溶融塩太陽熱発電は、太陽の熱エネルギーを溶融塩に蓄えて電力を生成する革新的な再生可能エネルギー技術です。このシステムでは、ナトリウム硝酸塩やカリウム硝酸塩などの塩類を高温で融解させ、300℃から560℃の温度範囲で運用します。溶融塩は高い比熱容量と低い蒸気圧を持ち、長時間の蓄熱が可能で、太陽光が届かない時間帯でも電力を供給できる利点があります。
参考)溶融塩蓄熱の効率は?太陽熱発電での熱エネルギー貯蔵
太陽光を集光ミラーで集めて溶融塩を加熱し、高温タンクに蓄えるシステム構成により、熱エネルギーの吸収と貯蔵を効率的に行います。蓄積された熱エネルギーは蒸気タービンを駆動するために利用され、電力を生成する仕組みとなっています。このプロセスにより、太陽光の変動に関係なく安定した電力供給が実現されます。
現在運用されている溶融塩蓄熱システムには、主に直接2槽式と間接2槽式の2つの方式があります。直接2槽式では、熱媒体として使用する溶融塩を直接タンクに貯蔵するシステムで、高温タンクと低温タンクの2つに分けて管理されます。一方、間接2槽式は基本構成は同じですが、熱媒体と蓄熱媒体に異なる物質を使用する方式です。
参考)https://shingi.jst.go.jp/pdf/2021/2021_niigata-u_001.pdf
また、新たな技術として温度躍層単槽式(サーモクライン)システムも開発されており、タンク内の溶融塩に温度勾配を設けることで、2槽式よりもコストを削減できる特徴があります。2012年にはスペインのValle 1&2プラントに7.5時間の蓄熱容量を持つこのシステムが導入されました。これらの技術革新により、蓄熱効率の向上と設備コストの削減が同時に実現されています。
溶融塩を用いた太陽熱発電システムの効率性は非常に高く、蓄熱効率は90-95%に達し、コストは150-200USD/kWhという競争力のある水準を実現しています。アメリカのセリンダ太陽熱発電所では、約1,000メガワットの発電能力と約2,300メガワット時の蓄熱容量により、夜間でも最大8時間の連続運転が可能です。
蓄熱コストを1kWhあたり約0.1ドルに抑えることが可能で、他の蓄熱技術と比較して長期的な運用コストの削減を実現します。この経済性の高さは、溶融塩の安価な材料費と長期間の運用による償却効果によるものです。さらに、太陽光の発電量が変動する中でも安定した電力供給を可能にし、電力系統の安定性向上に貢献しています。
溶融塩太陽熱発電システムには、いくつかの技術的課題が存在します。最も大きな課題は溶融塩の腐食性で、金属に対して腐食性があるため、適切な材料選定と防腐技術の開発が必要です。また、硝酸塩系溶融塩の融点が230℃以上と高いため、固化を防ぐために常に40-50℃高い温度を維持する必要があり、特に冬季の夜間では昇温のためのエネルギー消費が増大します。
これらの課題に対して、米国サンディア国立研究所では低融点の硝酸塩系溶融塩の開発が進められており、硝酸リチウムなどを加えた3成分系、4成分系の溶融塩で100℃以下の融点を達成しています。高温管理システムの設計とメンテナンス技術の向上により、運用の安全性と効率性を両立させる取り組みが続けられています。さらに、初期投資の高額化という課題に対しては、技術の成熟化と量産効果によるコスト削減が期待されています。
金属加工業界では、高温プロセスにおける安定した熱供給が不可欠であり、溶融塩太陽熱発電技術の応用が注目されています。特に、鉄鋼業や非鉄金属製錬において、600℃以上の高温蓄熱技術の需要が高まっており、塩化物系溶融塩や金属Na、固体粒子(金属酸化物等)などの新しい蓄熱媒体の研究が進んでいます。これらの高温蓄熱技術により、金属加工プロセスの効率化と脱炭素化を同時に実現できる可能性があります。
金属系材料を使用した高温潜熱蓄熱技術では、従来の硝酸塩系溶融塩では達成できない600℃以上での蓄熱が可能になり、発電効率の大幅な向上が期待されています。また、金属加工業界特有の間欠的な高温需要に対応するため、太陽熱発電システムと既存の産業用ボイラシステムを組み合わせたハイブリッド化により、エネルギー供給の安定性と経済性を両立させることができます。工場内のプロセスヒート供給源としての活用により、化石燃料の代替と製造コストの削減が実現可能です。
参考)https://www.chuden.co.jp/resource/seicho_kaihatsu/kaihatsu/techno/techno_naiyou2015/techno_naiyou2015_07.pdf