校正済みの機器でも、測定者が変わるだけで結果が大きく狂うことがあります。
測定システム解析(Measurement Systems Analysis、以下MSA)とは、測定機器・測定者・測定手順・測定環境を含む「測定システム全体」が、信頼できるデータを継続して出力できているかを統計的に評価する手法です。製造業から発展した概念ですが、医療機器の開発・製造・品質保証の現場でも、その重要性は急速に高まっています。
医療現場では、血圧計・血糖測定器・体温計・各種分析装置など、多くの測定機器が患者の状態を数値化するために日々稼働しています。これらの測定値は、診断判断・投薬量決定・治療方針策定の根拠となります。つまり、測定値の誤差がそのまま臨床判断の誤差につながるわけです。
重要なのは、測定誤差は「機器の精度」だけに依存しないという点です。たとえば、同一の自動血圧計を使っても、カフを巻く位置が異なれば測定値は変わります。同じ分析装置でも、試薬の扱い方・サンプルの採取条件・環境温度によって結果がずれることがあります。こうした「システム全体のばらつき」を見える化するのがMSAの本質です。
MSAは、日本では主に自動車産業のIATF 16949コアツールとして知られていますが、医療機器分野ではISO 13485(医療機器品質マネジメントシステム)においても、測定プロセスの妥当性確認として統計的手法の活用が明確に求められています。つまり医療従事者にとって、MSAは「製造業だけの話」ではありません。
ISO 13485(医療機器品質マネジメントシステム)の概要と認証要求事項について – JQA日本品質保証機構
「測定データが信頼できる」という事実を証明できる組織が、患者安全と品質を守れます。これが原則です。
MSAでは、測定システムの誤差を5つの指標に分類して評価します。それぞれが独立した視点を持っており、どれか一つが欠けても測定システムの信頼性は保証できません。
① 偏り(Bias) は、測定値の平均が真の値(基準値)からどれだけずれているかを表します。例えば、50mgの薬剤重量を測定する機器が常に52mgと示す場合、偏りは2mgです。これが蓄積すると、製剤の含量均一性に直接影響します。
② 安定性(Stability) は、時間の経過とともに測定値が変動しないかを評価します。朝は正確な値を示していた装置が、午後になると少しずつずれていく現象(ドリフト)が代表的です。長時間稼働する検体検査装置では特に重要な指標です。
③ 直線性(Linearity) は、測定範囲の全体にわたって偏りが一定かどうかを確認するものです。低濃度の検体では正確でも、高濃度域では系統的に低めの値を出す装置があります。このような問題は直線性の評価で初めて検出できます。
④ 繰返し性(Repeatability) は、同一の測定者が同一の機器で同一の対象を複数回測定したときのばらつきです。機器そのものの安定性を反映します。血糖自己測定(SMBG)機器のISO 15197規格では、測定値の95%が75mg/dL未満の場合は±15mg/dL以内、75mg/dL以上の場合は±20%以内に収まることが要求されています。繰返し性が悪い機器は、この基準を満たすことができません。
⑤ 再現性(Reproducibility) は、異なる測定者が同じ機器・同じ対象を測定したときのばらつきです。再現性が低い場合、測定者ごとのスキル差や操作手順の解