ターニング加工の種類とNC旋盤の切削条件とプログラム

ターニング加工は、旋盤を用いて工作物を回転させ、刃物を当てて削る切削加工の一種です。この記事では、外径・内径加工といった基本的な種類から、NC旋盤における切削条件の最適化、さらには複合加工機などの最新技術までを網羅的に解説します。しかし、ターニング加工の可能性をさらに広げる「インターポレーションターニング」という技術をご存知でしょうか?

ターニング加工の全てを徹底解説

この記事でわかること
💡
ターニング加工の基本

ターニング加工がどのような加工方法で、どのような種類があるのか、その基礎知識が身に付きます。

⚙️
精度向上の秘訣

NC旋盤での切削条件やプログラム作成のコツ、適切な工具選定など、加工精度を高めるための具体的なノウハウを学べます。

🚀
未来の技術

複合加工機やインターポレーションターニングといった、ターニング加工の未来を切り拓く最新技術の動向を把握できます。

ターニング加工の基本と種類:外径・内径・溝入れ加工の違い

 

ターニング加工は、旋盤加工とも呼ばれ、切削加工の最も基本的な手法の一つです 。その最大の特徴は、加工する対象物(ワーク)を回転させ、そこに固定した切削工具(バイト)を当てることで形状を作り出す点にあります 。円筒状の部品やシャフト、フランジといった、回転対称の形状を持つ部品の製造に広く用いられています 。木工でこけしを作る様子や、野球のバットを削り出す工程をイメージすると分かりやすいかもしれません 。
ターニング加工は、加工する箇所によって、いくつかの基本的な種類に分類されます。それぞれの加工方法を理解し、適切に使い分けることが、高精度な部品を効率よく作り出すための第一歩となります。

     

  • 🔩 外径加工(外丸削り): ワークの外周を削り、直径を小さくしたり、段差をつけたりする最も基本的な加工です 。ワークの軸に平行にバイトを動かすことで、 cylindrical(円筒)形状を作り出します。
  •  

  • 🕳️ 内径加工(中ぐり): ドリルなどで事前に開けられた穴の内側を削り、穴の直径を広げたり、内壁を滑らかに仕上げたりする加工です 。ボーリングとも呼ばれます。
  •  

  • ፊት 端面加工: ワークの端面(回転軸に対して垂直な面)を平らに削る加工です 部品の長さを正確に決めたり、他の部品との接合面をきれいに仕上げたりする際に不可欠です。
  •  

  • 🧵 ねじ切り加工: ワークの外周に雄ねじを、内周に雌ねじを切る加工です 。ねじ専用のバイトを使用し、ワークの回転とバイトの送りを正確に同期させる必要があります。
  •  

  • 🔪 突切り加工: ワークに深い溝を入れ、最終的に切断するための加工です 。幅の狭い専用のバイトを使用します。
  •  

  • 〰️ 溝入れ加工: ワークの外周や内周、端面に溝を掘る加工です 。Oリングをはめる溝や、キー溝など、様々な目的で行われます。
  •  

  • 📐 テーパ加工: ワークを円錐状に削る加工です 。旋盤の刃物台を傾ける方法や、NC旋盤の機能を使って行います。

これらの基本的な加工を組み合わせることで、非常に複雑な形状の部品も作り出すことが可能です 。近年では、コンピュータ数値制御(CNC)を搭載したNC旋盤が主流となり、プログラムを入力するだけで、初心者でも高精度な加工を自動で行えるようになっています 。


旋盤加工の基本的な加工方法や種類について、図解入りで分かりやすく解説されています。
旋盤加工(ターニング)の特徴や代表的な加工方法を解説! | meviy | ミスミ


ターニング加工の精度を左右するNC旋盤の切削条件とプログラム作成のコツ

NC旋盤を使えば、誰でもある程度の精度の加工は可能ですが、真に高精度な製品を生み出すためには、切削条件とNCプログラムの最適化が不可欠です。これらは加工の品質、効率、工具の寿命に直接影響を与える、非常に重要な要素です 。
切削条件の三大要素は、「切削速度」「送り量」「切り込み量」です 。これらのバランスをいかに取るかが、熟練技術者の腕の見せ所と言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切削条件 内容 影響
💨 切削速度 (m/min) ワークの回転する周速のこと 。工具の刃先が1分間に削り進む距離を表します。 加工面の仕上がり(表面粗さ)や工具の寿命に大きく影響します。速すぎると工具摩耗が激しくなり、遅すぎると加工能率が低下します。
➡️ 送り量 (mm/rev) ワークが1回転する間に、バイトがどれだけ移動するかという距離です 。 加工能率と加工面に影響します。大きいほど能率は上がりますが、加工面は粗くなる傾向にあります。
DEPTH 切り込み量 (mm) バイトの刃先がワークにどれだけ深く食い込むかという量です。 加工能率に直結しますが、大きすぎると切削抵抗が増大し、工具の欠損や機械への負担増につながります。

