レアメタルのリサイクル回収技術と都市鉱山の循環

スマートフォンやEV用電池に含まれるレアメタルはどのように効率的に回収・再利用されているのか。熱還元法と湿式法の違いから最新の回収技術まで、金属加工従事者必見の資源循環の実態と企業の取組を解説します。

レアメタル回収の実装技術

レアメタルのリサイクル回収技術
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熱還元法による処理

スクラップを高温加熱し金属を還元回収する工程。従来は金属種ごとの分離が困難でしたが、新技術により分離精度が向上。ネオジム磁石などの回収に活用

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湿式法による分離抽出

酸や溶媒を用いた液体相での抽出。溶媒抽出技術により高純度製品化が可能。コバルト・ニッケルの高精度回収で実績あり

フラッシュジュール加熱法

数秒で3000℃に加熱する最新技術。希土類の浸出速度が1000倍に向上。低濃度酸での抽出が可能になり環境負荷が低減

レアメタル回収における熱還元法と湿式法の選択基準

 

レアメタル回収技術は、処理対象となる廃棄物の形状や含有金属の種類により使い分けられています。熱還元法は高温でスクラップを融解させ金属を還元する方式で、特にネオジム磁石を含むモーター部品やエアコンのコンプレッサーの回収に適しています。一方、湿式法は酸や特殊な溶媒を用いて液体相で金属を抽出する方式で、複数の金属を高純度で分離回収でき、リチウムイオン電池からのコバルトニッケル・マンガン・リチウムの同時回収に実績があります。

 

従来の熱還元法では、レアメタルを金属種ごとに分離回収できず、混合合金として回収される課題がありました。しかし、アセチルアセトン蒸気を利用した新型分離技術では、沸点の差を活用して金属種ごとの回収が可能になり、有機金属ガスから各種金属を約80%の精度で回収できるようになっています。この技術により、リチウムイオン電池の正極材からのコバルト単体回収が現実化し、処理後のアセチルアセトンの循環利用で環境負荷が大幅に削減されています。

 

レアメタルリサイクルの都市鉱山活用と経済性

都市鉱山とは、使用済みの工業製品に含まれるレアメタルや貴金属を鉱山に見立てて資源化する概念で、レアメタルリサイクルの根幹をなしています。携帯電話1トン(約1万台)からは約280gもの金が回収でき、これは天然の金鉱山1トンから採掘できる金わずか5gと比較すると、約56倍の効率を誇ります。この経済性の差は、都市鉱山が既に工業製品として加工された高品質な金属を対象としているため、精鉱化のコストが低く抑えられることに起因しています。

 

レアメタルのリサイクルでは、鉱石から採掘・精錬する場合に発生する放射性廃棄物が完全に排除される点も見落とされがちですが、極めて重要な特徴です。例えば、希土類元素のネオジムを天然鉱石から抽出する際には、ウランやトリウムなどの天然放射性物質を含む廃棄物が必ず発生します。しかし、工業製品のスクラップからリサイクルする場合には、これらの放射性廃棄物が発生しないため、処分コストと環境負荷の両面で大きなメリットが生じます。

 

リサイクル金属は「水平リサイクル」と呼ばれる方式で、品質を落とさずに同等の製品に再生できるため、何度もの循環利用が可能です。これにより資源輸入に依存する日本経済において、国内資源の確保がしやすくなり、レアメタル供給国の限定による価格変動リスクの軽減が期待できます。

 

レアメタル回収における廃棄物処理の最新事例

使用済み小型家電からのレアメタル回収は、日本全国で展開されている法定リサイクル制度の対象となっています。スマートフォン、ノートパソコン、デジタルカメラなどの小型電子機器には、ネオジム磁石(ジスプロシウム・ネオジム含有)、タンタルコンデンサ、リチウムイオン電池が広く用いられており、これらから効率的にレアメタルを回収する技術体系が確立されています。

 

JX金属株式会社の実績では、2012~2013年度にリチウムイオン電池の廃正極材496tを処理し、コバルト60t、ニッケル145tを回収・製品化しました。同社が開発した溶媒抽出法では、従来技術では困難だったマンガンとリチウムの同時回収が可能になり、純度99.95%の高品質な金属製品として再生産されます。

 

廃電子基板からのタンタル回収、ハイブリッド自動車用駆動モーターのネオジム磁石回収、超硬工具からのタングステン回収など、産業用途別の専門的な回収体制が全国で展開されています。これらの回収事業は、製造業や流通業の廃棄物処理段階で実施され、自動車メーカー、電機メーカー、鉱山会社などが協力して実行されています。

 

レアメタル回収の環境負荷低減と今後の技術課題

レアメタルの回収プロセスで発生する環境汚染は、従来の湿式法における酸性廃液が主要な問題でした。しかし、新開発のアセチルアセトン蒸気法では、酸を用いない有機金属ガスの分離により、酸性廃液がまったく発生しない低環境負荷なシンプルプロセスが実現されています。反応後にアセチルアセトンが得られるため、溶媒を循環利用でき、処理コストと環境負荷の両面で優位性を持ちます。

 

フラッシュジュール加熱法では、数秒で~3000℃に加熱することで、従来では浸出困難だった難溶性のレアメタル化合物を素早く活性化させ、浸出速度を約1000倍に向上させています。この技術により、従来は0.1M程度必要だった硫酸などの酸濃度が0.01Mの極低濃度で済むようになり、廃液処理のコスト削減と環境保全が同時に達成できます。

 

今後の課題として、バイオテクノロジーを応用した新型バイオリーチング技術、微生物による金属抽出、ペプチドバイオソーベント技術など、より温和で環境親和的な回収プロセスの実用化が進められています。特に希土類元素の安定供給確保は、EV電池、再生可能エネルギー機器、防衛産業などの戦略産業に直結する重要課題として、政府・産業界を挙げた技術開発が加速しています。

 

レアメタルリサイクルに関する詳細な技術情報および実施企業一覧。
産業環境管理協会のレアメタルリサイクル実施企業データベース
都市鉱山の概念と資源循環の経済学に関する業界向け解説。
日本は世界有数の資源国の記事
リチウムイオン電池からのコバルト・ニッケル回収における最先端の溶媒抽出技術と実績データ。
JX金属による湿式リサイクル技術の実装事例

 

 


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