毛細管現象は、細い管状物体の内側で液体が外部からのエネルギーを与えられることなく管の中を移動する物理現象です 。この現象は表面張力、壁面の濡れやすさ、液体の密度の3つの要素によって決定されます。
参考)毛細管現象 - Wikipedia
ティッシュペーパーを使った実験では、ティッシュの細かい繊維が細い管と同じ役割を果たし、水を重力に逆らって上昇させることができます 。コップの水面からティッシュによって吸い上げられた水は、毛細管現象でティッシュの反対側まで達し、一滴ずつ落下する現象が観察できます 。
参考)【毛細管現象】水のみで動いています | 自由研究におすすめ!…
この現象の原理は以下のメカニズムで説明されます。
・表面張力によって液面は縮まろうとする方向に力が加わる
・壁面付近の傾きを持った液面が縮まることで水面を持ち上げる
・上昇力は壁面付近の表面張力の垂直成分と等しくなる
・上昇した液体の重さと釣り合うまで液面が上昇し続ける
毛細管現象の発生には、液体の表面張力と固体と液体の濡れやすさ、そして毛細管の直径という3つの要素が密接に関係しています 。水と水の分子間には分子間力(凝集力)が働き、水の分子同士が四方八方に引き合っています。
参考)【毛細管現象】容器の中から逃げ出す?水! | 自由研究におす…
水面の水の分子は空気に接しているため、水の中だけに引っ張られて表面が丸くなり、このときに水面に働く力が表面張力です 。細いガラス管を水につけると、水の分子に働く凝集力よりもガラスと水の分子との間に働く付着力の方が大きいため、水はガラス管の壁に引き寄せられて上昇します。
表面張力と毛細管を昇る高さは比例関係にあり、S(表面張力)とh(毛細管を昇る高さ)は比例します 。ガラス管内表面に対する液体の付着力と液体の表面張力が、液体の重力と釣り合うところまで上昇するので、細いガラス管ほどより高くまで水が上昇するのです 。
参考)https://teibow.co.jp/technology/nuclear.html
この物理的メカニズムは、建築現場での雨漏り問題の原因となることもあり、屋根材の隙間を塞ぐ工事を行った後、塗料やコーキング材が劣化してわずかな隙間ができると、雨水が毛細管現象により吸い上げられ屋根材の下に入り込んでしまいます 。
参考)なぜか止まらない雨漏り、毛細管現象が原因!?
金属加工業界において毛細管現象は、特にろう付け技術において極めて重要な役割を果たしています。ろう付けでは、接合する2つの母材の間に融点が母材より低いろうを溶かして落とし、毛細管現象によって浸透拡散させ、冷却して凝固することで接合を行います 。
このろう付け技術では、接合部材と部材の隙間が0mm~0.05mmあれば、溶けたろう材は毛細管現象により接合部の全体に行き渡ります 。毛細管現象を効果的に機能させるためには、接合される金属の表面を可能な限り清浄にしておく必要があり、オイル、錆、酸化被膜などは洗浄機にて予め除去しておきます 。
参考)https://www.chitose-kk.co.jp/brazing/techcolumn/007
現代の工業では、代表的な応用例として銅管の接合作業があります。銅管と銅管、または銅管と接手を突き合わせて、その2つの間に生じるわずかな隙間にろう材を浸透させるのは毛細管現象を活用しています 。この技術は母材を溶かさずにろう材を溶かして接着させる接合方法であり、母材を傷めずに接合することが可能です 。
参考)りん銅ろうと銀ろうの違いとは?|精密板金加工 配線組立.co…
溶融した金属フィラー(ろう材)は毛細管現象によって密接にフィットした部品間の狭い隙間に流れ込み、冷却時に強力な冶金学的結合を形成します 。この技術は極端な機械的・熱的負荷に耐えることができる強力で耐久性のある接合部を形成するため、精密な金属加工において重要な技術となっています。
参考)ろう接の基礎と応用 - Quod6 株式会社
建設・土木分野では毛細管現象が多様な用途で活用されており、特に排水システムや地盤工学において重要な役割を果たしています。表面張力、毛細管現象、サイフォン現象という自然の原理を利用した排水材が開発されており、切れ込みがある方を下にして敷設することで効果的な排水が可能となります 。
参考)ドレインベルト及びドレインパイプを利用した”土木排水システム…
