SKD材の特徴と加工方法および用途解説

合金工具鋼であるSKD材の特性や種類、加工方法について詳しく解説します。金型や切削工具に適した選び方や加工のコツを知りたくありませんか?

SKDの特徴と種類

SKD材の基本情報
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合金工具鋼

SKD材は優れた耐摩耗性を持つ合金工具鋼で、金型製作に広く使用されています

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熱処理特性

熱処理により高硬度を実現し、用途に応じた特性調整が可能です

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多様な用途

冷間・熱間金型、切削工具、プレス型など幅広い工業製品に使用されています

SKD材とは?合金工具鋼の基礎知識

SKD材は優れた耐摩耗性を持つ合金工具鋼の一種です。名称の由来は「Steel Kougu Dice」の略称で、「Steel(鉄鋼)」「Kougu(工具)」「Dice(金型)」を意味しています。別名「ダイス鋼」とも呼ばれ、主に金型製作に使用される特殊鋼材です。

 

SKD材の特徴として、以下の点が挙げられます。

  • 0.55~1.50%の炭素を含有
  • クロム、モリブデン、バナジウムなどの合金元素を添加
  • 熱処理による高硬度化が可能
  • 耐摩耗性に優れる
  • 熱処理歪みが少ない

SKD材は日本工業規格(JIS G 4404:2015)に規定されており、冷間金型用や熱間金型用など用途によって様々な種類が存在します。番号は開発された順序を示すもので、特別な意味はありません。

 

炭素工具鋼と比較すると、SKD材は焼入れ性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性に優れているため、より過酷な条件で使用される工具や金型に適しています。

 

SKD11とSKD61の違いと用途比較

SKD材の中でも特に広く使用されている「SKD11」と「SKD61」について、その違いと用途を比較してみましょう。

 

【SKD11の特徴】

  • 冷間金型用ダイス鋼
  • 高い耐摩耗性(HRC60以上の高硬度)
  • 熱処理後の変形が少ない
  • クロム含有量が多く、比較的錆びにくい
  • 炭素含有量が1.4~1.6%と多い

【SKD61の特徴】

  • 熱間金型用ダイス鋼
  • 優れた耐熱性と靭性
  • モリブデンやバナジウムの含有量が多い
  • 強度と硬度のバランスが良い
  • 変形しにくく、汎用性が高い

【用途比較】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

種類 主な用途 特性
SKD11

- 金属刃物

- プレス型

- ねじ転造ダイス

- ゲージ

- 冷間加工用金型

 

高硬度、高耐摩耗性、放電加工性良好
SKD61

- ダイカスト型

- 熱間・温間鍛造

- ホットスタンピング金型

- 押出工具

- シャーブレード

 

耐熱性、靭性、変形抵抗性に優れる

選定の際は、使用温度環境や必要とされる特性を考慮することが重要です。冷間加工や高い耐摩耗性が必要な場合はSKD11を、熱間加工や熱衝撃に強い特性が必要な場合はSKD61を選ぶことが一般的です。

 

SKD材の熱処理による硬度変化と効果

SKD材の性能を最大限に引き出すためには、適切な熱処理が不可欠です。熱処理によって材料の硬度、強度、耐摩耗性などの特性が大きく変化します。

 

【SKD11の熱処理プロセス】

  1. 焼きなまし:830~880℃の高温で行い、加工性を向上
  2. 焼入れ:1000~1050℃の高温から急冷し、硬度を上げる
  3. 焼戻し:適切な温度で加熱し、靭性を調整

熱処理によりSKD11はHRC60以上の高硬度を達成することが可能です。密度は7.80g/cm³となり、非常に高強度かつ高硬度な特性を持つようになります。

 

【熱処理温度と硬度の関係】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焼戻し温度 硬度(HRC) 特性
150~200℃ 60~62 最高硬度、耐摩耗性最大、靭性低
400~450℃ 56~58 高硬度維持、靭性向上
500~550℃ 52~54 バランスの取れた硬度と靭性

熱処理後の特性を更に向上させるため、以下のような表面処理を施すこともあります。

  • 硬質クロムメッキ:耐摩耗性と耐食性の向上
  • 窒化処理:表面硬度の向上(HV1000以上)
  • PVD/CVD処理:耐摩耗性・耐熱性の向上、摩擦係数の低減

これらの処理によって、SKD材の寿命延長やパフォーマンス向上が期待できます。使用環境や求められる特性に応じて、最適な熱処理条件を選択することが重要です。

 

SKD材の加工方法と加工時の注意点

SKD材は高硬度を特徴とする素材であるため、加工方法と加工タイミングの選択が非常に重要になります。一般的には、熱処理前に主要な形状加工を行い、熱処理後に仕上げ加工を行うというプロセスを取ります。

