熱電変換は、温度差により直接電圧を発生させるゼーベック効果を利用した技術である 。2種類の異なる導体や半導体を接合した熱電素子において、高温側と低温側に温度差を設けることで、熱エネルギーが電気エネルギーに直接変換される仕組みとなっている 。
参考)熱電発電について
従来の火力発電では、熱エネルギーをまず運動エネルギーに変換してからタービンで発電するのに対し、熱電変換は中間工程を経ずに直接変換できる点が特徴的である 。この直接変換により、微小な熱から電気を取り出すことが可能となり、従来は利用困難だった低温排熱の活用道を開いている 。
参考)https://dept.tus.ac.jp/st/souiki-journal/5852
温度範囲によって最適な熱電材料が使い分けられており、常温から500Kまではビスマス・テルル系、500-800Kでは鉛・テルル系、800-1000Kではシリコン・ゲルマニウム系が主に用いられている 。
参考)熱電発電 - Wikipedia
金属加工技術を応用した熱電変換技術の研究が進められており、塑性変形による材料特性の改善が注目されている 。金属に応力を加えて組織を変化させることで、ゼーベック係数を従来の最大3.12µV/Kまで向上できることが実証されている 。
参考)https://www.iee.jp/pes/wp-content/uploads/sites/3/2022/02/R3_4.pdf
工場での金属加工プロセスから発生する排熱は、熱電発電の有力な熱源として位置づけられている 。製鉄所や金属加工工場では、連続鋳造設備や高温処理設備から大量の排熱が発生しており、これらを熱電発電システムで回収することで年間30トンのCO2削減効果が期待されている 。
参考)https://www.yanmar.com/jp/about/ygc/news/2025/01/24/146874.html
ヤンマーホールディングスが開発した熱電発電システムでは、工場の高温ガス排熱から独自の熱交換技術によりエネルギー回収を行い、CO2フリーでkW級の自家発電を実現している 。
シリコンゲルマニウム(SiGe)系材料では、室温近傍で従来の約3倍の熱電変換出力因子を達成する技術が開発されている 。この技術は、温度分布制御によるサーマルマネジメント法と不純物添加による共鳴準位形成を組み合わせたもので、従来は高温域での使用に限られていたSiGe材料の室温利用を可能にしている 。
参考)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2102/02/news028.html
酸化物熱電材料の分野では、カルシウム・コバルト酸化物(Ca3Co4O9)やカルシウム・マンガン酸化物(CaMnO3)が実用化されており、800℃の高温空気中でも安定した発電性能を示している 。これらの材料を用いた熱電発電装置は、200℃でLEDライト点灯、400℃でセンサー計測とワイヤレス送信、500℃でワンセグテレビ充電まで可能としている 。
参考)産総研:200 ℃から800 ℃の熱でいつでも発電できる熱電…
テルル化ゲルマニウム(GeTe)材料では、電子構造の精密制御により室温付近での熱電変換出力因子を既存材料の最大2倍に向上させることに成功している 。
参考)発電性能を倍増させる電子構造の精密制御|環境・エネルギー|事…
熱電発電の実用化には変換効率の向上が不可欠であり、複数の技術的アプローチが採用されている 。熱電発電モジュールでは、1個の熱電素子で得られる電圧が小さいため、複数の素子を電気的に直列接続して高電圧出力を実現している 。
参考)https://www.yanmar.com/jp/about/technology/technical_review/2022/08_7.html
KELKが開発した熱電発電ユニットでは、1.5m×1.5mの面積で10kWの発電を実現し、完全防水構造により200℃以上の温度変化に耐える設計を採用している 。耐久性評価では1万サイクルの温度変化後も発電出力劣化が1%以下に抑えられ、10年相当の長期使用に対応できることが確認されている 。
参考)https://www.komatsu.jp/ja/-/media/home/aboutus/innovation/technology/techreport/2024/ja/177-j02.pdf?rev=e19f9cab327847b4824dcfefbc4d4166amp;hash=9611CD8C0DEF180D6BFE7332C99F610F
フレキシブル熱電モジュールの開発では、ビスマス・テルル材に遷移金属をドーピングすることで発電性能を従来の1.5倍に向上させ、湾曲した熱源に対して温度差70℃で87mW/cm²の高い発電性能を実現している 。
参考)産総研:高出力フレキシブル熱電モジュールの開発
産業現場における熱電発電システムの実装では、高い信頼性とメンテナンス性が重要な要素となっている 。熱電発電システムは可動部がなく、騒音や振動も発生しないため、従来の発電システムと比較してメンテナンス頻度を大幅に削減できる利点がある 。
参考)熱電材料による未利用熱の有効活用
工場排熱利用の具体例として、製鉄所の連続鋳造設備では平均3回/日の温度サイクルが発生するが、適切な防水構造と応力緩和設計により長期間の安定稼働が可能となっている 。遠隔地での電源供給システムでは、NEDOの助成によりバッテリーマネージメントシステム(BMS)を装備した二次電池システムとの組み合わせ開発が進められている 。
参考)https://e-thermo.securesite.jp/pr20240830.pdf
三菱製鋼では、毒性元素や希少元素を使用しない独自の熱電材料開発を進めており、製造性を考慮した粉末ベースの材料により工場排熱の有効活用を図っている 。このようなシステムは、太陽光発電やEV用二次電池システムと組み合わせることで、分散型電源システム(VPP)の重要な構成要素として期待されている 。