SI単位系の基本単位と組立単位の完全一覧

SI単位系は金属加工業において精密な測定と品質管理に欠かせない国際標準の単位体系で、基本単位から組立単位まで体系的に整理されている。2019年の定義改定によってより精密になったSI単位系を理解し、製造現場で正しく活用することで品質向上につながるのでしょうか?

SI単位系一覧と基本構造

SI単位系の完全構造
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7つの基本単位

長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度の基本単位

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22個の組立単位

力、圧力、エネルギーなど製造業で重要な組立単位

20個の接頭語

キロ、ミリ、ギガなど倍数を表す接頭語システム

SI単位系の7つの基本単位と物理定数定義

SI単位系(国際単位系)は、1960年に採択され、2019年に大幅に改定された世界共通の単位体系です 。7つの基本単位は、物理定数を基準とした定義に変更されました 。
参考)国際単位系(SI単位系)

 

基本単位一覧
参考)SI単位 一覧表・換算表(国際単位系)

 

  • 長さ:メートル(m)- 光速度299,792,458m/sに基づく定義
  • 質量:キログラム(kg)- プランク定数6.626×10⁻³⁴J·sに基づく定義
  • 時間:秒(s)- セシウム133原子の超微細構造周波数に基づく定義
  • 電流:アンペア(A)- 電気素量1.602×10⁻¹⁹Cに基づく定義
  • 熱力学温度:ケルビン(K)- ボルツマン定数1.381×10⁻²³J/Kに基づく定義
  • 物質量:モル(mol)- アボガドロ定数6.022×10²³mol⁻¹に基づく定義
  • 光度:カンデラ(cd)- 発光効率683lm/Wに基づく定義

2019年の定義改定により、従来の国際キログラム原器による質量定義から物理定数による定義へと転換しました 。これにより測定の精度と再現性が大幅に向上し、金属加工業の品質管理においてより高精度な測定が可能になっています。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/keiryogyoseishin/kihon/pdf/2019_001_s02_00.pdf

 

SI単位系の22個の組立単位と工業的応用

組立単位は基本単位を組み合わせて作られる単位で、22個が固有の名称と記号を持っています 。金属加工業では特に機械的性質を表す組立単位が重要です。
機械系組立単位

  • 力:ニュートン(N)= m·kg·s⁻² - 金属の応力試験で使用
  • 圧力:パスカル(Pa)= N/m² - 材料の強度試験、油圧システム測定
  • エネルギー:ジュール(J)= N·m - 加工エネルギー、熱処理エネルギー計算
  • 仕事率:ワット(W)= J/s - 機械動力、モーター出力測定

電気系組立単位

  • 電圧:ボルト(V)= W/A - 溶接電圧、電気加工条件
  • 抵抗:オーム(Ω)= V/A - 材料の電気抵抗測定
  • 磁束密度:テスラ(T)= kg·s⁻²·A⁻¹ - 電磁気加工での磁場測定

これらの組立単位は、金属加工における品質管理や工程管理で日常的に使用され、国際規格ISO 9001などの品質マネジメントシステムでも測定のトレーサビリティが要求されています 。
参考)JISQ10012:2011 計測マネジメントシステム−測定…

 

SI単位系の20個の接頭語と測定精度への影響

SI接頭語は10の整数乗を表し、非常に大きな値から極小の値まで効率的に表現できます 。金属加工業では、マクロからナノスケールまでの測定が必要です。
参考)10のべき乗倍を表す接頭語

 

大きな値の接頭語

  • ヨタ(Y):10²⁴ - 超大型構造物の応力計算
  • ゼタ(Z):10²¹ - 材料強度の極限値表現
  • エクサ(E):10¹⁸ - 大規模製造での総エネルギー消費
  • ペタ(P):10¹⁵ - データベースの材料データ容量
  • テラ(T):10¹² - 大型プレス機の圧力
  • ギガ(G):10⁹ - 大容量データ処理、高周波数
  • メガ(M):10⁶ - 圧力単位MPa、周波数MHz

