金属加工に従事する労働者は、作業環境で多様な金属に曝露されます。長年の蓄積により、皮膚症状や全身症状が現れることがあります。金属は汗や体液に接触すると金属イオンとして体内に取り込まれ、免疫系が異物と認識してアレルギー反応を起こすメカニズムです。直接的な接触だけでなく、歯科治療による金属製の詰め物や食事から摂取された微量の金属も、累積的に感作を進める要因となります。
金属加工現場では、ニッケル、コバルト、クロムなどの金属粉が飛散し、皮膚に直接付着することで接触皮膚炎が生じます。同時に、吸入された金属粉が肺に蓄積し、呼吸器系の症状をもたらすこともあります。症状の原因が明確でない場合、医師の診察と検査が必須です。
参考情報：金属加工における職業病と粉塵対策の詳細
金属加工における職業病と粉塵対策：精密加工職人の健康を守る
金属アレルギー検査は、主にパッチテストで行われます。通常、15～16種類の金属についてアレルギー反応を調べることが可能です。検査対象となる主な金属には、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、マンガン、インジウム、イリジウム、アルミニウム、スズ、鉄、白金、亜鉛、銀、金、銅などが含まれます。
ニッケルはステンレス製品や貴金属に広く使用されており、金属アレルギーの最も一般的な原因で、約4人に1人（24.8%）が反応を示すとされています。コバルトは絵具やエナメル、セメントに含まれ、陽性率は7.9%です。クロムは革製品の鞣し剤やメッキに使用され、2.3%の陽性率を持ちます。
金属加工従事者の場合、職場での多金属曝露により、複数の金属に同時感作することも珍しくありません。そのため、パッチテストで複数の金属に陽性反応が出ることがあります。個別の金属のみを検査することもできますが、複数金属の同時検査がより実用的です。
検査用試薬は鳥居薬品株式会社の標準化されたパネルを使用し、医学的な信頼性が確保されています。
パッチテストは複数回の来院が必要な検査です。初回は医師の診察とカウンセリングを行い、適応判定を受けます。その後、15～16種類の金属試薬を含むシール状のパッチを背中または上腕に貼り付けます。この部位は衣類で隠れるため、日常生活への支障は最小限です。
48時間（2日後）に1回目の判定を行います。この時点でパッチを剥がし、30分の待機時間を経て皮膚の状態を診察します。判定では発赤、腫脹、水疱など複数の反応レベルを評価します。
72時間（3日後）に2回目の判定を実施し、短期間での反応の増減を観察します。初期反応の消退傾向や遅延型反応の出現を確認することで、正確な診断精度を高めます。
7日目に最終判定を行い、アレルゲンの完全な特定と反応パターンの分類を完成させます。この時点で医師が詳しい説明を提供し、患者の生活環境や職業に応じた対策方針を立案します。
検査スケジュールは曜日に制限があり、例えば月曜日に貼付すれば水木曜日に判定、火曜日に貼付すれば木金曜日に判定、というように設定されることが多いです。予定がずれると正確な判定ができなくなるため、事前の日程調整が不可欠です。
参考情報：パッチテストの検査流れの詳細
金属アレルギー検査（金属パッチテスト）- 板橋区成増
パッチテスト実施中の生活制限は、正確な診断のために重要です。検査期間中は、パッチ貼付部位を濡らしてはいけません。入浴で湯船に浸かることや、汗をかくような激しい運動は控える必要があります。試薬が流れ落ちたり汗で赤みが出たりすると、判定が不正確になるためです。一方、頭や下半身など検査部位以外のシャワー浴は可能です。
抗ヒスタミン剤やステロイド剤の内服は、検査結果に影響を与えるため、事前に医師に報告し、内服継続の可否を相談する必要があります。外用薬については、検査部位以外の使用であれば継続可能です。
油性ペンで検査部位に金属の配置位置がマーキングされています。このマークが消えると、どの反応がどの金属に対応するのか判断できなくなるため、ゴシゴシ洗いなどでマークを消してはいけません。背中を強くこすることも避けるべきです。
検査期間中に強いかゆみが生じた場合、一般的には自己判断ではがさず、医師に相談します。ただし、多くの患者が検査期間中に著しいかゆみを訴えることは少ないとの臨床報告もあります。
万が一検査日程がずれた場合、再検査が必要になる可能性があります。スケジュール管理を厳密に行い、指定された日時での来院を徹底してください。
参考情報：金属アレルギー検査の注意事項
【金属アレルギー】パッチテストの方法や費用と検査項目について
金属加工従事者が注意すべき特殊な問題が、全身性金属皮膚炎です。これは、職場での吸入や皮膚曝露により体内に蓄積した金属が、血流を通じて全身に広がり、一見すると局所的な金属接触と関係ないように見える症状を引き起こす現象です。
歴史的に、歯科治療の銀歯や金属冠が全身性金属アレルギーの一般的な原因と認識されていましたが、金属加工従事者の場合、職業曝露による内因的な金属蓄積も重要な役割を果たします。手のひらや足の裏に小さな水ぶくれ（汗疱状湿疹）や、膿を伴う小さな隆起（掌蹠膿疱症）が現れる場合があります。さらに、食事に含まれる微量な金属（豆類、ナッツ、チョコレート、キノコなどに自然に含まれるニッケルやコバルト）の摂取がトリガーとなり、症状が悪化することもあります。
このメカニズムを理解することで、単なる皮膚疾患と見なされてきた症状が、実は職業性金属アレルギーの一種であることに気づけます。金属加工従事者が手湿疹や掌蹠膿疱症に罹患した場合、その背景に職場での金属曝露がある可能性を医師に伝えることは、正確な診断につながります。
参考情報：全身性金属アレルギーの症状と関連性
【9割の人が知らない】チタンが金属アレルギーを起こし
主要な検査項目一覧と陽性率の参考データ
| 金属名 | 用途・含有製品 | 一般的な陽性率 |
|---|---|---|
| ニッケル | ステンレス、貴金属、工具 | 24.8% |
| クロム | 革製品、メッキ、セメント | 2.3% |
| コバルト | 絵具、エナメル、合金 | 7.9% |
| パラジウム | 歯科治療、合金 | 陽性率は個別 |
| マンガン | 合金、鉄鋼製品 | 陽性率は個別 |
| インジウム | 半導体、特殊合金 | 陽性率は個別 |
金属アレルギーが疑われる場合の対応フロー
① 皮膚症状や全身症状の自己観察
② 皮膚科医への相談と初期診察
③ 検査適応判定
④ パッチテスト実施（初回貼付）
⑤ 48時間後の1回目判定
⑥ 72時間後の2回目判定
⑦ 7日後の最終判定と医師による詳細説明
⑧ 原因金属の特定と生活・職業環境の改善策の立案
⑨ 必要に応じて食事療法や職場環境改善の相談
金属加工従事者にとって、金属アレルギーは単なる皮膚疾患ではなく、職業健康管理の重要な課題です。症状が出現した段階で、早期に医師の診察とパッチテスト検査を受けることで、原因を特定し、具体的な対策を講じることが可能になります。検査結果に基づいて、職場での防護用具の適切な使用、作業環境の改善、医学的治療の選択肢が明らかになります。
金属加工に従事する労働者は、自身の健康を守るためにも、定期的な健康診断と必要に応じて金属アレルギー検査を受けることを強く推奨します。
参考情報：金属加工労働者における皮膚疾患の業務起因性
金属加工労働者における皮膚疾患の業務起因性
