亜鉛メッキ上への塗装では、下地調整が塗装品質を決定する最も重要な工程です。表面には油分、ほこり、塩化�ンモニウムなどのメッキ平滑剤が付着しており、これらが残存したまま塗装を行うと、塗膜と基材の密着性が著しく低下してしまいます。
新設の溶融亜鉛メッキ鋼面に初めて塗装する場合、以下の手順で素地調整を進めます。まず、圧縮空気やウエスを使用して表面の粉塵やゴミを除去した後、油脂類の除去を行います。溶剤ぶきまたは石鹸と水を混ぜた溶液で表面を洗浄し、完全に乾燥させることが重要です。その後、研磨紙(P240~320番)で全面を平らに研磨する「足付け作業」を実施します。この研磨により、塗料が表面に引っかかる微細な凹凸が形成され、密着性が向上するのです。
既設の亜鉛メッキ面の場合は、ディスクサンダーやスクレーパーを用いて、劣化した塗膜や赤錆、白錆を除去します。特に白錆の除去が重要で、不安定な白錆が表面に残存していると塗膜の剥離原因となります。白酢を湿らせた布で表面をこすり、弱酸性の溶液が亜鉛を腐食させることで白錆を効果的に除去できます。ただし白酢の残留物は水分が塗膜密着性を低下させるため、純水で十分にすすぎ、完全に乾燥させる必要があります。
亜鉛メッキへの塗装で最大の課題は、亜鉛の高いイオン化傾向と塗料成分の反応です。亜鉛は一般的な鉄素材よりも活性が高く、油性やアルキッド系塗料に含まれるオレイン酸と反応して水溶性の金属石鹸を形成します。この金属石鹸は塗膜を脆くし、やがて剥がれてしまうため、これらの塗料は避けるべきです。
推奨される塗料として、常乾型であればエポキシ系塗料や塩化ゴム系塗料が挙げられます。2液型のエポキシ樹脂系錆止め塗料は密着性が高く、防錆効果に優れた強靭な塗膜を形成します。焼付型粉体塗料の場合は、エポキシ系またはアクリル系が適切です。また、水性無機塗料も有効で、亜鉛メッキの補修と耐久性向上に特に適しています。
ジンクリッチペイントと呼ばれる高濃度の亜鉛粉末を含む塗料(約85%)も選択肢となります。この塗料は亜鉛メッキと同じく「保護皮膜」を形成し、傷がついた場合には「犠牲防食」で鋼材を守ります。有機系と無機系の2種類が存在し、無機系は防食性や耐熱性で優位性を示します。
プライマー塗装は、亜鉛メッキと塗料の密着性を高める下地剤として極めて重要な役割を果たします。プライマーを塗布することで上塗り塗料が剥がれにくくなり、塗膜の耐久性が飛躍的に向上するのです。
エッチングプライマー(ウォッシュプライマー)はJIS K5633で規定された標準的な選択肢です。ポリビニルブチラール樹脂、ジンククロメート、リン酸を主成分とし、亜鉛メッキ表面にエッチング作用を持つことで密着性を大幅に改善します。エッチングプライマーの塗付量は0.05kg/㎡が標準で、塗布後2時間以上8時間以内に次の工程へ進む必要があります。
ただし、ジンク塗料を上塗りして耐食性を向上させる場合は、プライマーは不要です。亜鉛メッキ面とジンク塗料は直接触れさせる必要があり、プライマーを挟むことで亜鉛同士の密着効果がなくなってしまうからです。使用する上塗り塗料の種類によってプライマー塗布の要否が変わるため、塗料メーカーの仕様を確認することが不可欠です。
塗膜剥離の原因として、メッキ後の表面に残存する物質が見過ごされやすい課題です。溶融亜鉛メッキの冷却時に結晶境界線(スパングル)が生じ、その際にメッキの平滑性向上のための塩化アンモニウムや塩化亜鉛などの潮解性ワックスが表面に残存することがあります。これら潮解性物質は肉眼では判別が極めて困難ですが、塗膜の付着を著しく損ない、塗装後の剥離につながります。
また、亜鉛は強い反応性を持ち、pH値9~11で比較的安定しています。この範囲を超えるとイオン化が進行し、塗膜内の水分が壁または素材上の塩と反応し、密着性に影響を与えるのです。機械油や結露水分も亜鉛メッキの表面に付着しやすく、光沢のため異物付着が見た目で判別困難なため、施工前の検査体制が重要になります。
メッキの微小なピンホールや凹凸の問題も考慮が必要です。高い表面粗さがあると密着性が向上する傾向がありますが、過度な粗さや欠陥部分は塗料の流出やポケット形成の原因となります。したがって、適度な研磨による足付けが必要なのです。
溶融亜鉛メッキが剥がれた場合の補修では、剥離箇所の修復に ジンクリッチペイント(特に水性無機塗料のジンク系下地材)を使用します。まず2~3種のケレン作業で白錆や赤錆を完全に除去し、その上にジンク系下地材を0.15kg/㎡の塗布量で塗装します。乾燥時間は1~3時間が目安で、防錆のみが目的の場合はここで工事完成となります。
耐久性をさらに向上させる場合は、その上に機能性着色コート剤を2度塗りします。各塗布間隔は1~6時間の乾燥時間を設定し、塗り重ねることでセラミック膜が形成され、長期的な防錆効果が得られるのです。新設の溶融亜鉛メッキ鋼材に直接塗装する場合は、素地調整後に上記のコート剤を同様に2度塗りする方法が採用されます。
塩害地域での採用事例では、20年経過後も錆の発生が抑制されており、錆が出やすいボルト部分からも錆が発生していない実績があります。タフマックスNeoなどの水性無機塗料は、環境への配慮とともに難燃性1級認定を取得し、シンナー臭が発生しないため、住宅街での施工にも適しています。また、従来の重防食塗装と異なり省工程で効率的に作業が進められるため、交通規制が必要な高速道路やジャンクションなどの補修施工でも採用されています。
参考リンク:亜鉛メッキの補修塗装に関する技術的対応と環境配慮。タフマックスNeoは水性無機塗料として、VOC排出がなく、火気や有機溶剤の安全性リスクを軽減しながら高い防錆性能を実現します。
https://mkk-portal.com/column-painted-galvanized/
参考リンク:亜鉛メッキの種類と塗装における基本的な取り扱い方法。電気亜鉛メッキと溶融亜鉛メッキの特性の違い、および塗装時の注意点についての詳細説明。
https://www.brotherplating-recruit.jp/column/850/