金属加工現場において流体を扱う際、配管内での圧力降下現象を正確に理解することは極めて重要です。流体が管路を流れる際に発生する圧力損失は、摩擦損失と形状損失の2つの要因から構成されており、これらは全く異なる現象によって生じます。摩擦損失は固体壁面と流体との摩擦力(粘性力)によって生じるエネルギー損失であり、形状損失は形状抵抗によって発生する損失として分類されます。
参考)【流体】熱と流れの不思議 vol.2 圧力損失① ~摩擦損失…
圧力損失という用語は、流体が機械装置などを通過する際の単位時間単位流量あたりのエネルギー損失を意味する包括的な概念です。摩擦損失とも呼ばれることがありますが、厳密には摩擦損失は圧力損失の一部に過ぎません。配管などの内部流れに対しては、出入口の総圧の差で定義され、「圧力損失 = 入口の総圧 - 出口の総圧」として表現されます。
参考)圧力損失 - Wikipedia
摩擦損失は固体壁面と流体との摩擦力によって生じるエネルギー損失であり、いくつかの特徴的な性質を持ちます。管径が小さいほど影響が大きく、管路長に比例して増加し、粘性係数に比例し、壁面粗さが大きいほど損失も大きくなります。これらの特性は、金属加工現場での冷却液や切削油の配管設計において重要な考慮事項となります。
円管内における摩擦損失の計算には、ダルシ―ワイスバッハの式が用いられます。この式は ΔP = λ × (L/D) × (ρ × v²/2) として表現され、ΔPは管内の摩擦抵抗による圧力損失、λは管摩擦係数、Lは配管長さ、Dは配管の内径、ρは流体の密度、vは流速を示します。
参考)9-3. 摩擦抵抗の計算
管摩擦係数は流れの状態により異なり、層流と乱流で計算式が変わります。層流の場合(Re≦2000)では、管壁の粗さに依存せず、λ = 64/Re の式で求められます。乱流の場合には、ブラジリウスの式やニクラッゼの式などの実験式が用いられ、レイノルズ数と相対粗度の関数として表現されます。
参考)摩擦損失係数 - Wikipedia
摩擦損失に影響を与える主要な因子は、流体の性質、配管の形状、流れの状態の3つに分類されます。流体の性質では、密度、粘度、温度が重要な要素となり、特に金属加工現場で使用される高粘度の切削油では、摩擦損失が著しく増大する傾向があります。
配管の形状要因としては、管径、配管長、壁面粗度が摩擦損失に大きく影響します。配管径は摩擦損失に対して最も影響が大きく、配管径を2倍にすると摩擦損失は16分の1になるという4乗の逆比例関係があります。このため、高粘度液体を扱う金属加工現場では、配管径の選定が極めて重要となります。
流れの状態については、レイノルズ数によって層流と乱流が区別され、それぞれで摩擦係数の計算方法が異なります。層流域では摩擦損失は流速に比例しますが、乱流域では流速の約1.75乗に比例するため、流速の増加に対してより敏感になります。
形状損失は、管路の形状変化によって生じる抗力によるエネルギー損失であり、摩擦損失とは全く異なる物理現象です。実際の管路は複雑な場合が多く、管断面積の変化、流れ方向の変化、合流や分岐などが存在し、これらの箇所で形状損失が発生します。
参考)【流体】熱と流れの不思議vol.3 圧力損失② ~形状損失~…
形状損失の大きさは損失係数ξを用いて評価され、ΔP = ξ × (ρ × v²/2) の式で計算されます。摩擦損失で使用される管摩擦係数λとは異なり、形状損失では損失係数ξが用いられることが重要な違いです。
急拡大管や急縮小管では、流体が形状変化部を通過する際に渦の発生により損失が生じます。急拡大管では流体が拡大管へ入る際に周囲の流体を巻き込んで渦を作るため損失が発生し、急縮小管ではコーナー部分での渦発生により損失が生じます。これらの現象は、金属加工現場での配管設計において、継手部や分岐部での圧力降下予測に重要な知識となります。
圧力損失は摩擦損失と形状損失を合計した総合的なエネルギー損失であり、実際の配管システムではこれらが同時に発生します。粉体工学の観点では、管内やチャネルにおいて流体が流れる場合、壁面との摩擦や流路内で派生する渦によって力学的エネルギーの一部を失い、これが圧力の低下として現れます。
参考)圧力損失|粉体工学用語辞典
摩擦による損失は管摩擦損失、渦の発生による損失は局所損失と呼ばれ、局所損失は管の拡大部、縮小部、曲がり部などで生じます。金属加工現場では、これらの損失が複合的に発生するため、システム全体の圧力損失を正確に予測するためには、両方の損失を考慮した設計が必要です。
圧力損失の計算においては、それぞれの損失が適当な経験係数を用いて整理されており、損失係数や管摩擦係数などの経験係数に関する公式を利用する際には、適用範囲に注意を払う必要があります。これらの公式の適用範囲を超えた使用は、予期しない誤差を生じる可能性があるため、実際の設計では十分な検証が必要です。
金属加工現場における摩擦損失の影響は、使用する流体の特性によって大きく変化します。切削油や冷却液などの高粘度流体では、摩擦損失が支配的になる傾向があり、配管設計において特別な配慮が必要となります。高粘度液の摩擦抵抗による圧力損失は、配管径の4乗に反比例するため、配管径の選択が極めて重要です。
往復動ポンプを使用する場合、脈動によって瞬間的に大きな流れが生じるため、最大瞬間流量として平均流量にπ(3.14)を乗じた値で計算する必要があります。これは金属加工現場で一般的に使用されるポンプシステムにおいて、摩擦損失の正確な予測に不可欠な考慮事項です。
層流域における摩擦損失の計算では、粘度、配管長さ、平均流量、配管内径の関係が特に重要になります。金属加工現場での実際の計算手順では、ポンプの選定、液の性質と配管条件の整理、管内流速の計算、レイノルズ数の確認、管摩擦係数の算出、そして最終的な圧力損失の計算という段階的なプロセスが推奨されます。
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