金は貴金属の中で最も化学的に安定した元素であり、酸素、硫黄、塩素といった腐食を促進する物質の影響をほぼ受けません。金の表面に形成される酸化膜は極めて薄く、基本的には発生しないため、金属光沢が長期間にわたって維持されるという特徴があります。この特性により、金は紀元前の古代文明で製造された装飾品でも現在でも色艶が変わらず保存されています。工業用途では、電子機器の接点やワイヤボンディング材として用いられ、接触抵抗を低く保つことで安定した通電性を確保します。金の価値安定性も重要な特性で、インフレーションや信用不安に強いため、資産としてのポジションも確立されています。さらに金は他の金属への親和性が高く、合金化する際に銅やプラチナと混合することで、硬度や色合いを調整できる柔軟性を持ちます。
金の最大の課題は材料費の高さです。銀や銅と比較して数倍から数十倍の価格差があり、大量生産品や装飾品以外では経済的な理由から採用が難しいケースが多くあります。また金は非常に柔らかい金属であるため、機械的強度が求められる部品には不向きです。加工時に変形しやすく、打ち抜きや切削などの加工では工具の選定に工夫が必要です。さらに金は高い融点(1064℃)を持つため、溶接や鋳造といった熱加工では特殊な技術と設備が必須となります。金の供給量は限定的であり、市場価格も変動が大きいため、部品加工の納期計画が立てにくいという運用上の課題も存在します。装飾品としての需要が高いため、工業用素材としての地位は限定的です。
銀は全ての金属の中で最も高い電気伝導率を有しており、次点の銅との差は明らかです。銀の導電率は銅の約105%で、わずかな差に見えますが、高精度な電気回路や無線周波数(RF)回路では顕著な性能差となって表れます。熱伝導率も同様に優れており、精密な温度管理が必要な医療機器や熱交換器での採用が増加しています。銀は金よりも加工性に優れ、切削、プレス、ろう付けなどの加工が比較的容易です。触媒作用も持つため、化学反応を促進する部品材料としても用いられます。銀の抗菌性は医療分野で重視される特性で、銀を含む素材は病院内の高接触面(ドアノブやベッドレール)に採用されています。銀めっきは他の金属の表面に施されることで、耐食性と導電性の両立を実現します。
銀の最大の問題は、酸素や硫化水素といった化学物質との反応により黒く変色(硫化銀の形成)することです。空気中の硫黄成分によって表面が黒くなり、見た目の劣化だけでなく導電性の低下をもたらします。装飾品では定期的なクリーニングが必須となり、工業用途でも接点部分の清浄性を保つためにコーティングが必要です。銀は金ほどではありませんが、銅と比較すると依然として高価であり、大量使用には向きません。銀の供給源はスズやニッケルなどの他の金属の採鉱の副産物が大半であり、供給量が安定しない傾向があります。銀の市場価格は金ほどではないものの、変動幅が大きく調達計画が複雑になります。また銀は展延性が高い(延ばしやすい)という特性から、精密機械部品のような強度が求められる用途では補強措置が必要な場合があります。
銅は導電率が銀に次ぐレベルであり、かつ材料費が安価(金や銀の数十分の一)であるため、電線やケーブル、電子回路基板といった大量生産品での採用が圧倒的です。銅の熱伝導性も優れており、調理器具から産業機械の熱交換器まで幅広く使用されています。銅は金属の中では柔らかい部類に入るため、曲げ加工や絞り加工、切削加工など複雑な形状への加工が容易で、工具の摩耗も比較的少なくなります。加工後も強度が落ちないという特性は、精密部品の製造では重要な利点です。銅の耐食性は他の金属と比較して優れており、特に海水環境での腐食に強いため、船舶部品や屋根材としての採用が広がっています。銅表面に形成される酸化膜(緑青)は不動体化層として機能し、さらなる腐食を防止します。銅は金や銀と異なり、磁性がない金属であるため、磁気の影響を受ける計測器での使用が可能です。銅には微量金属作用による抗菌効果があり、硬貨や医療用器具での採用が増えています。
銅は高い熱伝導性を持つという利点の裏返しとして、200℃を超える温度環境では急速に軟化する傾向があります。このため高温用途には適性が低く、耐熱性が求められる部品では素材の再検討が必要です。銅加工時には大量のバリが発生する傾向があり、特に切削加工では後処理の手間が増加します。銅は展延性が非常に高いため、加工時に想定以上に伸びてしまい、寸法精度の維持が困難な場合があります。銅合金以外の純銅は機械的強度が相対的に低いため、高荷重下での使用には銅合金への変更が必要になります。銅の比重は他の工業用金属と比較して重いため、軽量化が求められる航空機部品などでは採用が限定的です。銅のもう一つの課題は、長期間の使用で徐々に硬度が上昇し、脆くなるという特性で、特に冷間加工を繰り返した部品では注意が必要です。
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