アノード防食・カソード防食を金属加工現場で活かす実践メソッド

金属加工作業において重要な防食技術であるアノード防食・カソード防食の仕組みと適用法を詳しく解説。実際の現場でどう活用すべきでしょうか?

アノード防食・カソード防食の原理

防食技術の基本構造
カソード防食システム

金属材料を自然電位より低電位側に分極して腐食を抑制

🔋
アノード防食システム

不動態領域へ分極することで腐食進行を阻止

🛡️
電気化学反応制御

腐食電池反応における電子移動を人為的に制御

アノード防食と金属腐食の電気化学メカニズム

金属の腐食は、酸化反応(アノード反応)と還元反応(カソード反応)が同時に発生する電気化学反応です。鉄の場合、アノード反応では「Fe → Fe²⁺ + 2e⁻」により鉄イオンが水中に溶出し、同時にカソード反応では「H₂O + 1/2O₂ + 2e⁻ → 2OH⁻」により酸素が電子を受け取り水酸化物イオンを生成します。
参考)http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/guide/magazine/glossary/28.pdf

 

この腐食プロセスにおいて、電位が低い金属は「卑」と呼ばれアノードになりやすく、電位が高い金属は「貴」と呼ばれカソードになりやすい特性があります。金属内では電子がアノードからカソードへ移動し、腐食電流がカソードからアノードへ向かって流れます。
⚡ 腐食メカニズムのポイント

  • アノード:金属イオンが溶出する酸化反応部位
  • カソード:酸素が電子を受け取る還元反応部位
  • 腐食電流:金属内部とは逆方向に水中を流れる電流

カソード防食の外部電源方式と流電陽極方式

カソード防食(陰極防食)は、被防食体を自然電位より低電位側に分極することで腐食を抑制する技術です。この方法には外部電源方式と流電陽極方式の2種類があります。
参考)カソード防食(カソードボウショク)とは? 意味や使い方 - …

 

外部電源方式では、被防食体を陰極、不溶性電極(白金系電極や金属酸化物被覆電極)を陽極として、直流電源装置を使用して被防食体の電位を低電位側に分極させます。この方式は電流密度の調整が容易で、大型構造物の防食に適しています。
参考)https://www.nakabohtec.co.jp/wp-content/uploads/2025/03/HP%E6%8A%80%E8%A1%93%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%88%E6%B8%AF%E6%B9%BE%EF%BC%89Rev.0.pdf

 

流電陽極方式では、被防食体よりイオン化傾向の大きい金属(アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金など)を犠牲陽極として電気的に接続し、陽極自身の溶出により防食電流を供給します。
🔋 防食方式の特徴比較

  • 外部電源方式:大容量対応、電流調整可能、維持管理が必要
  • 流電陽極方式:メンテナンスフリー、設置簡単、電流密度限定

アノード防食の不動態化原理と適用条件

アノード防食(陽極防食)は、金属の電位を不動態の方向(貴方向)へ変化させることで防食効果を得る技術です。この方法では、金属表面に薄い酸化膜(不動態膜)を形成させ、腐食の進行を阻止します。
参考)電気防食法と被覆防食法 【通販モノタロウ】

 

不動態化現象は、金属表面において腐食速度が急激に減少する電位領域で発生します。鉄鋼材料の場合、特定の電位範囲で表面に緻密な酸化膜が形成され、これが腐食からの保護層として機能します。

 

しかし、アノード防食は適用環境が限定されており、特殊な化学工業環境での使用例が知られていますが、実施例は非常に少ないのが現状です。無機酸などを使用する装置の防食法として、限定的な適用が報告されています。
参考)金属の腐食と電気防食法(陰極防食法)

 

🛡️ アノード防食の特徴

  • 不動態膜による保護効果
  • 適用環境が特殊で限定的
  • 化学工業分野での実施例
  • 過度な分極による弊害リスク

金属加工現場でのカソード防食システム最適電位管理

金属加工現場におけるカソード防食の成功には、最適電位の管理が極めて重要です。中性溶液環境では、自然電位から-0.3Vが最適電位として経験的に確立されています。
この電位管理を誤ると「過防食」状態が発生し、水の電気分解により水素が発生します。発生した水素が金属内部に侵入すると水素脆化を引き起こし、金属材料の機械的性質が著しく劣化する危険があります。
実際の現場では、復極電位の測定により防食効果を確認します。電気防食中の通電電位と、一時停止時の復極電位の差である復極量が100mV以上シフトすることで、適切な防食効果が得られていることを判定できます。
参考)https://www.j-cma.jp/j-cma-pics/10007295.pdf

 

⚖️ 電位管理の実践ポイント

  • 自然電位から-0.3Vの最適電位維持
  • 過防食による水素脆化の回避
  • 復極量100mV以上での効果確認
  • 定期的な電位測定による管理

アノード防食における結晶粒界腐食の独自対策手法

金属加工現場で発生する結晶粒界腐食は、従来のカソード防食では対処が困難な特殊な腐食形態です。この現象は、金属が不適切な熱影響を受けた際に結晶粒界やその周辺の組織構造が変化し、結晶粒界がアノード、結晶粒がカソードとなることで発生します。
このような微視的な腐食電池に対して、独自のアノード防食アプローチとして「局所不動態化制御法」が注目されています。この手法では、結晶粒界部分の電位を精密に制御し、粒界近傍のみに選択的な不動態膜を形成させます。

 

具体的には、結晶粒界の電気化学的活性度を測定し、その部分の電位を段階的に貴方向に分極させることで、粒界選択腐食を抑制します。この技術は、溶接部や熱処理部などの局所的な組織変化による腐食問題の解決に有効です。

 

🔬 結晶粒界腐食対策の要点

  • 熱影響部の組織変化による電位差発生
  • 粒界選択的な不動態膜形成制御
  • 段階的分極による局所防食効果
  • 溶接部・熱処理部への適用可能性

この独自手法により、従来困難とされていた微視的腐食電池の制御が可能となり、金属加工現場での長期耐久性向上に寄与しています。特に、高温加工を伴う製造プロセスにおける品質管理の新たな指標として期待されています。