金属加工において、すべての寸法に個別に公差を指示するのは非常に手間がかかります。そこで活用されるのが「一般公差(普通公差)」です。これは、図面上で特に公差の指示がない寸法に対して、一律で適用される公差のことで、JIS(日本産業規格)では **JIS B 0405** として規格化されています 。この規格を理解し、正しく運用することで、図面の簡略化と設計者・加工者間の認識の統一が図れます 。
JIS B 0405では、加工品の精度に応じて4つの「公差等級」が定められています。それぞれの等級は記号で示され、求められる精度レベルが異なります 。
これらの等級は、図面の表題欄付近に「JIS B 0405-m」のように、規格番号と等級を示す記号を記載することで、図面全体の指示なき寸法に適用されます 。どの等級を選択するかは、部品の機能、組み立ての容易さ、そして加工コストのバランスを考慮して決定することが重要です。
ちなみに、このJIS B 0405は国際規格であるISO 2768-1を基に作成されています 。そのため、海外との取引においても、この公差の考え方は通用しやすいと言えるでしょう。
一般公差における基準寸法の区分と許容差の関係性
一般公差の許容差は、単に等級だけで決まるわけではありません。**基準寸法の大きさ**によっても変化します。もし許容差が常に一定だと、例えば「10mm±0.1mm」と「1000mm±0.1mm」では、寸法に対する公差の比率が大きく異なり、精度の考え方に矛盾が生じてしまいます 。
これを避けるため、JIS B 0405では「基準寸法の区分」が設けられており、寸法が大きくなるにつれて許容差の値も段階的に大きくなるよう設定されています 。以下に、JIS B 0405-1991に基づく、除去加工(削り加工)における長さ寸法の普通公差(抜粋)を示します。
設計者が意図した通りの精度で部品を製作してもらうためには、図面への正しい情報記載が不可欠です。一般公差を適用する場合、JIS規格では図面の表題欄、またはその付近に規格番号と公差等級をまとめて記載する方法が定められています 。
基本的な記載例:JIS B 0405-m このように記載することで、「この図面に描かれた部品は、特に個別の公差指示がない限り、JIS B 0405で定められた中級(m)の精度で製作してください」という包括的な指示になります 。これにより、寸法一つひとつに「±0.2」といった公差を記入する手間が省け、図面が非常にすっきりと見やすくなります 。
💡意外と知られていないポイント:
異なる等級の混在: 長さ寸法は中級、角度寸法は粗級といったように、寸法の種類によって異なる等級を適用したい場合もあります。その際は、JIS B 0405-mJIS B 0405-c のように、適用したい等級を併記します。
幾何公差との組み合わせ: 一般公差は寸法公差に関する規格ですが、形状や姿勢を規制する「幾何公差」にも普通公差が存在します。これは **JIS B 0419** で規定されており、例えば「真直度」や「平面度」「直角度」について、指示なき場合の公差を定めています 。寸法公差と幾何公差の両方を包括的に指示する場合は、JIS B 0405-mJIS B 0419-K のように併記します。
前述の通り、幾何公差にも「普通公差」を定めた **JIS B 0419** が存在します 。図面に「JIS B 0405」としか書かれていない場合、幾何公差については指示がない状態と解釈できますが、高品質なものづくりを目指す上では、設計者と加工者の間で幾何公差の必要性についても確認しておくことが望ましいでしょう。