 

【熱処理前の加工】
SKD材は熱処理前であれば、比較的容易に切削加工が可能です。S45Cなどの炭素鋼と比較すると被削性は劣りますが、標準的な切削工具で加工することができます。

 

熱処理前の加工のポイント。

  • 熱処理による変形を見越した寸法設定
  • 仕上げ代を適切に残す(0.2~0.5mm程度)
  • シャープな切削工具の使用(工具摩耗に注意)
  • 切削油剤の十分な供給
  • 適切な切削速度と送り量の設定

【熱処理後の加工】
熱処理後のSKD材は非常に硬くなるため、切削加工が困難になります。そのため、以下のような加工方法が主に用いられます。

  1. 研削加工:精度調整や表面仕上げに使用
    • 適切な砥石選定(CBNやダイヤモンド砥石など)
    • 研削熱による変形に注意
    • 十分な冷却と適切な送り速度
  2. 放電加工:複雑形状や深穴加工に有効
    • SKD11は放電加工による変形が少ない特性を持つ
    • 熱処理後の精密加工に適している
    • 加工速度よりも精度を重視する場合に選択
  3. ワイヤーカット加工:精密な輪郭形状の加工に適する
    • 複雑な形状も高精度で加工可能
    • 熱影響層に注意が必要

【加工精度に影響する要因】
SKD材の加工精度に影響する主な要因は以下の通りです。

  • 熱処理前後の寸法変化(0.1~0.3%程度の収縮)
  • 熱処理による歪み
  • 加工熱による局所的な変形
  • 残留応力の発生と解放

これらの要因を考慮し、最終製品の要求精度に応じて適切な加工プロセスを選択することが重要です。特に高精度が求められる部品では、熱処理後の仕上げ加工に十分な時間と工程を割り当てる必要があります。

 

SKD材の選定ポイントと市場動向分析

金型や工具の製作におけるSKD材の選定には、用途や要求特性を十分に理解することが重要です。ここでは、実務者向けの選定ポイントと市場の最新動向について解説します。

 

【選定の主要ポイント】

  1. 使用温度環境
    • 常温~200℃程度:SKD11などの冷間ダイス
    • 200℃以上:SKD61などの熱間ダイス鋼
  2. 耐摩耗性の要求度
    • 高い耐摩耗性が必要:SKD11(HRC60以上)
    • バランス型:SKD61(強度と靭性のバランス)
  3. 加工性と経済性
    • コスト重視:汎用グレードのSKD材
    • 特殊用途:改良型/高性能SKD材
  4. 製品寿命とメンテナンス
    • 頻繁な交換可能:標準グレード
    • 長寿命要求:表面処理併用型

【最近の市場動向と新しい取り組み】
近年のSKD材市場では、以下のような動向が見られます。

  • 高機能化・高性能化:従来のSKD材に特殊元素を添加した改良型合金の開発
  • 環境配慮型製品レアメタル使用量削減や製造時CO2排出削減に配慮した新グレードの登場
  • 表面処理技術との融合:SKD材のベース特性と最新表面処理技術を組み合わせたハイブリッド製品

特に注目すべきは、従来のSKD11やSKD61をベースに、特殊熱処理や微量元素添加によって特性を向上させた「第三世代」と呼ばれる新タイプのSKD材の登場です。これらは従来材の2~3倍の耐久性を持ちながら、加工性を維持するという特徴があります。

 

【選定のための実践的アプローチ】
実際の選定においては、以下のステップを踏むことをお勧めします。

  1. 要求特性の明確化(硬度、耐摩耗性、耐熱性など)
  2. 使用環境の特定(温度、接触材料、潤滑条件など)
  3. コスト制約の確認(材料費、加工費、メンテナンス費)
  4. 複数候補からのテスト評価(可能であれば)

また、近年では材料メーカーが提供する技術サポートやシミュレーションツールを活用することで、より最適なSKD材の選定が可能になっています。これらのサービスを積極的に利用することも、選定の精度を高める有効な手段です。

 

最後に、SKD材選定の最新情報を入手するためには、材料メーカーの技術資料やセミナー、展示会などを定期的にチェックすることをお勧めします。特に、金型技術や工具技術の専門展示会では、最新のSKD材応用事例や開発動向を知ることができます。

 

日本鉄鋼連盟の技術資料ページでは、最新の特殊鋼材に関する情報が公開されています
以上、SKD材についての基礎知識から選定ポイント、最新動向まで幅広く解説しました。金型や工具の設計・製作における材料選定の一助となれば幸いです。