定されます。クロスカット法は最小限の道具(カッター、テープ、ガイド)で実施でき、数分で結果が得られるため、日々の簡易的な品質確認や出荷検査に適しています。一方、設計値との厳密な比較検証や顧客への数値根拠提示が必要な場合はプルオフ法が欠かせません。

 

JIS規格の公式見解は非常に明確です。JIS K5600-5-6の冒頭には「この試験方法を付着性の測定手段とみなしてはならない」と明記されており、クロスカット法は定性的な良否判定のみを目的とした試験と位置付けられています。これは大きな誤解を招きやすく、クロスカット法で「分類0」が出たからといって、その塗膜の密着強度が高いと断定することはできないという重要な原則を示しています。

 

製造現場の現実としては、両試験を組み合わせる運用が理想的です。日常的な工程管理にはクロスカット法で対応し、定期的なロット検査やクライアント検査の段階ではプルオフ法で定量データを取得することで、効率性と信頼性の両立が可能となります。

 

密着性試験 塗膜剥離トラブルの予防と下地処理の重要性

密着性不良の根本原因の大半は、塗装前の下地処理不足にあります。脱脂・洗浄の不完全さによって金属表面と塗膜の間に油分や塵埃などの異物が介在すると、密着強度は著しく低下します。特に旋盤加工プレス加工後の製品には機械油が付着していることが多く、簡易的な拭き取りだけでは不十分です。

 

JIS規格体系では下地処理も重視されており、JIS K 3315で塗装下地用りん酸塩化成処理剤が規定されています。この処理剤を正しく適用することで、金属表面に微細な結晶構造を形成し、塗膜の密着力が大幅に向上します。あまり知られていない事実として、この化成処理層の厚さはわずか数~20マイクロメートル程度ですが、その密着力向上への貢献度は極めて大きいのです。

 

また、塗装前の表面粗さも密着性に大きく影響します。ISO 8503規格で規定される表面粗さが適切に管理されていないと、クロスカット法では合格判定が出ても、実際の環境下で塗膜が数ヶ月後に剥離するという事例も報告されています。外観上の仕上がりの良さと密着強度の高さは必ずしも相関しないため、試験結果の解釈には経験と専門知識が求められます。

 

参考リンク:JIS K 5600規格の詳細
JISK5600-5-6:1999 塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第6節:付着性(クロスカット法)の公式規格文書
参考リンク:クロスカット法の実装ガイダンス
新旧規格の違いと塗膜厚さ別のカット間隔設定方法が詳しく解説されており、実際の試験運用に直結する情報が記載されています
参考リンク:プルオフ法による高精度測定
自動軸調整機能を備えたプルオフ試験装置の原理と精度改善事例が紹介され、定量測定の有効性が実証されています

 

 


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