図面の見方 寸法の記号と公差、基準の種類をわかりやすく解説

図面に書かれた寸法や記号の意味を正しく理解できていますか?この記事では、寸法の基本から公差、幾何公差まで、図面を正確に読み解くための知識を解説します。あなたのスキルアップにつながる情報が満載です。これであなたも図面のプロに近づけるでしょうか?

図面の見方と寸法の基本

この記事でわかること
寸法記号の基礎

直径(φ)や半径(R)など、図面に必須の基本記号の意味と使い方をマスターできます。

公差の読み解き方

寸法公差と幾何公差の違いを理解し、精度の高い加工を実現する方法を学べます。

加工意図の推測

図面の指示から設計者の意図を読み取り、より付加価値の高い仕事ができるようになります。

図面の寸法記入に使われる基本的な記号の種類と意味

 

金属加工の現場で図面を正確に読み解くことは、品質を左右する非常に重要なスキルです 。図面には、製品の形状やサイズを伝えるための様々な「寸法補助記号」が使われています 。これらの記号の意味を正しく理解することが、図面読解の第一歩となります。まずは、頻繁に登場する基本的な記号からマスターしましょう。
最も基本的な記号は、直径を示す「φ(ファイ)」と半径を示す「R」です 。円形の穴やシャフトのサイズはφで、角の丸み(フィレット)などはRで指示されます 。意外と知られていないかもしれませんが、φはギリシャ文字の「ファイ」が由来です 。また、正方形の辺を示す「□(カク)」や、板の厚みを示す「t」、45°の面取りを指示する「C」も頻繁に使用されます 。例えば、「C5」と書かれていれば、それは「45°の面取りを5mmの幅で行う」という意味になります 。
以下に、主要な寸法補助記号とその意味をまとめました。

  • φ (ファイ): 円の直径を示します。パイプや穴の大きさを表すのに使われます 。
  • R (アール): 円弧の半径を示します。角の丸みや曲面の大きさを指定します 。
  • C (シー): 45°の面取りを示します。C5とあれば、45度の角度で5mmの面取りを行うことを意味します 。
  • t (ティー): 主に板材の厚さ (Thickness) を示します 。
  • □ (カク): 正方形の辺の長さを表します 。
  • SR: 球の半径 (Sphere Radius) を示します 。
  • CR: 制御された半径 (Controlled Radius) を示し、特定の機能を持つ曲線を指定する場合に使われます 。

これらの記号は、JIS(日本産業規格)によって定められており、図面を作成する上での共通言語となっています 。記号の意味を一つ一つ確実に覚えることで、図面からより多くの情報を迅速かつ正確に読み取れるようになります。
以下のリンクは、寸法補助記号について図解で解説しており、視覚的に理解を深めるのに役立ちます。

 

寸法補助記号1|機械製図の基礎知識7 - 株式会社イプロス

図面の寸法公差(サイズ公差)の読み方と注意点

図面に記載された寸法通りに部品を加工することは、現実的に不可能です。そのため、許容できる寸法のばらつき範囲を示す「寸法公差」が必ず指示されます 。かつては「寸法公差」と呼ばれていましたが、現在のJIS規格では「サイズ公差」という用語に変更されています 。この公差を正しく読み取ることが、要求される精度の部品を製造する鍵となります。
寸法公差の指示方法には、主に2種類あります。一つは、「±0.1」のように寸法数値に続けて許容差を直接記入する方法です 。もう一つは、「普通公差」を用いる方法です。図面の注記などに「JIS B 0405-m」といった記載がある場合、個別に公差が指示されていない寸法は、この規格で定められた公差(普通公差)を適用します 。加工精度は精級(f)、中級(m)、粗級(c)、極粗級(v)の等級で示され、通常は中級(m)がよく使われます 。
さらに、軸と穴がはまり合う部分には、「はめあい公差」が用いられます 。これは、H7やg6といったアルファベットと数字の組み合わせで指示されます。アルファベットが大文字(例: H7)なら穴の公差、小文字(例: g6)なら軸の公差を示します。この組み合わせによって、部品同士がスムーズに動く「すきまばめ」や、圧入が必要な「しまりばめ」など、機能に応じたはめあいを実現します。
公差を読み解く上での意外な注意点として、「累積公差」があります。複数の部品を組み合わせる際、各部品の公差が足し合わされて、最終的な製品の寸法が許容範囲を大きく超えてしまう現象です。これを避けるためには、基準となる面からの寸法で指示するなど、設計段階での配慮が求められます。加工者としても、どの寸法が重要で、どの部分の公差が厳しいのかを図面から読み取り、加工の優先順位を判断する必要があります。
寸法公差の考え方やJIS規格については、以下の資料で詳しく解説されています。

 

板金加工の基礎講座Ⅲ 図面の読み方・書き方 | 第13回 公差 Part1

図面の幾何公差が示す形状・姿勢・位置の指示

寸法公差だけでは、部品の「形」そのものの歪みを規制することはできません 。例えば、表面が完全に真っ直ぐか、2つの面が正確に直角か、といった形状や姿勢を指示するのが「幾何公差」です 。幾何公差は、専用の記号を用いて指示され、製品の性能や組み立て精度を保証するために不可欠な情報です 。
幾何公差は、その目的によって「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」の4つのグループに分類されます 。

