摩擦攪拌接合の最も大きなデメリットの一つが、従来の溶融溶接と比較した際の接合速度の遅さです 。この技術は材料を溶融させずに塑性変形によって接合するため、十分な摩擦熱の発生と攪拌時間が必要となります 。
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実際の製造現場では、接合速度の遅さが生産性の大幅な低下につながる可能性があります。特に大量生産が必要な自動車産業や建材分野では、この速度制約が導入の障壁となることが多いです 。
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参考)摩擦攪拌接合
参考)Friction-Stir-WeldingおよびGas-Tu…
解決策として、予熱装置を組み合わせたハイブリッドFSWや、複数ツールによる同時接合などの技術開発が進められており、これらにより接合速度の向上が期待されています 。
摩擦攪拌接合装置の設備コストは、従来の溶接機と比較して非常に高額です 。一次元接合装置で1,500万円から、三次元接合装置では5,000万円以上の初期投資が必要となります 。
参考)https://www.hitachi-hightech.com/file/jp/pdf/about/news/2001/nr20010717.pdf
この高コストの要因は、接合時の大きな反力に耐える剛性の高い機械構造と、精密な位置制御システムが必要なためです 。また、材料の種類や厚さに応じた最適な接合条件を設定するための高度な制御システムも価格上昇の要因となっています。
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中小企業にとっては特に初期投資の負担が大きく、投資回収期間の長期化が課題となっています。ただし、ランニングコストの面では溶接材料やガスが不要なため、長期的には経済性が向上する場合もあります 。
参考)https://www.chusho.meti.go.jp/sapoin/index.php/cooperation/project/detail/1100
摩擦攪拌接合において最も深刻な問題の一つがツールの寿命です。特に鉄鋼系材料の接合では、ツール寿命の短さが普及の大きな障壁となっています 。
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高融点材料の接合では、ツールが高温・高圧の厳しい環境にさらされるため、摩耗が激しく頻繁な交換が必要となります 。ステンレス鋼の接合では290m程度、通常の炭素鋼でも数百メートル程度の接合でツール交換が必要になることが報告されています 。
参考)https://nippon-itf.co.jp/pdf/news2015_04_17.pdf
参考)https://www.gitc.pref.nagano.lg.jp/reports/pdf/H24/01Zairyo/H24M06_23-27.pdf
対策として、Re添加Ni基超々合金ツールの開発により寿命延長が図られていますが、ツール自体の価格が高く、ランニングコストの増大は避けられません 。また、工具設計・製造技術に関連する特許も多く、技術的な制約も存在します 。
摩擦攪拌接合は工具の形状と動作範囲により、接合可能な形状に大きな制約があります 。複雑形状の部材や、すみ肉継手などの直交する接合面では、施工上の工夫が必要となり、場合によっては接合が困難になります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj2/55/11/55_12-RV-035/_pdf
また、接合部の寸法精度管理も重要な課題です。摩擦攪拌接合では、ギャップや段差の許容範囲が狭く、約1mm程度のギャップ裕度しかありません 。ギャップが2mm以上になると接合欠陥が発生するため、部材の加工精度と位置決め精度が厳しく要求されます 。
参考)https://patents.google.com/patent/JP4216048B2/ja
参考)https://orist.jp/technicalsheet/09001.pdf
これらの制約により、既存の製造工程への導入時には、部材設計の見直しや加工精度の向上が必要となり、追加的な投資が発生する場合があります。
摩擦攪拌接合では、従来の溶接とは異なる特有の欠陥が発生します。最も重要な問題がキッシングボンドと呼ばれる接合不良です 。これは接合界面で酸化膜が完全に除去されず、見た目は接合されているように見えるが実際には機械的強度がほとんどない状態です 。
参考)非線形超音波計測が可能な高機能剥離映像装置の開発
キッシングボンドは通常の非破壊検査では検出が困難で、超音波が透過するため正常な接合部と誤認されやすい特徴があります 。これは接合強度がないにも関わらず検出されないため、安全上大きな問題となります 。
参考)https://ims.evidentscientific.com/ja/automated-inspection/friction-stir-weld/fsw
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwstaikai/2006s/0/2006s_0_20/_pdf/-char/ja
参考)https://www.j-trec.co.jp/company/070/03/jtr03_32-37.pdf
また、接合終端部にはツールを引き抜いた穴が残り、トンネル状欠陥や攪拌不良による内部欠陥も発生しやすいため、品質管理には高度な検査技術と厳格な工程管理が必要となります 。
参考)https://www.jfe-tec.co.jp/download/pdf/3E8J-020-00.pdf