熱可塑性樹脂一覧と金属加工従事者が知るべき特徴

金属加工業界で重要性が高まる熱可塑性樹脂について、主要な種類から加工時の注意点、金属代替材として活用する際のポイントまで詳しく解説。汎用プラスチックからスーパーエンプラまで網羅的に紹介し、金属加工従事者が知っておくべき基礎知識をまとめました。今後の材料選定に迷っていませんか?

熱可塑性樹脂一覧と分類

熱可塑性樹脂の主要分類
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汎用プラスチック

PE、PP、PVC、PS、ABSなど日常的に使用される樹脂群で、100℃未満の耐熱性を持つ

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エンジニアプラスチック

PC、PA、POMなど100℃以上の耐熱性を持ち、機械的強度に優れた樹脂群

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スーパーエンプラ

PEEK、PPS、PAIなど150℃以上の耐熱性と優れた機械的性質を持つ高性能樹脂群

熱可塑性樹脂は、加熱により軟化し冷却により硬化する特性を持つプラスチック素材で、金属加工業界でも金属代替材料として注目を集めています 。これらの樹脂は大きく3つのカテゴリに分類され、それぞれ異なる特性と用途を持っています。
参考)熱可塑性樹脂 - Wikipedia

 

汎用プラスチックは最も身近で安価な樹脂群として位置づけられ、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂などが含まれます 。これらは耐熱性が100℃未満でありながら、加工性に優れ大量生産に適した特性を持っています 。
参考)熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い【分類一覧付き】 - 素材の…

 

エンジニアリングプラスチックエンプラ)は、100℃以上の耐熱性を持ち、機械的強度に優れた中級グレードの樹脂群です 。ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)などが代表的な種類として挙げられます 。
参考)スーパーエンプラとは?その特徴や用途について詳しく解説!|岡…

 

スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)は、150℃以上の耐熱性と優れた機械的性質、耐薬品性、寸法安定性を持つ最高性能グレードの樹脂群です 。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PAI(ポリアミドイミド)などが含まれ、航空宇宙や医療機器などの高度な用途で使用されています 。
参考)スーパーエンジニアリングプラスチックとは?

 

汎用プラスチックの熱可塑性樹脂種類と特徴

汎用プラスチックは金属加工業界において最も使用頻度が高い樹脂群で、コストパフォーマンスに優れた材料として広く活用されています 。
参考)【汎用樹脂】身の回りの様々な生活用品に使われるをPP,PE,…

 

ポリエチレン(PE)は、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)の2種類に大別され、軽量で柔軟性があり、耐衝撃性と化学安定性に優れています 。袋、ボトル、容器、パイプ、シートなどの幅広い用途で使用され、比重が0.94~0.97と軽量であることが特徴です 。
参考)お取扱い材料(熱可塑性樹脂)

 

ポリプロピレン(PP)は、軽量で堅牢、化学的に安定しており、ヒンジ特性(折り曲げ耐久性)と食品衛生性に優れています 。比重が0.91と水に浮くほど軽量で、荷重たわみ温度が80~120℃と比較的高い耐熱性を持ちます 。
ポリ塩化ビニル(PVC)は、強靭で化学的に安定しており、可塑性と柔軟性を兼ね備えた安価な樹脂です 。絶縁性、耐水性に優れ、建材、電線、軟管、屋外用品、医療機器などに広く使用されています 。
ポリスチレン(PS)は、軽量で透明性があり、成形加工性に優れているため、食品容器、飲料カップ、衝撃吸収材、家庭用品などに使用されています 。
ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、高い耐衝撃性、剛性、耐熱性を持ち、成形加工性と表面仕上げの美しさに優れています 。自動車部品、玩具、電子機器、スポーツ用品などの用途で、金属代替材料として積極的に採用されています 。

エンジニアプラスチックの熱可塑性樹脂分類と用途

エンジニアプラスチック(エンプラ)は、通常のプラスチックよりも機械的強度に優れ、100℃以上の耐熱性を持つ中級グレードの熱可塑性樹脂群です 。金属加工業界では、金属部品の代替材料として自動車部品や電気製品の外装・機構部品に広く採用されています 。
ポリカーボネート(PC)は、優れた耐衝撃強度、透明度、耐熱性を持ち、比重1.2、連続使用温度120℃という特性を有しています 。カバー、建材、のぞき窓などの用途で使用され、特に透明性が要求される部品に適しています 。
ポリアミド(PA、ナイロン)は、機械的性質に優れた結晶性樹脂で、耐摩耗性、耐薬品性、耐油性に優れています 。6ナイロンの場合、比重1.13、連続使用温度100℃の特性を持ち、自動車部品や電子電気機器部品に使用されています 。
ポリアセタール(POM)は、ポリアセタールポリマーを原料とし、耐疲労性に優れた特性を持っています 。比重1.41、連続使用温度95℃で、カム、ガイド、ライナー、絶縁板、スターホイルなどの精密部品に使用されています 。
MCナイロン(MC901、MC900NC)は、ナイロンモノマーを重合・成形した樹脂で、機械的強度と加工性に優れています 。比重1.16、連続使用温度120℃で、車輪、ギヤ、ローラー、軸受、ライナーなどの機械部品に適用されています 。

