物質の水に対する親和性を示す親水性と疎水性は、化学的に相反する性質です。親水性とは、水に対する親和性が高く、水に溶解しやすい、あるいは水と混ざりやすい物質の性質を指します。一般的に極性の高い、または電荷を有する化合物が親水性を示す傾向にあります。一方、疎水性は水に対する親和性が低く、水に溶解しにくい、あるいは水と混ざりにくい物質の性質です。疎水性物質は電気的に中性の非極性物質であり、分子内に炭化水素基を持つ物質が代表的です。
金属加工業における表面処理では、単なる化学的な定義以上に、実務的な分類が用いられることが多いです。コーティング分野では、水の弾き方の違いで分類されており、水をコロコロと弾くものを「撥水」、水が大きな塊になって流れるものを「親水」、その中間のものを「疎水」と呼び分けられています。この分類方法は、防汚コーティングの性能評価に直結しており、業界標準として広く採用されています。
また、分子内に疎水性基と親水性基の両方を持つ物質は「両親媒性」と呼ばれ、界面活性剤や極性脂質が代表的です。金属表面処理の現場では、この両親媒性物質を活用することで、相反する複数の機能を一つの処理で実現することが可能になります。例えば、油脂分と酸化物の同時除去を実現する処理剤は、この原理を応用しています。
物質の親水性と疎水性の程度を定量的に評価するには、複数の測定手法が存在します。防汚コーティング業界では、接触角(コンタクトアングル)測定が最も一般的です。接触角とは、固体表面に置かれた液滴が表面と接する角度を示す値で、度(°)で表されます。親水性を持つ表面では接触角が60度未満となり、疎水性では60~90度程度、撥水性では90度以上を示します。
ただし、この接触角の定義は明確ではなく、サービス提供元やコーティング剤製造メーカーによって異なる場合があるため、目安として扱う必要があります。金属加工の現場では、プラズマ処理など特殊な表面処理により、接触角を劇的に変化させることが可能です。例えば、ポリイミドに酸素プラズマを照射すると、処理前の接触角68度から処理後10度以下まで低下し、大幅に親水性が向上することが確認されています。
化学的な評価手法としては、分配係数(LogP)が用いられます。これは、対象物質を水と相分離する有機溶媒(一般にn-オクタノール)に溶解して、平衡状態での双方での濃度比(有機溶媒中の濃度÷水中の濃度)を求めるものです。分配係数は常用対数を用いてLogPowと表記され、この値が大きいほど疎水性が高いことを示します。逆相クロマトグラフィーでも疎水性の程度を評価することができ、コンピュータで構造からLogPを予測するCLogP法やNlogP法といった手法も開発されています。
金属加工業では、親水性と疎水性の特性を活用した多様な表面処理が実施されています。まず防錆処理では、疎水性コーティングにより水分の進入を防ぎ、金属の錆びを抑制します。プラズマ処理を用いたSUS304ステンレス鋼の親水化では、処理前の接触角80度から処理後10度以下まで低下させることが可能で、これにより表面の曇りを防ぎ、汚れの付着を抑制できます。
レジスト塗布前の銅表面処理では、SSP処理剤のような特殊な化学処理により、酸化物と油脂分を同時に除去しながら、レジストとの密着性を向上させます。この処理により、表面を平滑に保ちながら、次工程への簡易防錆効果が継続します。複数回の連続処理でも銅表面への影響がほぼ無いため、工程効率の向上にも貢献します。
建築用窓ガラスや自動車部品では、親水性表面処理により、基材表面が曇りにくくなり、付着した汚れが洗い落としやすくなります。空調機の熱交換器に親水処理を施すことで、冷房時に発生する水滴が狭い通風路をふさぐ「水滴ブリッジ」の形成を抑制でき、通風抵抗の増加や熱効率の低下を防ぐことができます。ただし、親水性が高い表面では水滴の滑落性が低くなり、水垢やカビの原因になる可能性があるため、使用環境に応じた適切な選択が必要です。
金属加工における品質管理の観点から見ると、親水性と疎水性の制御は製品の最終的な機能性に大きな影響を与えます。レジスト密着性が求められるプリント基板製造では、プラズマ処理によって金属表面を親水化することで、レジストとの接触角を低下させ、より均一で密着性の高いコーティングを実現できます。この際、接触角の精密な管理が不可欠であり、60度未満の親水領域での性能最適化が重要です。
疎水性表面処理が必要な分野では、フルオロアルキル鎖を持つ化合物やシリコーン系コーティング剤が使用されます。これらは、環境にやさしいPFASフリー製品の開発も進んでおり、例えばキトサンベースの超疎水性コーティングは、進行接触角151度、後退接触角136度という超撥水性を実現しながら、生分解性で無毒という特性を備えています。
表面処理後の耐久性も重要なポイントです。疎水性コーティングの場合、洗浄サイクルを経ても効果が持続することが求められます。赤外分光法を用いた熱重量分析により、コーティングの分解時に有害な化合物が放出されないことを確認できます。こうした科学的な検証を通じて、工業用途での信頼性の高い表面処理技術が実現されています。
従来のコーティング技術では、親水性と疎水性は相互に排他的な性質と見なされてきました。しかし、近年の研究成果として、高い親水性と優れた滑落性を同時に実現するコーティング法が開発されています。これは親水性が高くなるほど水分子とその表面の相互作用が強くなり、水滴が滑落しにくくなるという従来の課題を解決するもので、金属加工業における革新的な進展です。
このような相反する性質を一つの表面に共存させるため、表面の微細構造設計が活用されています。ナノおよびマイクロスケールの表面粗さを組み合わせることで、化学的な親水性あるいは疎水性特性と物理的な構造特性の相乗効果を生み出しています。走査型電子顕微鏡(SEM)による分析を通じて、このような複合的な表面特性が検証されています。
金属加工業では、こうした新しい知見を活用することで、単なる防錆機能だけでなく、防汚性、滑落性、環境適合性を兼ね備えた高機能な表面処理が可能になりつつあります。疎水性の高い物質が体内や環境中に蓄積しやすい傾向があることから、環境負荷を低減しながら高性能を維持する材料開発への関心も高まっています。
親水性表面処理の参考情報。
産業技術総合研究所による親水性と滑落性の両立実現に関する研究(水になじみやすく、かつ水がスムーズに滑落する透明皮膜技術について詳細な情報が掲載されています)
疎水性コーティング材の最新動向。
PFASフリー超疎水性キトサンコーティングの開発動向(環境負荷を低減したキトサンベース材料の耐久性評価と洗濯耐性に関する情報が提供されています)
プラズマ処理による表面改質の実例。
プラズマ処理による親水性向上事例(ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、SUS304など各種材料の接触角変化データと処理前後の比較が掲載されています)

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