X線は電子を金属ターゲットに衝突させることで発生する電磁波で、発生原因は原子核外の電子の動きにあります。X線の発生には二つの主要なメカニズムがあり、まず制動X線では電子が原子核の近くを通る際に進路が曲げられることで運動エネルギーの一部が電磁波として放出されます。このため制動X線のエネルギーはまちまちとなり、連続的なエネルギー分布を持つ特徴があります。
参考)エックス線とガンマ線の違いとは?
一方、特性X線は原子の軌道電子がはじき出された際に、外側の軌道から電子が落ち込んで軌道間のエネルギー差を放出する現象です。特性X線は同じ原子・同じ条件なら一定のエネルギーのX線が発生するため、元素分析にも利用されています。X線は電源が必要で、電源を入れて照射ボタンを押さなければ放射線は発生しないという制御性の高さが重要な特徴です。
参考)https://www.daiken-ndt.co.jp/journal/journal-2303/
X線の波長は0.001~10nmの範囲にあり、波長が短くなれば物体を透過する力が強くなります。金属加工業界では、この透過力を活用して溶接部や金属製品の内部検査に広く利用されており、X線発生装置は移動が容易なため持ち込み検査・出張検査の両方に対応できる利点があります。
参考)https://www.kri.kumamoto-u.ac.jp/seminar/text/text/x1.pdf.pdf
ガンマ線は原子核が余分なエネルギーを持つ際に、そのエネルギーを電磁波として核外に放出する現象で発生します。発生原因が原子核内にあることから「原子核内起源の電磁波」と呼ばれ、これがX線との根本的な違いです。ガンマ線を放出する代表的な放射性核種にはコバルト60、セシウム137、イリジウム192などがあり、それぞれが固有のエネルギーを持つガンマ線を放出します。
ガンマ線のエネルギーは核種固有で一定であり、波長は10⁻¹²~10⁻¹⁴m、エネルギーで表示すると0.1~100MeV程度の範囲にあります。この特性により、ガンマ線のエネルギーを測定すると放射性核種を推定することが可能です。ガンマ線はα壊変またはβ壊変、あるいは核反応に付随して放出され、一般にX線よりも高エネルギーで透過力が強いため、工業分野での非破壊検査等に利用されています。
参考)ガンマ線 - ATOMICA -
非破壊検査においてガンマ線は、イリジウム(¹⁹²Ir)やコバルト(⁶⁰Co)などの放射性同位元素を密封線源として使用します。線源は常に全方向に放射線を発しているため、放射線を遮蔽する鉛などの材質でできた線源容器に格納して保管し、専用照射室での試験が基本となります。
X線とガンマ線の透過力には明確な違いがあり、一般的にガンマ線の方が高い透過力を持ちます。α線、β線、γ線(X線)の透過力を比較すると、透過力が最も大きいのがγ線で、次にβ線、透過力が最も小さいのがα線という順序になります。この違いは金属加工における非破壊検査での使い分けに重要な意味を持ちます。
参考)放射線の透過と遮蔽
X線・ガンマ線ともに透過力が強く、空気中を数十mから数百mまで飛び、体に当たった場合は体の奥深くまで到達することがあります。遮蔽においては、両者とも鉛でさえぎることができますが、鉛はX線、ガンマ線などの波長の短い電磁波に対して極めて良好な吸収材として機能します。純度が高い場合は中性子の照射を受けても放射化されない長所があり、遮蔽材としての鉛の用途はガンマ線、ベータ線、X線について最も効果的です。
参考)鉛のX線・放射線に対する特性
透過力の違いは検査対象の材質や厚みによる使い分けに影響し、厚い材料や高密度材料の検査では、より透過力の強いガンマ線が有効な場合があります。ガンマ線は透過力がきわめて強く、アルファ線、ベータ線とともに放射線の一つとして分類されていますが、その中でも特に強い透過能力を持ちます。
参考)研究解説:XAFS その1
金属加工業界において、X線とガンマ線は放射線透過試験(RT)として重要な非破壊検査手法に活用されています。この検査方法では、放射線を対象物に照射し、その透過率の変化を利用して内部の欠陥を画像化します。放射線は物体の密度や厚みによって透過率が変化するため、透過した放射線を画像として検出し、欠陥の大きさや位置、製品の厚みなどを把握できます。
参考)非破壊検査とは?種類と特徴について解説!
X線検査の利点は、X線発生装置が移動しやすく、持ち込み検査・出張検査の両方に対応できることです。出張現場で撮影する際は、X線管の焦点から基本的に5m以内を立入禁止区域とし、電源制御により安全管理が比較的容易です。一方、ガンマ線検査では線源が小さいため、狭小箇所や管内部からの撮影も可能という特徴があります。
両検査手法とも金属材料、非金属材料を問わずに適用でき、検査対象物の内部きずの検出ができ、配管の減肉部やスケールの詰まりなど内部状況を確認できます。撮影フィルムから欠陥の種類や形状が判別でき、保存性に優れているため、品質管理記録としても重要な価値を持ちます。溶接部の品質確認、配管内部の検査、電子回路基板の実装確認など、金属加工現場での多様な用途に対応しています。
参考)非破壊検査とは
金属加工分野において、X線は透過検査だけでなく回折現象を利用した構造解析という独自の応用分野があります。X線回折とは、結晶にX線を照射すると結晶中の各原子によりX線が散乱され、散乱されたX線が干渉し合って特定方向に対して強い回折X線が生じる現象です。この現象はブラッグの法則として知られ、格子面間隔をd、入射角をθとした場合、行路差が入射X線の波長λの整数倍の時に強め合いが生じます。
参考)https://www.trc-center.imr.tohoku.ac.jp/mono59_2.pdf
この技術は金属の結晶構造、残留応力、結晶方位の測定に活用され、金属加工後の品質評価や材料開発において重要な役割を果たしています。波長が原子間距離と同程度のため、原子散乱されたX線は強く回折し、物質の構造を決定することができるという特性を持ちます。ガンマ線では波長が短すぎるため、このような回折現象を利用した構造解析は困難で、X線独自の応用分野となっています。
金属加工における熱処理後の組織変化、加工硬化の程度、溶接による組織変化などの評価において、X線回折は欠かせない分析手法として位置づけられています。この分野では、レーザーコンプトン散乱ガンマ線のような次世代技術も開発されており、物質の透過力がX線よりはるかに高く、ビーム状の形状を持つという特徴から新たな応用が期待されています。
参考)https://www.qst.go.jp/uploaded/attachment/9865.pdf