応力緩和とは、材料に一定のひずみ(変形)を与えた状態で、時間の経過とともに内部の応力が減少していく現象です 。この現象は金属内部の原子レベルでの微視的な変化によって引き起こされ、特に高温環境では進行が早くなります 。
参考)~粘弾性基礎講座/第2回 クリープと応力緩和~ 株式会社ユー…
応力緩和の測定方法として、試験片を一定の温度に保持し、規定の初期荷重(応力)を与えて全ひずみ状態にし、その状態を維持しながら時間経過に伴う応力低下量を測定します 。一般的な測定装置には、溶融粘弾性測定装置ARES-G2やリラクセーション試験機が使用されます 。
参考)リラクセーション試験
常温における応力緩和試験では、引張試験の途中でクロスヘッドを停止し、荷重の低下が停止するまでクロスヘッド変位を保持することで測定が可能です 。この測定により、材料の長期的な安定性や使用環境での性能劣化を予測できます 。
参考)https://www.cerij.or.jp/service/05_polymer/rheology_stress-relaxation.html
クリープとは、材料に一定の応力を継続的に作用させると、時間とともにひずみ(変形)が進行していく現象です 。金属材料では融点(絶対温度K)の0.3-0.4倍程度の高温域からクリープ現象が明確に起こり始め、鉄鋼材料では約600℃以上で顕著に発生します 。
参考)金属のクリープ現象とクリープモデル
クリープ現象は、遷移クリープ(第I期)、定常クリープ(第II期)、加速クリープ(第III期)の3つの段階に分類されます 。遷移クリープでは熱により転位の移動が活発になり、応力集中部分に転位が集積して加工硬化が起こります。定常クリープでは加工硬化と加工軟化がバランスした状態となり、ひずみ速度がほぼ一定になります 。
参考)クリープ破壊
クリープ破壊は、粒内クリープ変形と粒界すべりによる粒界三重点でのくさび型き裂発生、または空孔の生成拡散によるキャビティの発生により進行し、最終的には粒界割れに至ります 。このため、高温環境で使用される部材では、クリープ特性を十分に考慮した設計が不可欠です。
応力緩和とクリープは、どちらも温度に依存する現象ですが、その発現温度と進行速度には重要な違いがあります。応力緩和は比較的低温からも発生し、常温においても長時間では測定可能な現象として観察されます 。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/83/9/KJ00002669482.pdf
一方、クリープは金属材料において融点の約半分の温度から明確に発生し始めます。鋼材の場合、約600℃以上で顕著になり、それ以下の温度では変形速度が極めて小さく、通常の機械部品では問題になりません 。
参考)金属のクリープについて
温度上昇による影響として、応力緩和では材料の許容応力が低下し、これが熱膨張による応力増加と相まって複雑な現象を引き起こします 。特に異なる熱膨張係数を持つ材料が接合された構造では、温度変化により界面に大きな応力集中が発生し、応力緩和による接合強度の低下が問題となります 。
参考)応力緩和について - オイレス工業株式会社
金属加工現場での応力緩和対策として、熱処理による内部応力の除去が最も効果的です 。溶接や鋳造工程で発生した内部応力は、適切な焼きなまし処理により緩和できます。この処理により、反りやひび割れなどの問題を予防し、製品の寸法安定性を向上させます 。
参考)金属の熱処理: 知っておくべきすべて
高温環境で使用される部材では、応力緩和を抑制するための特殊な材質選択や表面処理が重要です 。例えば、ばねのように荷重を受け続ける部品では、応力緩和により弾性力が徐々に低下し、設計した性能が発揮されなくなる恐れがあります。
参考)応力緩和|シガスプリング株式会社
金属間化合物の利用も有効な対策の一つです。Ni₃Al系化合物のように、温度上昇とともに降伏強度が増大する特異な塑性挙動を示す材料を中間層に使用することで、低温での塑性変形により熱応力を効果的に緩和できます 。この手法は、セラミックスと金属の接合など、異種材料接合において特に有効です。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61550539/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61550539/amp;mdash; 研究課題をさがす
クリープ評価では、材料の異方性を考慮することが重要です 。特に圧延材や鍛造材などの加工材では、加工方向により材料特性が大きく異なるため、使用方向を考慮したクリープ試験が必要です。
参考)Femtetヘルプ
クリープ定数の設定においては、べき乗則による表現が一般的で、応力と時間の関数として以下の式で定義されます:ε = a₀σᵃ¹tᵃ² 。ここで、a₀、a₁、a₂はクリープ定数であり、材料固有の値として実験的に決定されます。
異方性材料の場合、材料の主軸方向とクリープ特性の関係を明確にする必要があります 。例えば、木材のような天然材料では年輪傾角に依存してクリープ特性が変化するため、用途に応じた方向性の考慮が不可欠です。金属材料においても、結晶方位や加工履歴による異方性がクリープ特性に大きく影響します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/34/383/34_383_937/_pdf