ポリ塩化ビニル 使われているもの、その特徴と意外な用途、加工法まで解説

私たちの身の回りにはポリ塩化ビニル製品が溢れています。安価で加工しやすい反面、環境への影響も指摘されるこの素材。その基本的な特徴から、意外な使われ方、そして金属加工にも関わる加工方法やリサイクルの現状まで、あなたはどれくらい知っていますか?

ポリ塩化ビニルとは?使われているものと特徴

ポリ塩化ビニルの多岐にわたる世界
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インフラから日用品まで

水道管や窓枠などの建築資材から、食品用ラップ、文房具まで、私たちの生活のあらゆる場面で活躍しています。

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優れた加工性と耐久性

熱を加えることで軟質にも硬質にもなり、様々な形状に加工可能。薬品や油にも強く、長期間の使用に耐えます。

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環境との共存を目指して

リサイクル技術が進歩し、持続可能な素材としての可能性が追求されています。環境負荷の低減が大きな課題です。

ポリ塩化ビニルの基本的な特徴とメリット・デメリット

 

ポリ塩化ビニル(PVC)は、塩化ビニルモノマーを重合させて作られる熱可塑性プラスチックの一種です 。一般的に「塩ビ」や「ビニール」という呼称で親しまれており、ポリエチレン、ポリプロピレンに次いで世界で3番目に多く生産されている汎用プラスチックでもあります 。その最大の特徴は、可塑剤という添加剤の量を調整することで、硬質から軟質まで様々な硬さの製品を作れる点にあります 。
メリット:

  • 高い耐久性と耐薬品性: 酸やアルカリ、多くの薬品に対して優れた耐性を持ちます 。そのため、化学薬品を扱う工場の配管や、屋外で使用される建築資材に適しています 。​
  • 難燃性: 塩素原子を含むため、自己消火性があり燃えにくい性質を持っています 。これは火災時の安全性を高める上で大きな利点です。​
  • 優れた加工性: 加熱することで容易に溶融し、射出成形、押出成形、カレンダー加工など、様々な方法で成形できます 。複雑な形状の製品も大量生産が可能です。​
  • 電気絶縁性: 電気をほとんど通さないため、電線の被覆材として広く利用されています 。​
  • コストパフォーマンス: 原料が安価で、大量生産に適しているため、製品を低コストで提供できます 。​

デメリット:

  • 耐熱性の低さ: 一般的なポリ塩化ビニルの耐熱温度は60〜80℃程度と、他のエンジニアリングプラスチックに比べて低いです 。高温環境下では変形や強度の低下が起こりやすくなります。​
  • 耐寒性の脆さ: 低温環境、特に氷点下では衝撃に対して脆くなる性質があります 。​
  • 特定の溶剤への弱さ: アセトンやトルエンといった一部の有機溶剤には溶解してしまうため、使用環境には注意が必要です 。​
  • 環境への懸念: 焼却時に有害なダイオキシンや塩化水素ガスが発生する可能性が指摘されています 。また、添加剤である可塑剤(フタル酸エステル類)の環境ホルモンとしての影響も懸念されています 。
    参考)こんなに有害!ポリ塩化ビニル(PVC)を避けた方が良い理由


これらの特性を理解し、用途に応じて適切に使い分けることが、ポリ塩化ビニルを有効活用する鍵となります。

ポリ塩化ビニルが使われているもの 日用品から建築、医療まで


ポリ塩化ビニルは、その優れた特性とコストパフォーマンスから、私たちの想像以上に幅広い分野で活躍しています。ここでは、具体的な使用例をカテゴリ別に見ていきましょう。

建築・土木分野 🏗️
最も多く使用されているのがこの分野です。


  • パイプ・継手: 上下水道管、ガス管、電線管など、インフラに不可欠な資材として利用されています 。耐薬品性と耐久性が高く、地中に埋設されても長期間性能を維持します。
  • 建築資材: 窓枠(サッシ)、雨どい、壁紙、床材(クッションフロア)、防水シート、デッキ材など、住宅やビルの様々な場所で使われています 。特に、耐候性に優れているため、屋外での使用に適しています 。