スーパーエンプラの熱可塑性樹脂グレードと性能

スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)は、150℃以上の耐熱性と優れた機械的強度、耐薬品性、寸法安定性を持つ最高性能グレードの熱可塑性樹脂です 。金属加工業界では、金属部品の代替として航空宇宙、自動車のエンジン周辺部品、医療機器などの厳しい環境下で使用されています 。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、耐熱性、高機械強度、耐薬品性に優れた超高性能樹脂です 。比重1.3、連続使用温度250℃という極めて高い性能を持ち、航空宇宙関連部品、医療機器、電子回路基板などで使用されています 。
参考)PEEK加工とは?基本特性から加工の注意点、選定ポイントまで…

 

PPS(ポリフェニレンスルフィド)は、耐薬品性と寸法安定性に優れ、難燃性を持つ樹脂です 。比重1.35、連続使用温度220℃で、自動車のエンジン周辺部品や電子部品に使用されています 。
PAI(ポリアミドイミド)は、高温特性と機械的強度に優れたスーパーエンプラですが、ナイロン系特有の粘りがあり、切削加工においては注意が必要です 。
参考)【樹脂の切削加工】 最適な素材選びまで丸っと解説!

 

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン)は、化学安定性、電気的特性、低摩擦係数に優れ、連続使用温度260℃という極めて高い耐熱性を持っています 。
これらのスーパーエンプラは、従来金属でしか実現できなかった高性能用途において、軽量化とコスト削減を実現する革新的な材料として位置づけられています 。

熱可塑性樹脂の特性比較表と選定指針

熱可塑性樹脂の選定において、金属加工従事者が把握すべき重要な特性比較を以下に示します。

 

分類 代表樹脂 耐熱温度(℃) 比重 主な特徴 金属加工での用途
汎用プラスチック PE 90-110 0.94-0.97 軽量、耐薬品性 容器、配管部品
PP 80-120 0.91 軽量、ヒンジ特性 自動車内装部品
PVC 69-110 1.3-1.58 安価、絶縁性 電線被覆、建材
ABS 86 1.05 耐衝撃性、加工性 筐体、カバー部品
エンプラ PC 120 1.2 透明性、耐衝撃性 保護カバー、光学部品
PA6 100 1.13 耐摩耗性、強度 ギヤ、軸受部品
POM 95 1.41 耐疲労性、寸法安定性 精密機械部品
スーパーエンプラ PEEK 250 1.3 超耐熱性、化学安定性 航空宇宙部品
PPS 220 1.35 寸法安定性、難燃性 エンジン周辺部品

 

材料選定においては、使用環境温度、要求強度、化学的環境、コスト制約などを総合的に評価することが重要です 。また、成形方法(射出成形押出成形、切削加工)によっても適用可能な樹脂が変わるため、加工プロセスとの適合性も考慮する必要があります 。
特に金属加工業界では、従来の金属部品を樹脂に置き換える際、強度計算の見直しや設計変更が必要となる場合が多く、材料特性を正確に理解した上での適用検討が求められています 。
参考)金属加工と樹脂加工の違い(材質変更時の注意点)

 

熱可塑性樹脂の独自の加工技術と金属加工との融合

近年、金属加工業界では熱可塑性樹脂と金属を組み合わせたハイブリッド加工技術が注目を集めています 。この技術では、加熱した連続繊維プリプレグ材と射出装置により供給された短繊維含有の溶融樹脂を同一型内でプレス成形することで、従来の単一材料では実現できない特性を持つ部品を製造できます 。
参考)ハイブリッド成形におけるプリプレグ加熱条件および射出樹脂温度…

 

金属と樹脂の複合化技術には、表面処理の有無や結合方法によって複数の分類があります 。熱可塑性樹脂の場合、表面処理なしで樹脂成形したものを金属と後から接合する方法や、樹脂成形と同時に金属と接合する方法が採用されています 。
参考)金属と樹脂との複合化の分類 - 金属・樹脂 直接接合ラボ

 

繊維強化熱可塑性複合樹脂(FRTP)は、機械的強度の向上を目的として繊維を強化材として用いた材料で、比強度、耐衝撃性、耐久性、耐熱性に優れています 。自動車業界では軽量化とCO2排出量削減の観点から、金属製部品の代替材料として積極的に採用されています 。
参考)射出成形におけるスクリュ形状の違いによるFRTPの繊維長と分…

 

射出成形における課題として、樹脂可塑化工程中のせん断応力により繊維が折損することがあり、これはスクリュデザインや成形条件(スクリュ回転速度、背圧、射出速度、保圧)に大きく依存します 。金属加工従事者がこれらの樹脂加工に携わる際は、金属加工とは異なる技術的配慮が必要となります。
マイクロインプリント技術では、μmオーダーの微細な凹凸を有する金型形状を熱可塑性樹脂(PMMA)に転写する技術が開発されており、金型を使って樹脂を塑性変形させる新しい加工分野として注目されています 。これは従来の金属加工技術と樹脂加工技術を融合した革新的なアプローチといえます。
参考)塑性加工に関する研究について