一般公差表 JISの等級と基準寸法における許容差の規格

JISに基づく一般公差(普通公差)の公差表について、等級の種類や基準寸法の区分、許容差の関係性を詳しく解説します。図面に「JIS B 0405」と記載されているだけの場合、どの程度の精度が求められているか正しく理解できていますか?

一般公差表 JISの読み解き方

この記事のポイント
等級の理解

JIS B 0405が定める4つの公差等級(精級、中級、粗級、極粗級)の使い分けがわかります。

許容差の確認

基準寸法ごとに定められた許容差を、具体的な公差表で確認できます。

コスト意識

公差等級の選定が、加工コストにどのような影響を与えるかを学べます。

一般公差 JIS B 0405が定める4つの等級(精級・中級・粗級・極粗級)とは

 


金属加工において、すべての寸法に個別に公差を指示するのは非常に手間がかかります。そこで活用されるのが「一般公差(普通公差)」です。これは、図面上で特に公差の指示がない寸法に対して、一律で適用される公差のことで、JIS(日本産業規格)では **JIS B 0405** として規格化されています 。この規格を理解し、正しく運用することで、図面の簡略化と設計者・加工者間の認識の統一が図れます 。
JIS B 0405では、加工品の精度に応じて4つの「公差等級」が定められています。それぞれの等級は記号で示され、求められる精度レベルが異なります 。
  • 精級 (f): 最も厳しい公差が適用される等級です。高い精度が求められる精密部品などに使用されます。
  • 中級 (m): 一般的な機械部品で最も広く利用されている標準的な等級です。設計上、特に厳しい精度を求めない場合は、まずこの中級が選択されます 。
  • 粗級 (c): 比較的緩やかな公差が許容される等級です。大きな部品や、高い精度を必要としない組み立て部品などに適しています。
  • 極粗級 (v): 最も緩い公差が適用される等級で、取り外しを頻繁に行うカバーや、嵌合(はめあい)のない部品など、寸法精度が製品機能にほとんど影響しない場合に使用されます 。

これらの等級は、図面の表題欄付近に「JIS B 0405-m」のように、規格番号と等級を示す記号を記載することで、図面全体の指示なき寸法に適用されます 。どの等級を選択するかは、部品の機能、組み立ての容易さ、そして加工コストのバランスを考慮して決定することが重要です。
ちなみに、このJIS B 0405は国際規格であるISO 2768-1を基に作成されています 。そのため、海外との取引においても、この公差の考え方は通用しやすいと言えるでしょう。

一般公差における基準寸法の区分と許容差の関係性


一般公差の許容差は、単に等級だけで決まるわけではありません。**基準寸法の大きさ**によっても変化します。もし許容差が常に一定だと、例えば「10mm±0.1mm」と「1000mm±0.1mm」では、寸法に対する公差の比率が大きく異なり、精度の考え方に矛盾が生じてしまいます 。
これを避けるため、JIS B 0405では「基準寸法の区分」が設けられており、寸法が大きくなるにつれて許容差の値も段階的に大きくなるよう設定されています 。以下に、JIS B 0405-1991に基づく、除去加工(削り加工)における長さ寸法の普通公差(抜粋)を示します。

表:長さ寸法に対する普通公差(単位:mm)

公差等級(記号) 説明 0.5以上 3以下 3を超え 6以下 6を超え 30以下 30を超え 120以下 120を超え 400以下
f 精級 ±0.05 ±0.1 ±0.15 ±0.2
m 中級 ±0.1 ±0.2 ±0.3 ±0.5
c 粗級 ±0.2 ±0.3 ±0.5 ±0.8 ±1.2
v 極粗級 - ±0.5 ±1 ±1.5 ±2.5

この表を見ると、例えば公差等級が「中級(m)」の場合でも、基準寸法が20mmであれば許容差は±0.2mmですが、150mmになると±0.5mmと、許容される誤差の幅が大きくなっているのがわかります 。このように、基準寸法の区分を考慮することで、部品のサイズに応じた適切な精度管理が可能になるのです。
この考え方は、長さ寸法だけでなく、角の面取り寸法や角度寸法にも適用されます 。特に角度寸法は、辺の長さに応じて許容される角度の誤差が変わるため、注意が必要です 。

JIS規格の原文や詳細な公差表を確認したい場合は、以下の日本産業標準調査会のウェブサイトが有用です。

 

JIS B 0405:1991 普通公差―第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差

一般公差の図面指示方法とJIS記号の正しい使い方


設計者が意図した通りの精度で部品を製作してもらうためには、図面への正しい情報記載が不可欠です。一般公差を適用する場合、JIS規格では図面の表題欄、またはその付近に規格番号と公差等級をまとめて記載する方法が定められています 。
基本的な記載例: JIS B 0405-m
このように記載することで、「この図面に描かれた部品は、特に個別の公差指示がない限り、JIS B 0405で定められた中級(m)の精度で製作してください」という包括的な指示になります 。これにより、寸法一つひとつに「±0.2」といった公差を記入する手間が省け、図面が非常にすっきりと見やすくなります 。
💡意外と知られていないポイント:
  • 異なる等級の混在: 長さ寸法は中級、角度寸法は粗級といったように、寸法の種類によって異なる等級を適用したい場合もあります。その際は、JIS B 0405-m JIS B 0405-c のように、適用したい等級を併記します。
  • 幾何公差との組み合わせ: 一般公差は寸法公差に関する規格ですが、形状や姿勢を規制する「幾何公差」にも普通公差が存在します。これは **JIS B 0419** で規定されており、例えば「真直度」や「平面度」「直角度」について、指示なき場合の公差を定めています 。寸法公差と幾何公差の両方を包括的に指示する場合は、JIS B 0405-m JIS B 0419-K のように併記します。
  • 規格の名称変更: 2019年の法改正により、「日本工業規格(JIS)」は「日本産業規格(JIS)」へと名称が変更されました 。古い図面では「日本工業規格」と記載されている場合がありますが、規格の内容自体に変更はありません。