日用品・家庭用品 🏠
私たちの家庭にも、ポリ塩化ビニル製品は溢れています。

 

  • 包装フィルム・ラップ: 特に生鮮食品のトレー包装に使われるストレッチフィルムは、ポリ塩化ビニルの自己粘着性を利用した代表的な製品です 。透明性も高く、中身を新鮮に保ちます。
  • ホース・手袋: ガーデニング用のホースや、掃除・炊事用のビニール手袋も、軟質ポリ塩化ビニルから作られています 。
  • 文房具: クリアファイルやバインダー、消しゴム、定規など、多くの文房具に利用されています 。
  • その他: 人形などのおもちゃ、シャワーカーテン、テーブルクロス、合成皮革(レザー)製の椅子やバッグなど、その用途は多岐にわたります 。

医療分野 🏥
衛生的で加工しやすい特性から、医療現場でも重要な役割を担っています。

 

  • 医療用チューブ・バッグ: 輸血・点滴用のバッグやチューブ、カテーテルなど、ディスポーザブル(使い捨て)の医療器具に広く採用されています 。柔軟で体内に挿入しやすく、滅菌処理にも耐えられます。

自動車・工業分野 🚗
自動車の部品や工業製品にもポリ塩化ビニルは欠かせません。

 

  • 自動車部品: ダッシュボード、ドアパネル、シートカバーなどの内装材や、ワイヤーハーネス(電線の束)の被覆材として使われています 。難燃性や電気絶縁性が安全性を高めています。
  • 工業用シート・フィルム: 工場の間仕切りカーテンや、機械のカバーなどに使用されます。
  • その他: 農業用ビニールハウスのフィルム 、キャディバッグ 、レコード盤などもポリ塩化ビニルから作られています。

このように、ポリ塩化ビニルは硬質から軟質まで姿を変え、社会のあらゆる場面で私たちの生活を支えているのです。

 

ポリ塩化ビニルの多様な加工方法と金属加工との関連性

ポリ塩化ビニルは、その熱可塑性を活かして、非常に多様な加工方法に対応できる素材です 。この加工性の高さが、幅広い製品への応用を可能にしています。金属加工に従事する方々にとっても、知っておくと役立つ知識や関連性があります。

代表的な加工方法:

射出成形
加熱して溶かした材料を金型に射出し、冷却して固める方法です 。パイプの継手や家電製品の筐体など、複雑な形状の製品を効率的に大量生産するのに適しています 。
押出成形
溶かした材料を「ダイ」と呼ばれる口金から押し出して、連続的に同じ断面形状の製品を作る方法です 。パイプや窓枠、フィルム、シートなどがこの方法で作られます。
カレンダー加工
複数の加熱したローラーの間に材料を通して、薄いシートやフィルムを連続的に成形する方法です。床材や壁紙、農業用フィルムなどが作られます。
真空成形・圧空成形
シート状に加熱した材料を型に押し付け、真空にしたり空圧をかけたりして成形する方法です 。卵のパックや食品トレーといった薄肉の容器を作るのに用いられます 。
ディッピング(浸漬)加工
溶かした軟質ポリ塩化ビニルの溶液に、金属製の工具などを浸して引き上げ、表面に皮膜を形成する方法です 。工具のグリップやハンガーの滑り止めコーティングなどがこの例です。

金属加工との関連性:
ポリ塩化ビニルの加工は、金属加工の分野とも密接に関わっています。

 

     