これらの条件は、被削材の材質(硬さ、粘り強さ)や使用する工具の材質、機械の剛性などを総合的に考慮して決定する必要があります 。例えば、ステンレスのような硬い材料を加工する場合は、切削速度を遅く、送り量を小さくして、工具の摩耗を抑えながら慎重に加工します。一方、アルミニウムのような柔らかい材料は、切削速度を速く、送り量を大きくして、効率的に加工を進めることができます 。
また、NCプログラムの質も加工精度を大きく左右します。NCプログラムは、Gコード(移動指令)やMコード(機械の補助動作指令)などを組み合わせて作成されます。最近のNC旋盤では、「極座標補間」という機能を使うことで、X軸(直線軸)とC軸(回転軸)を同期させ、まるでフライス加工のように複雑な輪郭形状を削り出すことも可能になっています 。このような高度な機能を使いこなすことで、加工の幅は格段に広がります。


切削条件の基本的な考え方や、計算方法について詳しく解説されています。
ターニングの計算式の使い方 | 技術情報 | MITSUBISHI MATERIALS CORPORATION


ターニング加工で使われる工具(バイト)の選定と寿命を延ばす秘訣

ターニング加工の主役は、言うまでもなく切削工具である「バイト」です 。どのようなバイトを、どのように使うかが、加工の成否を分けると言っても過言ではありません。バイトは、その形状や材質によって様々な種類があり、加工内容に応じて適切なものを選択する必要があります。
代表的なバイトの種類としては、以下のようなものがあります。

     

  • 剣バイト: 刃先が剣のように尖っており、曲面やテーパ面の加工など、複雑な形状の加工に適しています 。
  •  

  • 片刃バイト: 主に外径や端面を削るのに使われる、最も一般的なバイトです。
  •  

  • 突切りバイト: 刃先が薄く、ワークの溝入れや切断に使用されます 。
  •  

  • ねじ切りバイト: 雄ねじや雌ねじを切るための専用バイトです 。
  •  

  • 穴ぐりバイト: ドリルで開けた穴を広げたり、内面をきれいに仕上げたりするために使用します 。

近年では、刃先だけを交換できる「スローアウェイバイト」が主流です 。刃先(チップ)が摩耗したら交換するだけで済むため、工具管理が容易で経済的です。このチップの選定も非常に重要で、材質、形状(チップブレーカ)、コーティングの有無など、考慮すべき点は多岐にわたります。チップのケースには、推奨される被削材や切削条件が記載されているため、必ず確認するようにしましょう 。
工具の寿命を最大限に引き出すためには、以下の点が重要になります。

     

  1. 適切な切削条件の設定: 無理な条件での加工は、工具の摩耗を早める最大の原因です 。特に、切削速度は工具寿命に最も大きな影響を与えます。
  2.  

  3. 切削液の適切な使用: 切削液には、潤滑、冷却、切りくずの排出といった重要な役割があります。適切な種類の切削液を、適切な量と圧力で供給することで、工具の摩耗を大幅に抑制できます 。
  4.  

  5. 切りくずの管理: 切りくずが工具に絡まったり、加工面に噛み込んだりすると、工具の欠損や仕上げ面の悪化につながります 。チップブレーカの選定や切削条件の調整により、切りくずが適切に分断・排出されるようにコントロールすることが重要です 。

工具は消耗品ですが、正しい知識を持って丁寧に扱うことで、その寿命を延ばし、結果としてコストダウンと品質向上につなげることができます。

ターニング加工の未来:複合加工機とインターポレーションターニングの可能性

ターニング加工の技術は、日々進化を続けています。その中でも特に注目されているのが、「複合加工機」と「インターポレーションターニング」です。これらは、従来のターニング加工の常識を覆し、ものづくりの可能性を大きく広げる技術と言えるでしょう。
複合加工機(ターニングセンタ)は、NC旋盤にマシニングセンタの機能(フライス削り、穴あけなど)を融合させた工作機械です 。従来であれば、旋盤加工の後にマシニングセンタへワークを移動させて追加工を行っていたような部品でも、複合加工機なら1台で全ての加工を完結させることができます(工程集約) 。これにより、以下のような大きなメリットが生まれます。

     

