ピンホールカメラは、レンズを使用せず小さな穴(ピンホール)のみで撮影する最もシンプルなカメラシステムです 。被写体から反射した光が様々な方向に散乱する中、ピンホールを通過できる光のみが暗箱内の感光面に到達し、上下左右が反転した倒立像を形成します 。この現象は「カメラ・オブスキュラ(小さな暗室)」として15世紀頃からヨーロッパの画家たちに利用されてきた歴史があります 。
参考)クラボウ/[知識の部屋]三次元計測の話 2.ピンホールカメラ…
光の直進性という基本的な物理法則により、被写体の各点から出た光はピンホールを経由して感光面の特定の点に到達するため、幾何学的に正確な像が形成されます 。この原理により、ピンホールカメラは遠近すべてにピントが合う無限の被写界深度を実現し、従来のレンズカメラでは得られない独特の描写性が生まれます 。
参考)http://m-naka.jp/sougou/text/pinholetext.htm
ピンホール製作において金属加工技術は画質を左右する重要な要素です 。最も一般的な材料はアルミ板で、飲料用アルミ缶を平らに伸ばして使用することが多く、その厚みの薄さと加工性の良さが理由です 。製作工程では、アルミ板の中央に裁縫針を使って0.2~0.3mm程度の精密な穴を開け、この穴の真円度と表面粗さが最終的な写真品質を決定します 。
参考)【写真コース】写真の原理をピンホールから学ぼう
穴開け後は紙ヤスリで表面の凹凸を平滑に仕上げ、黒色油性ペンで反射防止処理を行います 。虫眼鏡を使用した品質検査では、穴の真円性、金属片の付着、適切な穴径の確認が重要で、これらの工程は金属加工における品質管理の基本原則と共通しています。プロ仕様では0.1~0.2mm厚の銅板にドリル加工を施すことも多く、より高精度な製品が求められる場合に採用されます 。
参考)https://www.ipm.jp/ipmj/these/these102.html
ピンホールの最適口径は光の波動性、特に回折現象を考慮した理論計算により決定されます 。単純に穴を小さくすれば解像度が向上すると考えがちですが、実際は光の回折により穴が小さすぎると像がぼやけてしまいます 。牧野正恭氏が提唱した最適口径の計算式では、焦点距離と光の波長を変数として最もシャープな像が得られる穴径を算出できます 。
参考)http://m-naka.jp/pinholes/pinholes.html
この計算では可視光の波長として赤と緑の平均値(約620nm)を使用することが実用的とされています 。例えば、焦点距離40mmのカメラでは最適口径は約0.22mmとなり、これは海外の専門サイトでも同様の値が推奨されています 。回折現象は波長依存性があるため、短波長紫外線や軟X線などレンズでは撮影困難な電磁波でも、ピンホールカメラなら撮影可能という特殊な応用分野も存在します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst/81/1/81_48/_pdf
ピンホールカメラの露出時間計算は、F値(焦点距離÷穴径)を基準とした複雑な計算が必要です 。例えば焦点距離40mm、穴径0.22mmの場合、F値は約182となり、一般的なレンズのF8と比較して約9段階暗くなります 。この場合、通常1/20秒の露出が約26秒に延長され、長時間露光による独特の表現効果が生まれます 。
参考)露出の決め方 - 光と穴の創造
晴天時(Ev=14)でISO100フィルムを使用した場合、F138のピンホールカメラでは約1秒の露出が必要で、室内撮影(Ev=6)では計算上5分でも実際には相反則不軌により約22分の露出時間が必要になります 。これらの長時間露光により、動く被写体が消失したり、雲の流れが軌跡として記録されたりする幻想的な写真表現が可能となります 。現在はスマートフォンアプリでF値を設定するだけで簡単に露出時間を計算できるツールも普及しており、撮影の実用性が向上しています 。
参考)初心者向けピンホールカメラのすゝめ!ノスタルジックな雰囲気に…
ピンホールカメラの特殊な光学特性は、従来のレンズシステムでは不可能な撮影を実現します 。特に天文観測分野では、太陽観測用の長焦点距離ピンホール望遠鏡として実用化されており、焦点距離20mの装置では太陽黒点の詳細な観測が可能です 。この場合のピンホール径は5.2mmと大きくなり、太陽像の直径は186mmに達し、高い解像度での観測を実現しています 。
参考)ピンホール・カメラの変種_1:ピンホール・ミラー href="https://atelier.bonryu.com/welcome/lensless/phphoto-l/phvariation_1_phmirror/" target="_blank">https://atelier.bonryu.com/welcome/lensless/phphoto-l/phvariation_1_phmirror/amp;#821…
医療分野では、X線やガンマ線撮影におけるピンホールコリメーターとして応用され、高空間解像度を要求される検査に使用されています 。半導体検出器と組み合わせることで、従来の平行コリメーターよりも優れた感度と解像度の両立を実現し、核医学における術中イメージングなどの先端医療技術に貢献しています 。金属加工業界においても、検査用カメラシステムの光学設計や精密穴開け技術の品質管理において、ピンホールカメラの原理と製作技術が応用される可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2892935/