小さな値の接頭語

  • ミリ(m):10⁻³ - 厚さ、寸法公差の基本単位
  • マイクロ(μ):10⁻⁶ - 表面粗さ、微細加工精度
  • ナノ(n):10⁻⁹ - ナノコーティング厚さ、材料組織
  • ピコ(p):10⁻¹² - 原子レベルの材料解析
  • フェムト(f):10⁻¹⁵ - レーザー加工の超短パルス時間

2022年には新たにロナ(R, 10²⁷)とクエクト(q, 10⁻³⁰)が追加され、より極端な値の表現が可能になりました 。これにより、材料科学の最先端研究から製造現場の実用測定まで、幅広い精度要求に対応できます。
参考)SI接頭語追加:NMIJ

 

SI単位系と金属加工業における測定トレーサビリティ

金属加工業では、製品品質を保証するため、すべての測定がSI単位系に遡及可能(トレーサブル)である必要があります 。ISO/JIS Q 10012では、測定機器の校正とSIへのトレーサビリティが要求されています 。
参考)https://nikkeishin.or.jp/topics/28_ISOJIS%20Q%E3%80%8010012.pdf

 

トレーサビリティチェーンの構築

  • 国家標準機関(NMIJ-AIST)での一次標準
  • 校正機関での二次標準による機器校正
  • 製造現場での日常測定機器管理
  • 測定不確かさの評価と記録

金属加工での重要測定項目
参考)https://downloads.hindawi.com/journals/mpe/2022/3955974.pdf

 

  • 寸法測定:長さ(m)、角度(rad)の高精度測定
  • 機械的性質:応力(Pa)、ひずみ、硬度測定
  • 熱処理管理:温度(K)、時間(s)、加熱速度制御
  • 表面処理:膜厚(m)、表面粗さ(m)の測定

測定不確かさの管理
参考)https://www.jsa.or.jp/datas/media/10000/md_2469.pdf

 

大型精密部品の加工では、熱膨張係数による寸法変化や測定環境の影響を考慮した不確かさ評価が必要です 。SI単位系に基づく標準化により、異なる測定機器や測定者間での測定結果の整合性が確保されます。
金属加工業におけるSI単位系の適用は、単なる測定単位の統一を超えて、製品品質の国際競争力向上と顧客満足度向上に直結する重要な要素です 。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/016_04_00.pdf

 

SI単位系改定の金属加工業への意外な影響と将来展望

2019年のSI改定は、金属加工業に予想以上の影響をもたらしました 。特に、プランク定数による質量定義の変更は、精密加工分野で革新的な変化を生んでいます。
参考)単位の基準は原器から物理定数の時代へ

 

ナノスケール製造への影響
従来の物理的原器に依存しない定義により、原子レベルでの質量測定精度が飛躍的に向上しました 。これにより、半導体製造装置部品の超精密加工や、量子デバイス用金属部品の製造において、従来不可能だった精度での品質管理が実現しています。
AIとIoTを活用した測定システムの進化
参考)https://www.tetras.uitec.jeed.go.jp/files/kankoubutu/h-050-03.pdf

 

物理定数に基づく新定義により、測定機器のデジタル化と自動校正システムの高度化が加速しています。製造現場では、リアルタイムでSI単位系にトレーサブルな測定データを収集し、AI解析による品質予測システムが実用化されています。

 

国際競争力への戦略的影響
参考)金属製品製造業とは?仕事内容や種類 将来性や課題まで解説

 

日本の金属製品製造業は、2022年に15.7兆円の貿易赤字を記録しましたが、SI単位系に完全準拠した高品質製品は第1次所得収支で35.3兆円の黒字に貢献しています 。精密測定技術と品質保証システムの輸出により、製造技術そのものが価値創造の源泉となっています。
次世代材料開発への応用
Fe-6.5%Si合金のような高性能材料の開発 では、従来の測定限界を超えた材料特性評価が必要です。新SI定義による超高精度測定により、材料の磁気特性や機械的性質を原子レベルで制御する技術開発が可能になり、電気自動車用モーター部品などの革新的製品創出につながっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6872844/

 

このように、SI単位系の改定は、金属加工業の技術革新と国際競争力強化の基盤として、予想を超える波及効果を生み出しています。