これらの記号を正しく理解し、使いこなすことが、スムーズな加工と品質の安定につながります。もし図面の指示で不明な点があれば、必ず設計者に確認し、認識の齟齬が生まれないようにすることがトラブルを未然にぐ鍵となります。

一般公差と幾何公差の違いと使い分けのポイント


「一般公差」としばしば混同されがちなものに「幾何公差」があります。どちらも製品の精度を保証するために不可欠なものですが、その役割は根本的に異なります。この違いを理解することが、より精度の高いものづくりには欠かせません。

一言でいうと、以下のように整理できます。
  • 寸法公差(一般公差を含む): 部品の「大きさ」に関するばらつきを規制します。例えば、長さ、幅、直径、穴の深さなどが、どれくらいの範囲内に収まるべきかを示します 。
  • 幾何公差: 部品の「形」や「姿勢」に関するばらつきを規制します。例えば、「どれだけ真っ直ぐか(真直度)」「どれだけ平らか(平面度)」「どれだけ直角か(直角度)」といった、形状そのものの歪みを規制します 。

例で考える違い:
ここに、長さ100mm、幅50mmの長方形の板があるとします。
  • 寸法公差だけが指示されている場合、長さが100.1mm、幅が49.9mmでも許容範囲内であれば合格です。しかし、板全体が少し曲がっていたり、平行四辺形のように歪んでいたりしても、寸法公差だけでは規制できません。
  • そこで幾何公差が登場します。平面度を指示すれば「板全体の面のうねり」を、直角度を指示すれば「隣り合う辺がどれだけ正確に90度か」を規制できます。

つまり、寸法公差で部品の「サイズ」を管理し、幾何公差でその部品の「形状」や「位置関係」をより厳密に管理する、という使い分けになります。一般公差(寸法公差)だけでは、部品が正しく機能しない可能性がある場合に、幾何公差を追加で指示する必要があるのです。

前述の通り、幾何公差にも「普通公差」を定めた **JIS B 0419** が存在します 。図面に「JIS B 0405」としか書かれていない場合、幾何公差については指示がない状態と解釈できますが、高品質なものづくりを目指す上では、設計者と加工者の間で幾何公差の必要性についても確認しておくことが望ましいでしょう。

一般公差の等級選定が加工コストに与える意外な影響


「精度が高い方が良いだろう」と、安易に厳しい公差等級(精級など)を選んでしまうと、加工コストが予期せず高騰してしまう可能性があります。公差等級の選定は、製品に求められる機能を十分に満たしつつ、いかに経済的に製造するか、という視点が極めて重要になります 。
なぜ厳しい公差はコストを押し上げるのか? 🤔
  • 加工時間と工数の増加: 厳しい公差を達成するためには、切削速度を落として慎重に加工したり、複数回に分けて加工したりする必要があります。これにより、一つの部品を仕上げるのにかかる時間が長くなり、人件費や機械の稼働コストが増加します。
  • 高価な測定機器と検査工数: 公差が厳しくなればなるほど、それを保証するための測定もシビアになります。三次元測定機のような高精度な測定機器が必要になったり、全数検査が必要になったりすると、設備投資や検査のための人件費が膨らみます。
  • 不良率の上昇: 公差の幅が狭ければ、それだけ許容範囲から外れるリスクが高まります。結果として不良品が増え、材料費や再加工のコストが無駄になってしまいます。
  • 熟練技術者の必要性: 厳しい精度要求に応えるには、高いスキルを持った熟練技術者が必要になる場合があります。誰でも簡単に加工できるわけではないため、特定の作業者に依存することになり、生産計画の柔軟性が失われる可能性もあります。

💡コストを意識した等級選定のヒント
設計者は、部品の機能や役割を十分に考慮し、「オーバースペック」になっていないか常に自問する必要があります。例えば、カバーのように単に内部を保護するだけの部品に、嵌合部品と同じ「精級」を適用するのは明らかに過剰品質です。この場合、「粗級」や「極粗級」で十分な場合がほとんどでしょう 。
JIS規格の附属書には、「工場の通常の加工精度に対応する公差値を超えて公差を大きくしても、通常、生産の経済性における利益はそれ以上期待できない」という趣旨の記載があります 。これは、むやみに公差を緩くしてもコスト削減効果は頭打ちになることを示唆していますが、逆に言えば、**不必要に厳しい公差は確実にコストを押し上げる**ということです。
加工者側からも、もし図面の公差指示が過剰だと感じた場合は、その公差が本当に必要なのかを設計者に確認し、より経済的な等級への変更を提案することも、全体のコストダウンと効率化に繋がる重要なコミュニケーションと言えるでしょう。

 

 


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