  • 形状公差: 単独の形体が持つべき形状を規制します。真直度(まっすぐさ)、平面度(平らさ)、真円度(まんまるさ)などがあります 。
  • 姿勢公差: データム(基準)に対して、ある形体がどのような姿勢であるべきかを規制します。平行度、直角度、傾斜度などです 。
  • 位置公差: データムに対して、形体がどのくらい正確な位置にあるべきかを規制します。位置度、同軸度、対称度などが含まれます 。
  • 振れ公差: 部品を回転させたときの振れの大きさを規制します。円周振れと全振れがあります 。

これらの幾何公差記号は、四角い枠(公差記入枠)の中に、公差の種類を示す記号、公差値、そして基準となるデータムを指示する記号(A, Bなど)が記入されます。例えば、直角度を指示する場合、基準となる平面を「データムA」とし、それに対して直角であるべき面の誤差が0.05mm以下であることを示す、といった具合です。
あまり知られていないかもしれませんが、幾何公差には「最大実体公差方式(MMR)」という考え方があります 。これは、部品の寸法が実体(体積)が最大になる側(穴なら最小径、軸なら最大径)に仕上がった場合に、幾何公差の値を少しボーナスとして緩和できる、という指示です。記号「M」で示され、部品の組み立て性を保証しつつ、加工コストを抑えるために利用される高度な手法です 。
幾何公差の全15種類の記号とその意味は、以下のサイトに一覧でまとめられており、学習に非常に役立ちます。

 

幾何公差記号・付加記号一覧 | ゼロからわかる幾何公差 | キーエンス

【独自視点】図面の寸法指示から読み解くべき加工者の意図

図面は単なる作業指示書ではなく、設計者からのメッセージでもあります。寸法や公差の指示には、その部品が持つべき機能や、製品全体における役割が込められています。熟練の加工者は、数値の裏にある「設計意図」を読み解き、より付加価値の高い仕事を実現します。
例えば、ある部分の寸法公差だけが特に厳しく設定されている場合、そこは他の部品との嵌合(かんごう)部であったり、製品の性能を左右する重要な箇所である可能性が高いと推測できます。逆に、公差が緩い部分は、外観や機能に直接影響しない部分であるため、加工コストを抑えるべき箇所だと判断できます。このように、公差のメリハリから、設計者がどこを重要視しているのかを読み取ることができるのです。
また、幾何公差の指示は、部品の動きや使われ方を教えてくれます。例えば、シャフトに「円周振れ」が厳しく指示されていれば、それは高速で回転する部品であり、アンバランスによる振動を嫌う設計であることがわかります。また、摺動(しゅうどう)する面に「平面度」や「真直度」が指示されていれば、スムーズな動きと摩耗の低減が求められていると理解できます。
意外なポイントとして、「参考寸法」の扱いがあります。カッコ( )で囲まれた寸法は参考寸法といい、検査の対象にはなりませんが、設計上の重要な情報を含んでいる場合があります 。例えば、組み立て後の全体長や、関連部品との位置関係を示していることもあります。これを無視せず、なぜこの寸法が記載されているのかを考えることで、部品の役割や製品全体の構造理解が深まります。
図面を深く読み解くことは、単に言われた通りに加工する「作業者」から、設計者の意図を汲んで最適な加工方法を提案できる「パートナー」へとステップアップするための重要なスキルです。日々の業務の中で「なぜ、ここはこの寸法なのか?」「なぜ、この公差が必要なのか?」と考える癖をつけることが、技術者としての成長に繋がります。

図面の寸法基準を明確にするデータムの役割

幾何公差を指示する上で、絶対に欠かせないのが「データム」です 。データムとは、寸法や形状を測定・加工する際の「基準」となる点、線、または平面のことを指します。建物で言えば、地面や柱のようなもので、どこを基準にして部品の姿勢や位置を決めるかを示す、極めて重要な指示です 。
データムは、アルファベット大文字を四角で囲んだ「データム記号」で図示されます 。例えば、ある平面を基準にする場合はその平面に、中心線を基準にする場合はその中心線に、データム記号が置かれます。そして、幾何公差の公差記入枠内で、どのデータムを基準にしているかがアルファベットで示されます。
なぜデータムが必要なのでしょうか?例えば、「この面とこの面を直角に」と言われても、どちらの面を基準にして直角を測るかで結果が変わってしまいます。基準を明確にすることで、初めて正確な形状規制が可能になるのです。特に、位置度や平行度、直角度といった「関連形体」の公差(他の形体との関係を規制する公差)では、データムの指示がなければ意味をなしません 。
通常、データムは加工や測定の基準としやすい、安定した平面や中心軸が選ばれます。多くの場合、3つのデータム(一次データム、二次データム、三次データム)を組み合わせて、部品の空間的な位置を完全に拘束します。これは、机の脚を想像すると分かりやすいです。まず一つの平面(一次データム)で安定させ、次に一つの辺(二次データム)で向きを決め、最後に一つの点(三次データム)で位置を確定させるイメージです。
あまり知られていないことですが、「データムターゲット」という指示方法もあります 。これは、基準となる面全体ではなく、その面上の特定の「点」「線」「領域」をデータムとして指定する方法です。鋳物や鍛造品など、基準面全体を精密に仕上げることが難しい部品に対して、安定した基準を確保するために用いられます。加工現場では、このデータムターゲットを基準に治具を設計したり、測定を行ったりします。図面上でデータムやデータムターゲットの指示を見つけたら、それは加工と検査の出発点を示す最重要情報だと認識する必要があります。

 

 


図面って、どない描くねん!LEVEL2 第2版