SKD材は優れた耐摩耗性を持つ合金工具鋼の一種です。名称の由来は「Steel Kougu Dice」の略称で、「Steel(鉄鋼)」「Kougu(工具)」「Dice(金型)」を意味しています。別名「ダイス鋼」とも呼ばれ、主に金型製作に使用される特殊鋼材です。
SKD材の特徴として、以下の点が挙げられます。
SKD材は日本工業規格(JIS G 4404:2015)に規定されており、冷間金型用や熱間金型用など用途によって様々な種類が存在します。番号は開発された順序を示すもので、特別な意味はありません。
炭素工具鋼と比較すると、SKD材は焼入れ性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性に優れているため、より過酷な条件で使用される工具や金型に適しています。
SKD材の中でも特に広く使用されている「SKD11」と「SKD61」について、その違いと用途を比較してみましょう。
【SKD11の特徴】
【SKD61の特徴】
【用途比較】
種類 | 主な用途 | 特性 |
---|---|---|
SKD11 |
- 金属刃物
|
高硬度、高耐摩耗性、放電加工性良好 |
SKD61 |
- ダイカスト型
|
耐熱性、靭性、変形抵抗性に優れる |
選定の際は、使用温度環境や必要とされる特性を考慮することが重要です。冷間加工や高い耐摩耗性が必要な場合はSKD11を、熱間加工や熱衝撃に強い特性が必要な場合はSKD61を選ぶことが一般的です。
SKD材の性能を最大限に引き出すためには、適切な熱処理が不可欠です。熱処理によって材料の硬度、強度、耐摩耗性などの特性が大きく変化します。
【SKD11の熱処理プロセス】
熱処理によりSKD11はHRC60以上の高硬度を達成することが可能です。密度は7.80g/cm³となり、非常に高強度かつ高硬度な特性を持つようになります。
【熱処理温度と硬度の関係】
焼戻し温度 | 硬度(HRC) | 特性 |
---|---|---|
150~200℃ | 60~62 | 最高硬度、耐摩耗性最大、靭性低 |
400~450℃ | 56~58 | 高硬度維持、靭性向上 |
500~550℃ | 52~54 | バランスの取れた硬度と靭性 |
熱処理後の特性を更に向上させるため、以下のような表面処理を施すこともあります。
これらの処理によって、SKD材の寿命延長やパフォーマンス向上が期待できます。使用環境や求められる特性に応じて、最適な熱処理条件を選択することが重要です。
SKD材は高硬度を特徴とする素材であるため、加工方法と加工タイミングの選択が非常に重要になります。一般的には、熱処理前に主要な形状加工を行い、熱処理後に仕上げ加工を行うというプロセスを取ります。
【熱処理前の加工】
SKD材は熱処理前であれば、比較的容易に切削加工が可能です。S45Cなどの炭素鋼と比較すると被削性は劣りますが、標準的な切削工具で加工することができます。
熱処理前の加工のポイント。
【熱処理後の加工】
熱処理後のSKD材は非常に硬くなるため、切削加工が困難になります。そのため、以下のような加工方法が主に用いられます。
【加工精度に影響する要因】
SKD材の加工精度に影響する主な要因は以下の通りです。
これらの要因を考慮し、最終製品の要求精度に応じて適切な加工プロセスを選択することが重要です。特に高精度が求められる部品では、熱処理後の仕上げ加工に十分な時間と工程を割り当てる必要があります。
金型や工具の製作におけるSKD材の選定には、用途や要求特性を十分に理解することが重要です。ここでは、実務者向けの選定ポイントと市場の最新動向について解説します。
【選定の主要ポイント】
【最近の市場動向と新しい取り組み】
近年のSKD材市場では、以下のような動向が見られます。
特に注目すべきは、従来のSKD11やSKD61をベースに、特殊熱処理や微量元素添加によって特性を向上させた「第三世代」と呼ばれる新タイプのSKD材の登場です。これらは従来材の2~3倍の耐久性を持ちながら、加工性を維持するという特徴があります。
【選定のための実践的アプローチ】
実際の選定においては、以下のステップを踏むことをお勧めします。
また、近年では材料メーカーが提供する技術サポートやシミュレーションツールを活用することで、より最適なSKD材の選定が可能になっています。これらのサービスを積極的に利用することも、選定の精度を高める有効な手段です。
最後に、SKD材選定の最新情報を入手するためには、材料メーカーの技術資料やセミナー、展示会などを定期的にチェックすることをお勧めします。特に、金型技術や工具技術の専門展示会では、最新のSKD材応用事例や開発動向を知ることができます。
日本鉄鋼連盟の技術資料ページでは、最新の特殊鋼材に関する情報が公開されています
以上、SKD材についての基礎知識から選定ポイント、最新動向まで幅広く解説しました。金型や工具の設計・製作における材料選定の一助となれば幸いです。