  • 生産性の飛躍的向上: ワークを付け替える「段取り替え」の時間が不要になり、リードタイムが大幅に短縮されます 。
  •  

  • 🎯 高精度化: 一度チャッキング(固定)したまま全加工を行うため、付け替え時に発生する誤差がなくなり、部品の精度が向上します。
  •  

  • 🏭 省スペース・省人化: 複数の機械が1台に集約されるため、工場のスペースを有効活用でき、機械を操作する人員も削減できます。

そして、さらに新しい技術として登場したのがインターポレーションターニング(補間旋削)です 。これは、マシニングセンタや複合加工機のミーリング主軸(工具を回転させる主軸)を利用して、旋削加工を行う革新的な技術です。工具とワークの両方を同期させて回転・移動させることで、固定されたバイトでは不可能な、非常に自由度の高い加工を実現します。例えば、通常は加工が困難な大径のワークや、アンバランスな形状のワークでも、高精度な旋削加工が可能になります。DMG森精機などの大手工作機械メーカーが、この技術を搭載した機械を次々と発表しており、今後の普及が期待されています 。
このように、ターニング加工はもはや単純な「丸削り」の技術ではありません。複合加工機やインターポレーションターニングといった技術の登場により、より複雑で、より高精度な部品を、より効率的に生み出すためのキーテクノロジーへと進化を遂げているのです。


複合加工機やインターポレーションターニングの概念について、動画で分かりやすく解説されています。
NC旋盤、ターニングセンタの違いなどを紹介! - YouTube


ターニング加工におけるトラブルシューティング:よくある問題と解決策

高精度なターニング加工を目指す上で、様々なトラブルは避けて通れません。ここでは、現場でよく遭遇する代表的な問題と、その原因および対策について解説します。

📉 問題1:加工面の仕上がり(表面粗さ)が悪い

加工面がざらざらしたり、むしれたような状態になったりする問題です。

     

  • 原因:

    • 切削速度が不適切(特に低すぎる場合)。
    •  

    • 送り量が大きすぎる。
    •  

    • 工具(チップ)の刃先が摩耗している。
    •  

    • 構成刃先(加工中に切りくずが刃先に溶着してできる擬似的な刃先)が発生している。
    •  

    • 加工中に「びびり振動」が発生している。
    •  

  •  

  • 対策:

    • 切削速度を上げてみる。
    •  

    • 送り量を小さくする。
    •  

    • 摩耗したチップを交換する。シャープな刃先のチップ(ポジティブすくい角)に変える。
    •  

    • 構成刃先の発生しにくいコーティングチップを使用する。切削油剤を適切に供給する。
    •  

    • 切り込み量や送り量を変更する。機械や工具の剛性を高める。

📐 問題2:寸法精度が出ない

指定された寸法公差内に、加工寸法が収まらない問題です。

     

  • 原因:

    • 工具の摩耗による寸法の変化。
    •  

    • 加工熱によるワークや機械の熱変位。
    •  

    • NCプログラムのミス。
    •  

    • 機械のバックラッシ(送り機構の遊び)や剛性不足。
    •  

  •  

  • 対策:

    • 定期的に工具の摩耗をチェックし、摩耗補正を行うか、早めに交換する。
    •  

    • 荒加工と仕上げ加工を分け、仕上げ代を適切に設定する。切削液で十分に冷却する。
    •  

    • プログラムを再確認し、特に座標計算や工具径補正に間違いがないかチェックする。
    •  

    • 機械のメンテナンスを定期的に行い、精度を維持する。

💥 問題3:工具の欠損や摩耗が異常に早い

チップがすぐに欠けたり、寿命が極端に短かったりする問題です。

     

  • 原因:

    • 切り込み量や送り量が過大である。
    •  

    • 工具の突き出し長さが長く、剛性が不足している。
    •  

    • チップの材質や形状(ブレーカ)が被削材や加工内容に合っていない。
    •  

    • 切りくずの処理がうまくいかず、工具に絡みついている。
    •  

    • 断続加工(加工中に刃先が断続的にワークに衝突する加工)で衝撃が大きい。
    •  

  •  

  • 対策:

    • 切削条件(特に切り込み量と送り)を見直す。
    •  

    • 工具の突き出しは可能な限り短くする。
    •  

    • より靭性(粘り強さ)の高いチップ材質に変更する。切りくずが細かく分断されるブレーカを選ぶ。
    •  

    • 切りくずの排出方向を考え、切削条件を調整する。
    •  

    • 衝撃に強いチップ材種を選定する。

これらのトラブルは、単一の原因で発生することは稀で、複数の要因が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。切削条件、工具、機械、ワークの状態を総合的に観察し、一つずつ要因を潰していく地道な作業が、問題解決への近道となります。

 

 


Buyohlic 5ピース スローアブルターニングツールセット TCMT16T304 超硬ビット付き 旋盤 金属加工工作機械用 (6 mm Sq. シャンク))