車の塗装における「ゆず肌」現象は、塗装面がゆずの皮のように細かい凹凸で覆われてしまう不良状態です。工業塗装と自動車塗装では、この凹凸状態は許容されない品質不良として扱われます。特に環境因子による影響は避けられず、湿度管理がゆず肌防止の要となります。
湿度が高すぎる環境では、塗料が空気中の水分と反応しやすくなり、乾燥時間が不均一になります。実務では推奨湿度範囲(一般的に45~85%)を厳守することが重要です。塗装ブース内の相対湿度が高湿域に傾くと、塗料の乾燥が遅延し、適切な塗膜厚が形成されません。逆に低湿度環境では乾燥が早すぎ、塗料が流れ広がる前に固化してしまいます。この"セッティングタイム"の確保が、滑らかな塗膜形成の鍵です。
<参考>大阪の板金塗装専門店での実例:湿度コントロール機能付き塗装ブース導入により、ゆず肌不良が30%削減
https://bsh.osaka/column/2754/
塗装ブース内の温度が高いと、塗料の乾燥が促進され、塗料が急速に固まります。特に夏季の暑い環境では、被塗物そのものの温度も上昇し、ゆず肌発生リスクが格段に高まります。30℃を超える環境では、標準的な塗料でも乾燥速度が早すぎて凹凸が固着化しやすくなります。
希釈シンナー選定が極めて重要な役割を果たします。高速乾燥シンナーを誤って使用すれば、どんなに熟練者でもゆず肌を避けられません。一方、乾燥性が遅いシンナーを選択するか、リターダー(遅乾剤)をブレンドすることで、塗料が均一に流れ広がるための時間を確保できます。塗料とシンナーの相性確認は、施工前の必須プロセスです。
<参考>塗装不良対策の専門知見:シンナー選定とタレ・ブツ不良の関係性
https://ncc-nice.com/ncc-coating/knowledge/measures/yuzuhada/
塗装ガンの運行技術は、ゆず肌防止における最重要項目です。運行速度が速すぎれば、塗料が均一に広がらずに不均一な塗装膜が形成されます。一般的には、水平・垂直方向の運行速度は30~50cm/秒の範囲内で調整され、この速度を厳守することがゆず肌防止の基本です。
被塗物とスプレーガンの距離も同等に重要です。距離が遠すぎると、塗料ミストが被塗物に到達する前に粒子分離が進行し、凹凸が生じやすくなります。一般的には25~30cm程度の距離を保つことが推奨されますが、使用する塗装ガンの種類や塗料特性に応じて微調整が必要です。塗装前にスプレーパターンをテストボード上で確認し、「丸いパターン」または「楕円形パターン」が均一に吹き付けられるかを検証することが、工業塗装の鉄則です。
ゆず肌が発生した場合、研磨とポリッシュにより修正可能です。完全乾燥後、粗粒度(例:800番~1000番)の研磨材で初期研磨を開始し、段階的に細粒度(例:2000番~3000番)へ移行します。この段階的研磨により、ゆず肌の凹凸が平坦化されます。
研磨後のポリッシング工程では、微細な研磨剤を含むポリッシングコンパウンドを使用し、塗装面に光沢を回復させます。ただし、過度な研磨圧は塗膜損傷を招くため、軽い圧力での施工が必須です。研磨・ポリッシング作業は塵埃の少ない清潔な環境で実施し、作業中の新規傷が入るのを防止することが重要です。
塗装業界では従来、「ゆず肌は修正可能」という認識が一般的でしたが、実務では予防に注力することが最終的なコスト削減に直結することが判明しています。塗装前の"環境スコアリング"システム導入により、湿度・温度・塵埃レベルを数値化して記録することで、不良が集中する時間帯や季節パターンが可視化されます。
例えば、午前10時~午後2時の時間帯や、雨天翌日の高湿度環境で不良が集中する場合、その時間帯の塗装スケジュール回避により、不良率が劇的に低減します。さらに、塗装ブース内への"エアーカーテン"導入により、外気の温度変動を遮断することで、年間を通じた安定した塗装環境を実現できます。多くの最新塗装施設では、IoT機能付き乾燥炉と連動したリアルタイム環境監視システムが導入され、ゆず肌リスクが自動検知される仕組みが構築されています。
この予防アプローチにより、修正コスト(人件費・研磨材料費)を削減し、生産効率を向上させることが可能です。塗装トラブルを"やむを得ない現象"ではなく、"防止可能な管理対象"と位置づける経営哲学が、高品質塗装施設の特徴となっています。
ゆず肌塗装は、環境・材料・技術の三要素が複合的に関連して発生する現象です。金属加工従事者にとって、この不良の原因構造を深く理解し、予防と修正の両面で対応力を持つことが、顧客信頼と施設の競争力を左右します。特に環境管理とシンナー選定の細微な工程調整が、品質向上の地盤となることを念頭に、日々の塗装業務に臨むべきです。