血管配送ステントは、狭窄や閉塞した血管を拡張し、血流を回復・維持するために使用される医療機器です。金属製の細いチューブ状の器具で、網目状の筒形状をしています。カテーテルを通じて病変部位まで送達され、バルーンで拡張後に血管内に永久留置されます。
参考)ステントとは、どんなものですか?
ステントという名称は、19世紀のイギリスの歯科医Charles R. Stentに由来する内腔保持器具の総称です。現代医療では主に動脈硬化症による血管狭窄の治療に使用され、心臓、頸動脈、腎動脈、下肢動脈などの様々な部位で活用されています。
参考)ステントとステントグラフトについて|血管の病気を知ろう!予防…
血管配送ステントの主要材料はステンレススチールとニチノール合金(ニッケル・チタン合金)です。ステンレススチールは優れたX線可視性、弾力性と耐性の一貫性を提供し、最も一般的に使用される素材です。一方、ニチノール合金は形状記憶性と超弾性を持ち、MR検査にも対応可能な特性を有しています。
参考)冠動脈ステント留置術 | 一般社団法人 日本血栓止血学会 用…
製造工程では、マンドレル(芯棒)上に金属糸を巻いて網状構造を編み上げます。その後、630℃から660℃の温度で水急冷し、330℃から550℃の範囲で1~30分間の熱処理を行って、必要な弾性特性を付与します。この熱処理により、ステントの個々の部分の弾性を制御し、血管形状に適応した特性を実現しています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2005514155A/ja
血管配送ステントの拡張方式は、自己拡張型とバルーン拡張型に分類されます。バルーン拡張型は、カテーテル先端のバルーン部にステントを装着し、バルーンを膨張させてステントを拡張します。自己拡張型は、ステント自体のバネ力により自然に拡張する構造です。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/530366_22200BZX00122000_A_01_04
力学的要求特性として、十分な柔軟性、高い径方向強度、最小限のリコイル(収縮)が重要です。ステントは屈曲した血管内をデリバリーされるため、血管形状に追従できる柔軟性が必要です。同時に、血管壁の狭窄を防ぐために径方向の強度を保持し、正確な拡張径を維持するためのリコイル抑制が求められます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia/55/4/55_55.147/_pdf
薬剤溶出ステント(DES)は、金属製ステント表面に細胞増殖抑制薬剤を含む樹脂をコーティングした高機能ステントです。薬剤は時間経過とともにゆっくりと血管組織に放出され、炎症反応や再狭窄を抑制します。
参考)PCI (経皮的冠動脈インターベンション)
主要な薬剤として、シロリムス(抗増殖作用)やパクリタキセル(細胞分裂阻害)が使用されています。シロリムス溶出ステントは約30日間で薬剤放出が完了する設計ですが、パクリタキセル溶出ステントは数年以上の長期間放出を継続します。この放出パターンの違いにより、同じ薬剤でもステントシステムによって治療効果が大きく異なる可能性があります。
参考)http://www.npojca.jp/journal/image/200511121.pdf
最新技術では、多層ポリマーコーティングにより放出速度を精密制御できるシステムが開発されています。また、再狭窄抑制以外にも心筋梗塞の心筋障害抑制など、多様なローカルドラッグデリバリーシステムとしての応用が期待されています。
従来の抗血栓性コーティングは、タンパク質の非特異的吸着抑制により血栓形成を防ぐ原理でしたが、同時に細胞接着も阻害する課題がありました。2024年に産業技術総合研究所が開発した新規抗血栓性コーティングは、この相反関係を克服する革新的技術です。
参考)産総研:血管内治療の課題を克服する新規の抗血栓性コーティング
この新技術は、血中の非凝固系タンパク質を優先的に吸着することで血液凝固反応を抑制し、タンパク質吸着の制御により抗血栓性と細胞接着促進を同時に実現しています。細胞接着性の向上により、ステントの血管取り込み速度が増加し、治療の早期完了が可能になります。
この技術革新により、従来必須だった長期間の抗血小板剤服用の負担軽減や、重篤な血栓性合併症のリスク低減が期待されています。脳動脈瘤治療用ステントをはじめ、様々な血管内治療デバイスへの応用展開が進められています。
参考リンク(心臓血管研究所付属病院のステント基礎知識)。
ステントとは、どんなものですか?
参考リンク(産業技術総合研究所の最新抗血栓コーティング技術)。
産総研:血管内治療の課題を克服する新規の抗血栓性コーティング
参考リンク(日本血管外科学会のステント詳細解説)。
ステントとステントグラフトについて|血管の病気を知ろう!予防…