パラジウム相場は2024年に前年比16%の下落を経験しながらも、依然として業界にとって重要な要素であり続けています。チャート分析から読み取れる最大の特徴は、供給と需要のアンバランスが価格を大きく左右していることです。
2024年のパラジウム相場は1トロイオンスあたり800ドルから1,200ドルの幅で推移し、日本円での価格は6,000円台から8,000円台を行き来しました。この値動きの背景には、鉱山生産者による過剰在庫放出と、電気自動車(EV)普及による需要減少という二つの圧力が存在します。ジョンソン・マッセイのレポートによると、2024年のパラジウム市場は501,000オンスの供給不足を経験しており、これは世界需要の約5.0%に相当する規模です。一見矛盾するように見えますが、価格の下落傾向と供給不足は同時に進行しており、これは市場心理の複雑性を示しています。
2025年の相場予測としては、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)が989.79ドルの平均価格を見込んでおり、上限は1,176.89ドル、下限は850.79ドルとしています。この予測幅の広さは、市場の不確実性がいまだ高いことを反映しています。金属加工業界の従事者にとっては、この変動幅を念頭に置いた原材料の調達計画が重要になります。
パラジウムの供給構造は極めて集中しており、この点が相場の不安定性を生み出す最大要因となっています。世界のパラジウム生産の約40%はロシアが占め、残りの大部分は南アフリカという寡占状況が続いています。2024年のパラジウムの鉱山供給量は前年比0.9%増の665.4万オンスと緩やかに増加しており、特にロシアと南アフリカでの生産量増加が顕著でした。
このような供給源の偏在は、地政学リスクがダイレクトに相場に反映されることを意味します。ロシアの政治情勢変化や経済制裁の強化があれば、即座に世界的な供給不足が生じ、価格が急騰する可能性があります。金属加工業者がパラジウム相場の変動を予測する際には、こうした地政学的な背景を常に視野に入れておく必要があります。
南アフリカではパラジウムの多くがプラチナ採掘の副産物として産出される特性も重要です。つまり、プラチナの採掘量がパラジウムの供給量に直結することになります。プラチナ市場の動向がパラジウム相場に波及する可能性もあり、単独の商品として相場を分析するだけでは不十分な場合があります。
パラジウム需要の約52%は自動車の排ガス浄化装置(触媒コンバーター)に依存しており、この産業の変化が相場に直結しています。電気自動車(EV)の普及により、ガソリン車やディーゼル車の排ガス触媒に必要なパラジウムの需要は確実に減少しています。2023年にはパラジウム価格が39%下落し、2024年にはプラチナの価格をも下回るという異例の展開が起きました。
一方で、ハイブリッド車(HEV)の需要は依然として堅調であり、パラジウムの一定需要が維持されています。また、ヘレウスの報告書では、パラジウム価格は今後も800ドルから1,200ドルの範囲で推移すると予測されており、この価格帯は自動車業界での需要減少と供給不足のバランスが一定の水準で収まることを前提としています。
パラジウムの代替としてプラチナの使用が増加する傾向も見逃せません。パラジウムの価格が高騰した時期に、触媒製造企業はプラチナへの切り替えを進めました。この傾向が続けば、パラジウムの需要構造が恒久的に変わる可能性があります。金属加工業者にとっては、単にパラジウムの相場だけでなく、プラチナとの価格比較も戦略的な意思決定に必要となります。
パラジウムの工業用途は排ガス触媒だけではなく、電子部品の製造にも欠かせない要素です。スマートフォンやコンピューターの回路基板、電子コネクター、スイッチ接点など、高度な電気伝導性を必要とする部品にパラジウムめっきが施されています。このセクターの需要は自動車産業ほど大きくはありませんが、相対的には安定しており、パラジウム相場を支える一つの要因になっています。
パラジウムめっきは高機能性が求められる表面処理技術として、耐食性と導電性の両立が必要な場面で活用されています。電子機器の小型化・高密度化が進む中で、パラジウムめっきの需要は今後も一定水準で継続すると予想されます。ただし、電子産業全体の景気動向によって短期的には変動しやすい特性があり、相場分析の際には製造業指数や電子部品の出荷統計も参考にする価値があります。
パラジウムのリサイクル供給は今後の相場を左右する重要な要素になります。2024年のパラジウムリサイクル供給は前年比2.6%増の294万オンスに達し、特に自動車部門からの貢献が大きくなっています。古い自動車の触媒コンバーターからのパラジウム回収は、鉱山からの新規供給を補完する機能を果たしており、相場の安定化に寄与しています。
中長期的には、リサイクル技術の向上と回収率の改善が進むと予想されます。特に、電気自動車の普及に伴い、旧型ガソリン車の廃棄が加速するため、スクラップからのパラジウム回収量は一時的に増加する可能性があります。これはパラジウム相場に下押し圧力をかける可能性があり、金属加工業者にとっては仕入れコスト削減の機会につながるかもしれません。
一方で、水素社会への転換が加速すれば、パラジウムの新たな需要が生まれる可能性もあります。燃料電池車(FCV)や水素貯蔵合金としてのパラジウムの利用が現実化すれば、需要構造は大きく変わります。ただし、このシナリオが実現するまでには時間がかかるため、現在のパラジウム相場は依然として過度な期待に左右されやすい状況が続いています。
参考:ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の2025年パラジウム価格予測データ
パラジウム価格の推移と今後の見通し、市場分析 - ミントエス
参考:自動車産業における触媒コンバーターとパラジウム需要の関係性に関する詳細解説
パラジウムの用途とは、工業分野での活用と市場動向 - 芦屋銀馬車
参考:2024年のパラジウムリサイクル供給量と市場需給バランスの分析
2025年最新触媒コンバーターリサイクル価格 - 東昇