蛍光X線式試験方法は、無電解ニッケルメッキの膜厚測定において最も一般的で信頼性の高い非破壊検査法です。物質にX線を照射すると、その物質中に含まれる元素に固有のX線(特性X線)が放射されます。この現象を利用して、無電解ニッケルメッキの膜厚を既知の試料との蛍光X線量を比較することで正確に測定できます。
蛍光X線式測定は、金属、非金属上の比較的薄い無電解ニッケルメッキの膜厚測定に広く利用されており、特に精密電子部品や半導体装置部品の品質管理では必須の技術です。蛍光X線量の選別方式によって波長分散型(WD)とエネルギー分散型(ED)の2つの方式があり、波長分散型は高精度、エネルギー分散型は測定速度に優れています。無電解ニッケルメッキを施す製品の材質や形状によっては測定できない場合もあるため、事前に確認が必要となります。
蛍光X線装置は市販されており、3~300μmの幅広い膜厚範囲に対応できる高度な計測器も存在します。ただし装置が高額であるため、精密メッキ業者や大規模な製造施設での導入が一般的です。波長分散型は検出器の精度が高く、微量なニッケル膜も正確に検出できる利点がありますが、測定時間がやや長くなるという特性があります。
デジタルマイクロメーターによる試験方法は、無電解ニッケルメッキ前後の外径や寸法の差を直接測定することで膜厚を算出する実測手法です。この方法は原理が単純で、測定値の信頼性が高く、一般的な計測機器を使用するため導入コストが比較的低いという利点があります。例えば、板厚であれば表裏両面に無電解ニッケルメッキが施されるため、計測した総膜厚を2で除することで片側の正確な膜厚を算出します。
ただし、この測定方法には制限があります。被計測物の形状が複雑であったり、曲面や細穴が存在する場合は、マイクロメーターの接点を正確に合わせることが難しくなります。また、測定時のマイクロメーターの圧力や周囲温度の変化は測定結果に微小な影響を与えるため、計測環境の管理も重要です。無電解ニッケルメッキ皮膜のように均一にメッキ処理される場合に限定される測定方法であり、膜厚のばらつきが大きい製品には向きません。25マイクロメートル以上のメッキ厚さであれば精度の高い測定が可能ですが、より薄い膜の計測には不適切です。
質量計測による無電解ニッケルメッキ皮膜付着量試験は、無電解ニッケルメッキ前後の製品重量から皮膜重量を算出し、これを表面積とニッケルの比重で除することで膜厚を計算する手法です。小数点以下3桁(0.000g)まで秤量可能な高精度電子天秤を使用し、測定値の信頼性を確保します。この方法の計算式は、無電解ニッケルメッキ膜厚(μm)=皮膜重量(g)÷表面積(cm²)÷比重(g/cm³)×10000となります。
この測定法の大きな利点は、製品を破壊せずに膜厚を評価できる点です。複雑な形状の製品や、膜厚のばらつきを統計的に把握したい場合に適しています。ただし、正確な膜厚計算には製品表面積の正確な把握と、ニッケルの比重値の妥当性が重要になります。無電解ニッケル-リンメッキの場合、リン含有率によって比重が若干変わるため、使用されるメッキ液の組成をあらかじめ確認することが必要です。この方法は、複数の製品を一括測定する場合の効率性が高く、コスト面でも優れています。
断面観察による測定試験は、無電解ニッケルメッキを施した製品を精密切断機で切断し、光学顕微鏡やデジタル画像解析装置で断面を直視的に測定する手法です。この方法は実際の膜厚を直接観察できるため、蛍光X線やデジタルマイクロメーターなどでの測定値が正確であるかを検証するための確認試験として利用されることが多くあります。
断面観察法の最大の特徴は、その精度の高さです。膜の層構造、界面の状況、膜内の欠陥や異物混入を同時に観察でき、単なる膜厚数値だけではなく膜の品質状況を詳細に把握できます。デジタル顕微鏡と画像解析ソフトウェアを組み合わせることで、1μm単位での精密測定が可能です。1μm(マイクロメートル)は1mm の1000分の1という極めて微細な単位ですが、無電解ニッケルメッキの均一性を評価する際には、この程度の精度が求められることがあります。
ただし、重大なデメリットとして、製品を切断する必要があるため破壊試験となり、測定後の製品は良品として販売できません。したがって、破壊ができない案件や、顧客に納入する製品の全数検査には不向きな方法です。通常は、製造ロットの代表製品を抜き取り検査する際に、品質保証の一環として活用されます。
無電解ニッケルメッキの膜厚管理における独自の知見として、非破壊検査と析出速度の考え方を理解することは、実務的な品質保証に直結します。非破壊式の膜厚測定(蛍光X線式、デジタルマイクロメーター法など)は、製品を破損させずに何度も検査できるため、量産製造ラインでの全数検査や抜き取り検査に向いています。一方、破壊式の測定(断面観察)は検証用として使用されます。
析出速度とは、メッキ液の条件下で単位時間あたりに成膜される膜厚を指し、通常はμm/時間で表現されます。無電解ニッケルメッキの場合、この析出速度はほぼ一定(安定)であることが特徴です。メッキ液の構成が完了した時点で、ダミーの素材を浸し、一定時間後に取り出して蛍光X線やマイクロメーターで膜厚を測定し、要した時間で割ることで析出速度を算出します。
この析出速度が確定すれば、本来達成したい膜厚に必要な時間を逆算することができます。例えば、20μmの膜厚が必要で、析出速度が2μm/時間であれば、10時間の浸漬時間が必要となります。メッキ液のpHや温度が管理されていれば、この時間設定により目標膜厚に到達します。ただし、メッキ液の劣化、成分の減少、あるいは温度変動によって析出速度は変わるため、定期的な再測定が重要です。多くのメッキ業者は、毎日または毎シフトでダミー品を使用して析出速度を確認し、必要に応じてメッキ時間を微調整しています。
【参考リンク】無電解ニッケルメッキ皮膜の膜厚測定方法について、メッキ技能士による詳細な測定原理とそれぞれの方法の実務上の選択基準が記載されています。
【参考リンク】無電解ニッケルメッキの膜厚とJIS規格の等級分類、および用途別の最適な膜厚選定について、実例を交えて解説されています。
【参考リンク】破壊式と非破壊式の膜厚測定法の違い、およびファラデーの電気分解の法則を応用した膜厚測定の原理が解説されています。