  • 治具・保護材としての利用: ポリ塩化ビニルは耐薬品性に優れているため、めっき加工やエッチング処理の際に、製品の不要な部分を保護するマスキング材として利用されることがあります。また、切削加工の際に製品を固定する治具の材料としても活用できます。傷がつきにくい硬質塩ビは、製品を傷つけずに保持するのに役立ちます。
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  • 装置部品としての応用: 耐薬品性が求められる半導体や液晶の洗浄装置では、槽や配管、部品の材料としてポリ塩化ビニルが多用されています 。これらの装置部品の製作には、NCルーターやマシニングセンタによる切削加工や、溶接、曲げ加工といった、金属加工とも共通する技術が用いられます 。
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  • 金属の代替としての可能性: 軽量で錆びず、絶縁性を持つポリ塩化ビニルは、特定の用途において金属部品の代替材料となります。コストダウンや軽量化が求められる場面で、金属からポリ塩化ビニルへの材料変更が検討されるケースも増えています。

このように、ポリ塩化ビニルは単なるプラスチック素材ではなく、金属加工の現場においても、補助的な役割から主要な構成部品まで、様々な形で関わっています。その特性を理解することで、新たな工法や製品開発のヒントが得られるかもしれません。

 

ポリ塩化ビニルの安全性と環境問題 リサイクルの現状

ポリ塩化ビニルは便利な素材である一方、その安全性や環境への影響については、長年議論が続いています。特に、廃棄後の処理方法が大きな課題とされています。

 

安全性に関する議論:
主な懸念点は、添加剤として使用される「可塑剤(特にフタル酸エステル類)」と、製造・廃棄過程での化学物質の発生です。

 

  • 可塑剤(フタル酸エステル): 軟質ポリ塩化ビニルに含まれるフタル酸エステル類の一部には、内分泌かく乱作用(環境ホルモン)の疑いが指摘されています 。これにより、生殖機能や成長への影響が懸念され、特に乳幼児が口にするおもちゃなどへの使用は厳しく規制されています。現在では、より安全性の高い代替可塑剤への移行が進んでいます。
  • 塩化ビニルモノマー: 原料である塩化ビニルモノマーには発がん性が確認されていますが、これは製造工場の管理の問題であり、最終製品であるポリ塩化ビニル樹脂自体にはほとんど残留していません。
  • 粉じんの吸入: ポリ塩化ビニルの粉じんを大量に吸入した場合、肺に影響を及ぼす可能性が指摘されています 。そのため、加工現場では適切な換気や防じんマスクの着用が重要です。

環境問題とリサイクルの課題:
ポリ塩化ビニルの環境負荷で最も問題視されるのが、廃棄・リサイクルプロセスです。

 

  • 焼却時の有害物質: ポリ塩化ビニルは塩素を含んでいるため、不適切な条件で焼却すると、ダイオキシンや腐食性の高い塩化水素ガスが発生する可能性があります 。これにより、焼却炉を傷めたり、大気汚染の原因となったりします。現在では、高温で完全燃焼させる高効率の焼却炉が普及し、ダイオキシンの発生は大幅に抑制されています 。
  • リサイクルの難しさ: 他のプラスチックと混ぜてリサイクル(マテリアルリサイクル)しようとすると、加熱時に発生する塩化水素がリサイクル設備の劣化を引き起こしたり、再生プラスチックの品質を低下させたりする原因となります 。そのため、ポリ塩化ビニルをリサイクルするには、他の素材と正確に分別することが不可欠です。

進むリサイクル技術:
こうした課題に対し、様々なリサイクル技術の開発が進められています。

 

  • マテリアルリサイクル: 使用済みのパイプや床材などを粉砕し、再び同じ製品の原料として再生する方法です。分別が徹底されている製品で主流となっています。
  • ケミカルリサイクル: 高炉やコークス炉で熱分解し、塩酸や燃料、化学原料として再資源化する技術です。他の素材との分離が難しい複合材のリサイクルに適しています。
  • 溶剤リサイクル: 特殊な溶剤を使ってポリ塩化ビニルのみを溶かし、不純物と分離して再生する技術です。これにより、高純度のポリ塩化ビニルを回収できます。

フジワラケミカルエンジニアリング株式会社では、自社工場で発生するPVCの端材を分別・粉砕し、リサイクル業者に引き渡す取り組みを行っています。

 

