アルミニウムは純度によって大きく2つに分類されます。純度が99%以上のものを「純アルミニウム」と呼び、1000系アルミニウムとも表記されます。一方、様々な元素を添加することで強度や耐食性などを高めたものが「アルミニウム合金」です。
純アルミニウムは軽量で加工性に優れていますが、強度が低いため、工業用途では合金化したものが主に使用されます。アルミニウム合金には、銅を添加した2000系、マンガン添加の3000系、シリコン添加の4000系、マグネシウム添加の5000系、マグネシウムとシリコン添加の6000系、亜鉛添加の7000系など、実に多くの種類があります。これらの系統によって特性と用途が大きく異なるため、製造業では適切な種類を選定することが極めて重要です。
アルミニウムが産業界で広く利用される理由は、比重の軽さと強度のバランスにあります。比重が約2.7と軽いにもかかわらず、合金化することで比強度(単位重量あたりの引っ張り強度)を高くできるのです。特に7000番系の超々ジュラルミン(A7075)は航空機部品に採用されるほどの高強度を実現しており、同時に軽量という要件を満たしています。
この特性により、航空機では機体や翼などの構造材に使用され、自動車ではボディやフレームの軽量化に貢献し、結果として燃費向上やCO₂排出削減に繋がります。建築分野ではアルミサッシや外装パネルとして活用され、その軽量性と耐久性が高く評価されています。
アルミニウムは空気中に放置されると、表面に酸化アルミニウム(Al₂O₃)の薄い酸化皮膜が自然に形成されます。この酸化被膜はアルミニウムの内部を腐食から守る保護層として機能するため、鉄のような赤錆が発生しません。また、濃硝酸に対しても表面に酸化被膜を生じ、不動態化して反応の進行が停止する特性があります。
浜風にさらされる場所で30年間使用しても問題が生じなかった報告もあるほど、アルミニウムの耐食性は優れています。これが海洋開発、船舶、屋外建築などの過酷な環境での使用を可能にしています。ただし、塩分が多い環境や異種金属との接触により電食が発生することがあるため、必要に応じてアルマイト処理や陽極酸化処理を施します。
アルミニウムの熱伝導率は、鉄の約3倍です。この優れた熱伝導性により、自動車のラジエータ、各種熱交換器、電子機器の放熱器など、熱を効率的に伝導する必要がある用途で活用されています。同時に、電気伝導率も銅に次ぐレベルで高く、同じ重さの銅と比較して2倍の電流を流すことができます。
この特性を活かして、送電線材料として銅線からアルミ線への置き換えが進んでいます。軽量性と電気伝導性の組み合わせにより、鉄塔の間隔を広くできてコスト削減が実現します。電線だけでなく、放熱部品や導電部品としても広く採用されており、スマートフォンなどの電子機器にも不可欠な素材です。
アルミニウムの切削加工は、他の金属と比べて特有の困難を抱えています。融点が低い(660℃)ため、加工時に部材が刃先に溶着し、構成刃先と呼ばれる固まりが形成されやすいという特徴があります。この固まりが加工面に付着すると、切削精度が低下し、表面がギザギザになってしまいます。
さらに、アルミニウムは延性が高く伸びやすい性質があるため、切削加工時にはバリが必ず発生します。これらの問題を解決するには、シャープな刃先を持つポジティブ形状の工具を使用し、高速で切削することで切削抵抗と溶着を減らすことが重要です。同時に、切削油(クーラント)を使用して冷却しながら作業を行い、切粉をこまめに取り除く必要があります。
【参考情報】
ポジティブ形状の工具は切削抵抗が少なく、低速条件においても良好な加工面粗さが得られます。一方、ネガティブ形状の工具は溶着が起きやすく、加工面がギザギザになる恐れがあります。クーラント管理も重要で、濃度が薄いと摩擦が増加し、仕上がりが大幅に悪くなります。
アルミ切削加工のポイント|シャープな刃先と適切な冷却の重要性
