金属加工業界において「省人化」という言葉をよく耳にしますが、似た概念である「省力化」「少人化」との違いを正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。これらの概念の違いを明確にし、金属加工業への適切な適用方法を検討していきましょう。
「省力化」とは、作業負担の削減を指します。具体的には、作業者一人当たりの作業量を減らし、作業効率を向上させることを目的としています。例えば、スカラロボットを導入して特定の作業を自動化し、作業時間を従来比で60%削減するといった取り組みが省力化に当たります。この場合、人員削減までは行わず、作業者の負担軽減が主目的となります。
一方、「省人化」は作業を省力化した上で、1作業あたりの作業者数も実際に削減することを意味します。単に人件費削減を目的とするだけでなく、省力化によって空いた人材を他の工程や創造的活動に振り分けることも含みます。これはトヨタ生産方式(TPS)に由来する概念で、生産における徹底的な無駄排除を目指すものです。
「少人化」(しょうにんか)は、受注数や生産量に応じて作業者数を変動させながら一定の生産性を維持する方法です。これも TPS 由来の概念で、繁忙期には作業者数を増やし、閑散期には減らすという柔軟な運用を可能にします。
金属加工業において省人化を実現する主な手段は、人が行っていた作業をロボットなどの自動化設備に代替させることです。例えば、プレス加工における製品のセットと取り出し作業を協働ロボットに任せることで、1人分の作業を省人化できます。また、研削・研磨作業など熟練工の技術に依存していた工程も、最新の自動化技術により標準化・効率化が可能になっています。
ただし、省人化は「人を減らす」という表現のため、センシティブに捉えられがちな面もあります。重要なのは、省人化は単なる人件費削減ではなく、「人を活かす」ための取り組みであるという点です。金属加工の現場において、単純作業や危険作業をロボットに任せることで、人はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。
金属加工業における省人化の具体的な成功事例を見ていくことで、自社での導入に向けたヒントを得ることができます。ここでは、実際に省人化に成功した金属加工企業の事例と、その成功のポイントを解説します。
【事例1】プレス加工工程への協働ロボット導入
精密プレス金型の設計・製造を行う石川県の株式会社有川製作所では、プレス加工における製品セットと取り出し作業を可動式の協働ロボット2台に代替させました。これにより1人分の作業が省人化され、人材を他の工程に再配置することができました。
【事例2】ラミネート加工への協働ロボット導入
東京都の大成ラミネーター株式会社は、多品種少量生産のラミネート加工工程に協働ロボットを導入しました。従来は作業者の技能に依存していた体制から、ロボットによる自動化へと移行し、1人分の作業の省人化と従来比2倍の出荷量を実現しています。特に注目すべき点は、多品種少量生産という変量生産への対応を可能にした点です。
【事例3】搬送工程への自律走行搬送ロボット導入
三菱ふそうトラック・バス株式会社は、シャーシ組付工程における部品搬送に自律走行搬送ロボット(AMR)を導入しました。従来は400カ所以上ある部品ストックに作業者が巡回して部品を供給していましたが、これをAMRに代替させることで、業務効率を向上させるとともに作業者の負担を軽減しました。
【事例4】全自動鍛造システムの構築
白光金属工業では、高周波誘導炉とロボットを組み合わせた全自動鍛造システムを構築し、製造コストを約30%削減することに成功しました。材料投入以降は人の手を介する必要のない、鍛造・切削一気通貫の全自動加工システムを確立しています。
これらの事例から見えてくる省人化成功のポイントは以下の通りです。
金属加工業界は現在、深刻な人材不足と技術継承の問題に直面しています。熟練工の高齢化や若手人材の確保難といった課題に対して、省人化はどのようなソリューションを提供できるのでしょうか。また、品質向上という観点からも、省人化がもたらすメリットを検証します。
人材不足の解決
金属加工業界では、特に熟練した技術を要する研磨、鍛造、精密加工などの分野で人材不足が深刻化しています。省人化によって、以下のような解決方法が可能になります。
品質課題の解決
省人化は品質向上にも大きく貢献します。具体的には以下のような効果があります。
多品種少量生産が求められる現代の金属加工業においては、単純な自動化だけでは対応できない場面も多くあります。そこで重要になるのが「柔軟な自動化」です。協働ロボットやAIを活用した自律型システムは、異なる製品や仕様にも柔軟に対応できるため、多品種少量生産と省人化を両立させることが可能になります。
また、検査工程での省人化も品質向上に大きく貢献します。画像認識技術やAIを活用した自動検査システムにより、人の目では見落としがちな微小な欠陥も検出できるようになり、出荷前の品質保証レベルが向上します。
省人化に取り組む最大の動機の一つは、言うまでもなくコスト削減効果です。しかし、自動化設備の導入には相応の初期投資が必要となるため、投資対効果(ROI)の観点から慎重に検討する必要があります。ここでは、実際の数値を交えながら、省人化によるコストダウン効果と投資回収の考え方について解説します。
コストダウン効果の実例
白光金属工業の事例では、高周波誘導炉とロボットを組み合わせた全自動鍛造システムの導入により、約30%の製造コスト削減に成功しています。この30%という数字は、金属加工業の省人化においてよく見られる削減率です。
コストダウン効果は主に以下の要素から生まれます。