不飽和地盤(不飽和水帯と毛管水帯)では、毛細管現象によって地下水を吸い上げたり、地上からの水を浸透させたりしています 。一般的に地上より地下の方が毛細作用は多く、土木工学における重要な考慮事項となっています。
参考)千三つさんが教える土木工学 - 2.2 不飽和地盤の水の流れ
毛細管現象を利用する環境保全型イチゴ養液栽培装置も開発されており、低コストで高設栽培を導入することが可能になっています 。また、毛細管現象による給水機能をもつ舗装の開発も進められており、舗装と熱環境の改善に貢献しています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7bbdeb3b0ac7eead4dfc7c766b2579a7ba22d938
建設現場では毛細管現象が問題となることもあり、スレート屋根の縁切り不足や塀の微細なクラック、コーキング材の細かな亀裂などに水が吸い上げられる現象が雨漏りの原因となることがあります 。このため、屋根塗装を考える際には「縁切り」「タスペーサー」という作業や道具を用いて、毛細管現象による雨漏りリスクを防ぐ必要があります。
現代の工業技術において、毛細管現象を利用した最も先進的な応用例の一つがヒートパイプ技術です。ヒートパイプは「毛細管現象」を活用して大量の熱を適切に放熱する技術として注目されています 。
参考)ヒートパイプ|Brightening the world|古…
この技術では、管内表面に対する液体の付着力と表面張力との作用で、管内の液体が上昇・下降するメカニズムを利用しています 。植物が根から水を吸い上げたり、ティッシュペーパーが水を吸収したりできるのと同様の現象を工業的に応用したものです。
古河電気工業では、長年培ってきた電子機器向け細径ヒートパイプの製造技術を活かし、銅管内部に金属粉を焼結させて「毛細管構造」を実現しています 。焼結した金属の強い吸収力を利用することで、低い場所から高い場所に水を移動できるようにしており、この技術により発熱源が冷却部よりも上部に位置する場合でも、重力に逆らって作動液を供給することが可能になりました。
この焼結金属粉を使ったヒートパイプは製品の傾きによらず放熱・均熱可能という特長を持ち、さまざまな向きで使われるスマートフォンやタブレットへの搭載が可能となっています 。従来の銅管内部に細溝を切った構造では不足していた能力を、毛細管現象の応用により大幅に改善したのです。
毛細管現象の応用は従来の工業分野を超えて、意外な領域でも活用されています。例えば、毛細管現象を応用した迅速in situ hybridization法による医療診断技術や 、毛細管現象を利用するキャピラリープレートの放射線検出器など 、先端技術分野での応用も進んでいます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e77b47eeca2f997db7f4154db37953ec8f4c1766
製造業では、MPS法による毛細管現象解析が行われており 、CIP法における毛細管現象の解析事例も蓄積されています 。これらの解析技術により、毛細管現象をより精密にコントロールし、工業応用の可能性を広げることが期待されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/82fd644be17b65787a7d8fc651ae6b313f3fd784
さらに興味深い応用として、熱毛管現象を利用したマイクロポンプ開発のための液滴輸送技術があります 。この技術では流路の微小化と熱毛管力差による液滴輸送を実証するための流路構造の作製が行われており、マイクロスケールでの精密な液体制御が可能になっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2012A/0/2012A_985/_pdf/-char/ja
錆の分野でも毛細管現象は重要で、毛細管凝縮という現象により、物と物の間にあるわずかなすき間(毛細管部分)に湿気が入り込み、湿気(気体)が水(液体)へと変化することで腐食が進行します 。このメカニズムの理解は、金属の防錆対策において極めて重要な知見となっています。
参考)錆びのことならサビペディア
これらの多様な応用例から分かるように、毛細管現象は単純な物理現象でありながら、現代工業の基盤技術として幅広い分野で活用されており、今後もさらなる技術革新の源泉となることが期待されています。