アルミニウム単体の特性は優れていますが、工業用途では目的に応じたアルミニウム合金の選定が極めて重要です。航空機部品に求められる高強度には7000番系(A7075超々ジュラルミン)が適しており、建築用サッシには6000番系(A6063)の押出し性能が活かされます。自動車部品では5000番系の耐食性と溶接性が重視され、食品缶には3000番系の汎用性が選ばれます。
各系統の合金は、添加元素の種類と量によって機械的強度、耐食性、溶接性、加工性が異なります。2000番系銅系合金は強度が高いものの耐食性が低いため、3000番系マンガン合金はコストと性能のバランスが良く、5000番系マグネシウム合金は溶接性と耐食性に優れています。適材適所の合金選定により、製造効率と製品品質が大きく向上します。
【参考情報】
アルミ合金の選定では、単に強度だけでなく、溶接性、耐食性、加工性、熱処理による硬化の可能性など、複数の因子を総合的に評価する必要があります。
アルミニウムとは素材の特徴や使用上の注意点、他金属との比較解説
アルミニウムの溶接は、他の金属と比べて難易度が高い加工プロセスです。最大の理由は、アルミニウム表面に形成される酸化皮膜にあります。酸化アルミニウムの融点は約2,050℃と、アルミニウム自体の融点(660℃)よりもはるかに高いため、溶接中に完全に除去する必要があります。
酸化皮膜が残ったままでは、溶接不良が発生し、強度が低下します。また、アルミニウムは熱伝導率が高く融点が低いため、溶接時の熱が母材にすばやく伝わり、母材に抜け落ちが生じる恐れがあります。これを防ぐには、TIG溶接やMIG溶接で不活性ガス(アルゴンやヘリウム)を使用して保護しながら作業を行う必要があります。
溶接前には機械的または化学的に酸化被膜を除去し、交流TIG溶接のクリーニング作用を利用することで、より良好な溶接結果が得られます。アルミニウム合金の種類によって溶接性が大きく異なるため、実績のある業者への外注が重要です。
【参考情報】
アルミニウムの低温特性は優れており、液体窒素(-196℃)や液体酸素(-183℃)などの極低温下でも強度が低下せず、かえって強度が増加します。この特性により、LNG(液化天然ガス)タンクや宇宙開発分野での活用が進んでいます。
金属加工従事者が実際にアルミニウム合金を選定する際には、複数の観点から総合的に判断する必要があります。まず、設計段階で求められる機械的強度を明確にし、どの系統の合金が適切かを判断します。次に、溶接や塑性加工などの製造プロセスに対応可能かどうかを確認します。
耐食環境での使用予定があれば、特に耐食性を重視した合金選定が必要です。3000番系は加工性と耐食性のバランスが良く、5000番系は溶接性に優れ、6000番系は押出し成形性が最適です。さらに、熱処理による硬化の可能性(T4処理、T6処理など)も検討項目に含まります。
量産予定数、納期、予算制約も合金選定に影響します。1000番系や3000番系は比較的入手しやすくコストも低いですが、特殊な7000番系合金は納期が長くコストが高くなる傾向があります。試作段階から製造業者と密接に協議し、適切な合金と加工方法を確定することで、最終的な製品品質と製造効率が大きく向上します。
アルミニウムのリサイクル性は、現代の製造業において極めて重要な要素です。使用済みアルミニウム製品は再溶解によって何度でも再利用でき、その際に必要なエネルギーはバージン材の製造時のわずか3%程度です。リサイクル品の品質は新品とほぼ変わらないため、環境負荷が極めて小さく、サステナブルな社会に貢献できます。
自動車産業では製造端材を回収して再利用する取り組みが進み、建築材料でも同様に循環利用の システムが構築されています。特に高純度が求められない用途では、リサイクルアルミの活用が加速しており、資源枯渇への対応と環境保全の両立が実現しています。
新規採掘から製造、使用、リサイクルまでのライフサイクルを通じた環境負荷を低減することで、アルミニウムは「21世紀の戦略金属」として位置づけられています。金属加工従事者にとって、リサイクル可能な設計やスクラップの適切な管理が、企業の社会的責任を果たす重要な課題となっています。