反射防止膜の種類と製造プロセスの基礎知識

金属加工における反射防止膜の各種類から製造プロセスまで、技術者向けに基礎知識を詳しく解説しています。単層から多層まで、どの反射防止技術があなたの用途に最適でしょうか?

反射防止膜の種類と製造技術

反射防止膜の主要技術分類
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単層反射防止膜

1層のコーティングで特定波長の反射を効果的に抑制する最も基本的な技術

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多層反射防止膜

複数層の積層により広帯域での反射防止効果を実現する高性能技術

グラデーション膜

連続的な屈折率変化により自然な反射防止効果を持つ次世代構造

反射防止膜の単層コーティング技術

単層反射防止膜は、ガラスなどの基材表面に1層のみの薄膜をコーティングした最もシンプルな構造です。単層膜の基本原理は、基材とコーティング界面の反射光(裏面反射)とコーティング層表面の反射光(表面反射)の2つの光が干渉により打ち消し合うことで反射防止を実現します。
参考)反射防止膜を徹底解説します! - 安達新産業株式会社 - 透…

 

単層膜で使用される代表的な材料には、MgF2(フッ化マグネシウム)やSiO2(二酸化ケイ素)があります。MgF2は屈折率が低く、紫外線領域での透過率が高いという特徴があり、比較的低コストでの製造が可能です。単層膜の膜厚は光の波長の4分の1(λ/4)に制御され、特定の波長において最大の反射防止効果を発揮します。
参考)反射防止コーティングとは?技術者向け基礎知識と応用 href="https://www.sdicompany.com/column/what-is-anti-reflective-ar-coating/" target="_blank">https://www.sdicompany.com/column/what-is-anti-reflective-ar-coating/amp;#82…

 

  • 低コストで製造プロセスが簡単
  • FAセンサーや特定波長のレーザー用途に適用
  • 可視光全体には対応できず色ムラが生じる場合がある
  • 真空蒸着法により比較的容易に成膜可能

反射防止膜の多層コーティング技術

多層反射防止膜は、高屈折率と低屈折率の材料を交互に積層することで、単層膜よりも高い反射防止効果を実現する技術です。高屈折率材料としてTiO2(二酸化チタン)、低屈折率材料としてSiO2(二酸化ケイ素)が一般的に使用されます。
多層膜コーティング技術では、異なる屈折率を持つ複数の薄膜を重ねることで、特定の波長域の反射を効果的に抑制したり、広い波長範囲で反射を低減させることが可能です。膜厚と屈折率を精密に制御することで、所望の特性を持つコーティングを実現できます。
カメラレンズ、顕微鏡、太陽電池パネル、ARグラスなど高精度が要求される光学機器に広く使用されています。多層膜では、各層の境界面でP偏光とS偏光の反射率が異なり、波長特性にも大きな影響を与えます。
参考)光学データ コーティング - シグマ光機株式会社

 

  • 広帯域での反射防止に対応
  • 複数波長や広角入射光に優れた性能を発揮
  • 成膜プロセスが複雑でコストが高くなる傾向

反射防止膜のグラデーション膜構造

グラデーション膜は、膜の屈折率が連続的に変化していく構造を持つ反射防止膜です。この構造により、従来の単層や多層膜とは異なるアプローチで反射防止効果を実現します。
参考)https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/40-01-sougouhoukoku.pdf

 

グラデーション膜の製造技術では、多孔質構造を利用した低屈折率膜が重要な役割を果たします。プロセス調整によって反射率がゼロになる低屈折率を実現することができ、通常の誘電体多層膜の最上層に多孔質低屈折率膜を設けることで、より広い波長範囲と入射角度での反射防止効果を得られます。
特に、モスアイ構造と呼ばれる生体模倣技術では、蛾の目の表面に形成されるナノ突起構造を人工的に再現します。この構造により、可視光の波長よりも小さい規則的な突起の並びによって、屈折率を連続的に変化させながら光を取り入れ、ほとんど反射しない特性を実現します。
参考)陽極酸化皮膜の多孔質構造を鋳型として作製した超低反射フィルム…

 

  • 連続的な屈折率分布により自然な反射防止効果を実現
  • バイオミメティクス技術により超低反射特性を達成
  • 防汚性、防曇性、抗菌性などの付加機能も併せ持つ

反射防止膜のコーティング材料と特性

反射防止膜に使用される材料は、その屈折率特性によって高屈折率材料と低屈折率材料に分類されます。高屈折率材料としては、TiO2(屈折率約2.3)、ZrO2(屈折率約2.1)、Ta2O5(屈折率約2.2)が主要な材料として使用されます。
参考)https://www.mdpi.com/2079-6412/6/2/20/pdf?version=1462870956

 

低屈折率材料では、MgF2(屈折率約1.38)、Al2O3(屈折率約1.6)、SiO2(屈折率約1.46)が一般的に採用されています。特にMgF2は最も低い屈折率を持つ材料の一つであり、単層反射防止膜での使用頻度が高い材料です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1962/23/5/23_5_374/_pdf

 

材料選択においては、求められる性能、コスト、環境条件を総合的に考慮する必要があります。例えば、SiO2は耐候性が高く耐久性に優れているため、屋外環境での使用に適しています。一方、TiO2は高屈折率であるため多層膜コーティングにおいて重要な役割を果たしますが、短波長側での吸収に注意が必要です。
参考)光学薄膜技術用語集

 

反射防止膜の製造プロセスと金属加工への応用

反射防止膜の製造プロセスは、大きく乾式法(ドライ)と湿式法(ウェット)に分類されます。乾式法には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法があり、湿式法にはウェットコーティング法があります。
参考)ARコート(反射防止膜)の基礎知識 │ コーティング豆知識

 

真空蒸着法は、真空中で材料を加熱蒸発させて基板に付着させる方法で、最も古くから使用されている製法です。しかし、密着性の問題があり、300°C程度の加熱が必要なため、プラスチック基板やセンサーには適用が困難な場合があります。
参考)車載用カメラの反射防止膜技術

 

スパッタ法は、低温で成膜でき密着性も高く、緻密な膜が作れることが大きな特徴です。ECRスパッタ法では、プラズマによりターゲット粒子を基板に付着させて薄膜を形成し、高融点材料や合金材料でも製膜が可能です。特に金属加工業界では、工具や部品の表面処理において耐摩耗性と反射防止性能を同時に実現できる技術として注目されています。
参考)無反射フィルム・モスアイフィルムとは?