フジワラケミカルエンジニアリングのPVCリサイクルへの挑戦
このリンクでは、具体的な分別プロセスや、リサイクルを前提とした製品設計の考え方など、企業の先進的な取り組みが紹介されています。

 

持続可能な社会を実現するため、ポリ塩化ビニルを「ごみ」ではなく「資源」として捉え、適切なリサイクルルートに乗せていくことが、今後ますます重要になります 。

ポリ塩化ビニルの意外な用途と最新技術動向

ポリ塩化ビニルというと、パイプやラップといったありふれた製品を思い浮かべがちですが、その特性を活かした意外な用途や、未来の可能性を広げる最新技術も存在します。

 

アートやファッションの世界での活躍🎨
透明性や着色性の高さを活かし、ポリ塩化ビニルはファッションやアートの分野でも注目されています。クリア素材のバッグや靴、レインコートなどは、デザインのアクセントとして人気があります。また、アーティストが作品の素材として用いることもあり、その表現の幅広さを示しています。さらに、熱を加えると収縮する「シュリンクフィルム」の特性を活かし、ガラス瓶やペットボトルのデザインラベルとしても広く使われています 。これは商品の保護と美しい装飾を両立させる優れた応用例です。

 

参考)富士インパルス:プラ知識 No.20/ポリ塩化ビニールの特徴…

医療分野での先進的な応用💉
ポリ塩化ビニルの生体適合性や加工のしやすさは、医療分野でのさらなる応用を可能にしています。例えば、体内に埋め込むタイプの医療機器のコーティング材や、再生医療の分野で細胞を培養するための足場材(スキャフォールド)としての研究も進められています。これらの応用では、材料の純度や安全性が極めて重要となり、特殊なグレードのポリ塩化ビニルが使用されます。

 

エネルギー分野での新たな役割⚡
意外なところでは、導電性を持たせたポリマーの研究も進んでいます 。ポリ塩化ビニル自体は絶縁体ですが、特殊な添加剤を加えたり、他の導電性ポリマーと組み合わせたりすることで、静電気を防止する床材や、フレキシブルな電子回路の基板などへの応用が期待されています。将来的には、ウェアラブルデバイスやセンサーなど、新たなエレクトロニクス分野で活躍するかもしれません。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8234317/

環境配慮型の最新技術動向♻️
環境問題への対応として、植物由来の原料を用いた「バイオマスPVC」の開発が進んでいます。これは、従来の石油由来の原料の一部を、サトウキビの廃糖蜜などから作られるバイオエタノールに置き換えるもので、二酸化炭素の排出量削減に貢献します。

 

また、リサイクル技術も進化を続けており、これまで困難とされてきた軟質塩ビに含まれる可塑剤を分離し、高純度のポリ塩化ビニルを再生する技術も実用化されつつあります。

 

さらに、使用済みのポリ塩化ビニルをアップサイクルし、新たな価値を持つ製品に生まれ変わらせる取り組みも始まっています。例えば、廃棄されたターポリン(ポリエステル繊維を軟質塩ビで挟んだシート)から、デザイン性の高いバッグや小物が作られています。これは、単なる再利用に留まらず、素材の持つ風合いや歴史を活かした新しい価値創造の試みと言えるでしょう。

 

以下のリンクでは、リサイクルされたポリ塩化ビニル(PVB)を応用し、紫外線保護機能を持つテキスタイルコーティングを開発した研究が紹介されており、廃棄ポリマーの新たな可能性を示しています。

 

A UV-Protective Textile Coating Based on Recycled Poly(vinyl butyral) (PVB): A New Life for a Waste Polymer
参考)https://www.mdpi.com/2073-4360/16/23/3439

このように、ポリ塩化ビニルは決して古い素材ではなく、今なお新しい技術やアイデアによって進化を続けている、未来への可能性を秘めた素材なのです。

 

 


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