イオン結合は、金属と非金属の間で生じる最も基本的な化学結合です。カチオンとアニオンの引き合いにより、極めて強い静電気力(クーロン力)が働きます。典型的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの電気陰性度が低い元素が電子を放出してカチオンとなり、ハロゲンや酸素などの電気陰性度が高い元素が電子を受け取ってアニオンになります。
代表的な例として、塩化ナトリウム(NaCl)があります。ナトリウム原子は最外殻の1個の電子を放出してNa⁺カチオンになり、塩素原子は電子を受け取ってCl⁻アニオンになります。この結果、固体塩において無数のNa⁺とCl⁻のイオンペアが三次元的に配列してイオン結晶を形成します。金属加工業者にとって重要なのは、このイオン結合が電気めっきプロセスや金属表面の化学変化において常に関与していることです。
異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)は、カチオンとアニオンのイオン結合の原理を逆転させるメカニズムで発生します。電位の異なる2つの金属が、水や湿気などの電解質の存在下で接触すると、イオン化傾向が高い金属(アノード、陽極)の原子が電子を失ってカチオンとしてイオン化し、電解質溶液に溶け出します。
この際、電位の低い金属が優先的に腐食します。例えば、ステンレス材料に亜鉛めっき処理されたネジを使用する場合、亜鉛のイオン化傾向がステンレスより高いため、亜鉛原子が率先してイオン化してカチオンになり、水分を含む環境で急速に腐食が進行します。
一方、溶融亜鉛めっきは鉄よりも亜鉛の方がイオン化しやすい特性を利用した「犠牲防食」として機能します。アニオンとしての酸素や水分の影響を受ける際に、亜鉛が「身代わり」となって腐食することで、鉄製の基材を保護するのです。
電気めっきの基本原理も、カチオンとアニオンのイオン結合に基づいています。電気めっきを行う際、被めっき物を電解質溶液内に浸し、直流電流を供給します。その際、めっき金属の原子は電子を放出してカチオンになり、溶液中を移動します。一方、被めっき物の表面がカソード(負極)として機能し、カチオンが到達して電子を受け取ることで金属原子として析出します。
例えば銅めっきの場合、銅の陽イオン(Cu²⁺)が電解液に含まれており、カソードである被めっき物表面で電子を受け取ってCu⁰の金属銅として析出します。また、電解質溶液に含まれるアニオン(例えば硫酸塩SO₄²⁻)は金属イオンの運搬を助け、溶液全体の電気伝導性を維持する役割を果たします。
金属加工業者が電気めっきの品質を管理する上で、カチオンとアニオンの濃度バランスが極めて重要です。カチオン濃度が不足すると、めっきの厚さが不均一になり、アニオン濃度の不適切さは溶液の導電性を低下させてプロセス効率が落ちます。
化成処理やアノード酸化などの金属表面処理技術も、カチオンとアニオンのイオン結合原理に依存しています。アルミニウムのアノード酸化(陽極酸化)では、直流電流下でアルミニウムがアノード(正極)として機能し、表面で酸化皮膜が形成されます。
この過程で、アルミニウム表面のAl³⁺カチオンと、電解質溶液中の酸素由来のアニオン(O²⁻)がイオン結合によってAl₂O₃の層を構成します。このアノード酸化皮膜は、微細孔を有する多孔質構造になり、その中に電解質溶液から追加のアニオン(例えば硫酸イオンSO₄²⁻やリン酸イオンPO₄³⁻)が組み込まれることで、皮膜の性質が決定されます。
リン酸塩処理では、鉄やマンガン、亜鉛などの金属カチオンが化学反応を通じてアニオンのリン酸塩イオン(PO₄³⁻)と結合し、金属表面に保護皮膜を形成します。この皮膜は主に低い電気伝導性を有し、さらなる塗装の密着基盤としても機能します。
腐食の本質は、金属原子がカチオンとして酸化され、アニオン性の酸化物や水酸化物と結合することで発生します。例えば、鉄の腐食では、Fe²⁺またはFe³⁺のカチオンがO²⁻やOH⁻のアニオンと結合して酸化鉄や水酸化鉄を形成します。
特に海水や塩分環境では、Cl⁻アニオンの浸透により、カチオンとアニオンのイオン結合が破壊され、さらに激しい局部腐食(ピッティング腐食)が発生します。
金属加工業者が腐食を防止する戦略としては、以下が挙げられます。
より深い知識として、アニオンの種類も腐食挙動に大きく影響することが知られています。硫酸イオン(SO₄²⁻)や塩化物イオン(Cl⁻)など、浸透性が高いアニオンは局部腐食を促進しますが、硫酸塩イオン(SO₄²⁻)中でも濃度や温度によって挙動が変わります。また、リン酸塩(PO₄³⁻)のような多価アニオンは、金属表面での沈着により腐食を抑制する効果も期待できます。
イオン結合の化学的基礎:日本薬学会による用語解説
金属表面処理技術と電化学的腐食に関するQ&A資料
異種金属接触腐食のメカニズムと対策について

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