ラジアル荷重だけで計算すると、実際の軸受寿命が計算値の3分の1以下になることがある。
金属加工の現場でベアリング(転がり軸受)を選定するとき、多くのエンジニアはカタログの基本動定格荷重Cと実荷重を比べて軸受を決めます。ところが実際の機械では、ラジアル荷重(軸に対して垂直方向)とアキシアル荷重(軸方向)が同時にかかるケースがほとんどです。
この複合した荷重を、そのまま基本動定格荷重と比べることはできません。そこで登場するのが「動等価荷重(P)」という考え方です。
動等価荷重とは、実際の複合荷重と同じ軸受寿命を与えるような、軸受中心を通る方向と大きさが一定の仮想の荷重のことです。簡単に言えば、「ラジアル+アキシアルの複合荷重を1つの数値に換算したもの」です。この換算値を使うことで、カタログ値との比較や寿命計算が可能になります。
基本動定格荷重Cと動等価荷重Pの関係から、基本定格寿命L10(単位:10⁶回転)は次の式で求まります。
| 軸受の種類 | 基本定格寿命の計算式 |
|---|---|
| 玉軸受 | L10 = (C/P)³ × 10⁶ 回転 |
| ころ軸受 | L10 = (C/P)^(10/3) × 10⁶ 回転 |
この式が示すとおり、Pが2倍になれば玉軸受の場合は寿命が8分の1(2³)になります。計算書上の荷重が実荷重の半分しか考慮されていなければ、設計寿命の約8倍の荷重がかかり、寿命は理論値のわずか12.5%になるということです。つまり寿命の計算は、動等価荷重の精度が命綱です。
参考として、寿命を時間(h)で表す場合は以下の式を使います。
$$L_{10h} = \frac{10^6}{60n} \times L_{10}$$
ここでnは回転数(min⁻¹)です。
ジェイテクト(KOYO):動等価荷重の計算 — ベアリングの基礎知識(荷重換算の公式と係数一覧)
ラジアル軸受の動等価荷重Prは、次の一般式で求めます。
$$P_r = X \cdot F_r + Y \cdot F_a$$
ここでFrはラジアル荷重、FaはアキシアL荷重、XはラジアL係数、YはスラストL係数です。
現場でよく起きる間違いが「常にX=1、Y=0を使えばいい」という思い込みです。これが通じるのは、アキシアル荷重とラジアル荷重の比Fa/Frが、カタログに記載されている限界値e以下の場合だけです。Fa/Fr > e の条件になると、X<1かつY>0の係数を使う必要があり、計算結果は大きく変わります。
具体的にどう変わるか、深溝玉軸受6206を例に示します。
| 条件 | Fr (N) | Fa (N) | e値(例) | Fa/Frの判定 | X | Y | 動等価荷重 Pr |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| アキシアル小 | 1,500 | 300 | 0.28 | 0.20 ≦ e → 以下 | 1 | 0 | 1,500 N |
| アキシアル大 | 1,500 | 500 | 0.28 | 0.33 > e → 超過 | 0.56 | 1.52 | 1,600 N |
この例で言えば、アキシアル荷重が500Nの場合にX=1、Y=0のまま計算すると、動等価荷重を1,500Nと見積もってしまいます。しかし正しい計算では1,600Nになり、約7%の誤差が生じます。荷重が大きいほど、またアキシアル荷重の割合が高いほど誤差は拡大します。
X・Y係数はカタログの軸受寸法表に記載されています。軸受の型番ごとに数値が異なるため、必ず使用する型番のカタログ値を確認することが原則です。
「e以下だからアキシアルは無視」という判断自体は正しいのですが、その前提となるe値の確認を省略している現場が少なくありません。アキシアル荷重が発生する構造(はすば歯車伝動、ベルト・チェーン張力、旋盤の切削抵抗など)では、必ずFa/Frを計算してからeと比較する手順を踏んでください。
NSK(日本精工):基本動定格荷重と疲れ寿命 — 軸受の負荷能力の定義と寿命算出の基礎
動等価荷重の計算で最も見落とされやすいのが「荷重係数fw」です。これが抜けると、設計上の寿命と実機での寿命が大幅にかけ離れる原因になります。
実際の機械では、理論計算で求めた荷重よりも大きな荷重が軸受にかかっています。振動・衝撃・急加減速・歯車伝達の動荷重など、机上の計算では捉えきれない力が常に上乗せされているからです。この上乗せ分を補正するのが荷重係数fwです。
補正後の動等価荷重は次のように求めます。
$$P_{補正} = f_w \times P_{理論}$$
荷重係数fwの目安は以下の通りです(JTEKT・NTNカタログより)。
| 使用条件 | fwの目安 | 金属加工現場での具体例 |
|---|---|---|
| 振動・衝撃なし(滑らか) | 1.0〜1.2 | 低速の搬送軸、検査装置 |
| 軽い衝撃・振動あり | 1.2〜1.5 | 工作機械主軸、汎用NC旋盤 |
| 中程度の衝撃 | 1.5〜3.0 | プレス機、鍛造機械、研削盤 |
| 重衝撃・強振動 | 3.0以上 | 圧延機、鋳造設備、ハンマー |
例えばfw=1.5を見落としてfw=1.0で計算したとします。動等価荷重が1.5倍になれば、玉軸受の寿命は1.5³≒3.4分の1になります。「計算では20,000時間もつはずなのに6,000時間で壊れた」という現場トラブルの背景には、このfwの軽視が潜んでいるケースが非常に多いです。
fw値は使用環境の実態から選ぶものであり、カタログの最小値を使えば安全というわけではありません。プレス機や鍛造機のように衝撃が大きい設備には、fw=2.0〜3.0を設定するのが現実的です。どの値を使うか迷う場合は、軸受メーカー(NSK・NTN・JTEKT等)の技術相談窓口に問い合わせる方法もあります。
ミスミ:部品の重量からわかるベアリング寿命計算例 — 動等価荷重の算出から寿命計算までの具体的な手順
金属加工の現場では、軸受に加わる荷重が常に一定ということはまずありません。切削中と空走中では荷重が異なり、送り方向によって向きも変わります。こうした変動荷重条件で動等価荷重を一定値として計算すると、実際の寿命と大きなズレが生じます。
そのために使うのが「平均動等価荷重Pm」です。これは、変動する荷重条件をまとめて1つの代表値に換算し、実際の寿命と一致する動等価荷重として扱います。
変動の種類によって計算方法が異なります。
ステップ |
荷重P (N) |
時間割合 |
|---|---|---|
荒加工 |
3,000 |
20% |
仕上加工 |
1,500 |
50% |
空走・位置決め |
400 |
30% |
この手順を省略して「外部アキシアル荷重がゼロだからアキシアルは無視」という計算をしてしまうと、内部発生アキシアル力を見落とした誤った設計になります。特に片側の軸受に荷重が集中するDB・DF配置では、2個の軸受の動等価荷重が大きく異なります。壊れる側の軸受を正確に把握しておかないと、突発停止の原因が「なぜか片側だけ先に壊れる」という形で繰り返されます。
このような計算の複雑さをカバーするために、NTNやNSKなどの主要軸受メーカーは、型番・荷重・回転数を入力するだけで寿命と動等価荷重を自動計算できるウェブツール(NSK「BRAIN」、NTN「軸受ナビ」等)を無料で提供しています。特に複雑な荷重条件での選定確認に積極的に活用することをおすすめします。
物質・材料研究機構(旧NMRI):機械設計工学 第5章 軸受の強度 — 動等価荷重の計算と深溝玉軸受の設計例