電着塗装で最初に実施する脱脂・洗浄工程は、後続するすべての工程の基盤となります。被塗物の表面に付着した埃や油分が残存したままでは、塗装後に膨れやハジキなどの塗装不良が発生するリスクが高まります。脱脂液を用いた化学的な汚れ除去と、続く水洗による物理的な洗浄により、被塗物表面を清浄化します。さらに超音波水洗を組み込むことで、微細な塵や汚れを除去し、後工程での塗膜密着性を確保します。
不十分な脱脂は、電着塗装の工程全体にわたって悪影響を及ぼし、品質低下につながるため、この工程の管理が最も重要です。特に自動車部品などの精密製品では、細部の汚れまで完全に除去することが求められます。
化成皮膜処理は、塗料の性能を最大限に発揮させるための不可欠な工程です。被塗物の表面にリン酸亜鉛皮膜を形成することで、塗膜の密着性が飛躍的に向上します。リン酸亜鉛皮膜は結晶の集合体であり、結晶と結晶の間に存在する緻密な隙間に塗料が浸透することで、強固な付着を実現します。
この皮膜処理後の被塗物表面は、艶消しの灰色で触ると若干ザラザラした感触になります。このザラザラした表面構造こそが、次の電着塗装工程での塗膜形成を支援します。適切な皮膜厚みと結晶構造を実現することで、最終的な塗膜品質を大きく左右するため、処理条件の厳格な管理が必要です。
電着塗装は、電気化学反応を利用して塗料の固形分を被塗物表面に析出させるプロセスです。電着タンクに浸漬された被塗物をマイナス極とし、電極をプラス極として直流電流を印加することで、プラスに荷電した塗料分子が被塗物に引き寄せられます。この過程で水中で分散する塗料成分が化学反応により固体化し、均一な塗膜を形成します。
実用的なラインでは約300ボルトの直流電圧が使用され、印加電圧と処理時間により膜厚がコントロールされます。設定膜厚に達すると、塗膜が電気抵抗状態となり、塗膜の析出反応が自動的に停止するメカニズムにより、皮膜厚みの均一性が保証されます。この自動停止機能は、過度な塗膜の析出を防ぎ、品質安定化に寄与する重要な特性です。
電着塗装直後の水洗は、塗膜品質を大きく左右する工程です。電着タンクから取り出された被塗物表面には過剰な塗料が付着しており、これを適切に除去しなければ、焼付後にたれやたまり、泡跡などの塗装不良が発生します。水洗では段階的に純度を上げながら、塗料と水の混合液から開始し、徐々に純工業用水、最後に純水で洗浄することで、塗装ムラを排除します。
この段階的な水洗プロセスは、単なる汚れ除去ではなく、塗膜表面を均質化する重要な役割を担っています。多くの塗装ラインでは、この工程に複数の水洗ステーションを設置し、各段階での洗浄効率を最大化しています。不十分な水洗は、最終的な塗装品質を著しく低下させるため、循環ポンプや濾過装置を用いた継続的な水質管理が実施されます。
焼付乾燥工程では、被塗物に付着した液体状の塗料を加熱により固化させ、塗膜の強度と耐食性を確保します。一般的には150℃以上の熱風を当てることで塗膜を定着させ、通常200℃程度の熱を約30分間加熱することが標準とされています。ただし、被塗物の材質や形状によって最適な温度と時間は異なるため、製品仕様に応じた調整が求められます。
電着塗装の工程で見逃しやすい重要なポイントは、焼付前の充分な乾燥です。水分が残存したまま焼付を行うと、ウォーターマークと呼ばれる水滴状の痕跡がワーク表面に発生し、外観不良につながります。焼付後の冷却工程も同様に重要で、被塗物の温度を段階的に低下させることで、塗膜の硬化と安定化を促進します。この冷却プロセスにより、塗膜の応力が適切に緩和され、長期的な耐久性が向上するのです。
電着塗装の完成後、最終検査工程では塗膜の均一性や各種欠陥の有無を入念にチェックします。目視検査により、塗膜の均一性、ピンホール、流れなどの表面欠陥を確認し、電磁式膜厚計を用いた塗膜厚さの測定も実施されます。密着性の評価には碁盤目テープ試験やクロスカット試験が採用され、耐食性については塩水噴霧試験や複合腐食試験によって長期的な性能が検証されます。
電着塗装の工程管理において特に注視すべき異常現象は、塗装ムラ、膨れ、ハジキ、ピンホール、たれなどです。これらの不具合は、先行工程(脱脂、化成処理)の不十分さ、電着条件の不適切さ、または水洗・乾燥工程での不備に起因することが大半です。原因特定と改善には、各工程のパラメータを系統的に調査し、根本原因を特定することが必要とされます。
カチオン電着塗装の工程について詳細な説明:脱脂・洗浄から焼付乾燥まで、各工程のポイントと品質向上のための実践的なアドバイスが記載されています。
電着塗装工程の全体フロー:脱脂から検査・梱包までの9段階を図解付きで説明し、各工程での重要管理項目を明記しています。
電着塗装装置と工程の専門的解説:電源装置や塗料循環装置などの機器構成、および通電入槽方式などの技術的詳細を解説しています。