漏れ磁束とモータの診断・対策技術

モータの漏れ磁束は機械の性能に大きな影響を与える重要な要素です。誘導電動機の故障診断から永久磁石モータの効率向上まで、最新の対策技術を解説。あなたのモータの問題解決に役立つ情報とは?

漏れ磁束とモータの基礎知識

モータ漏れ磁束の基本概要
漏れ磁束の定義

モータ内部から外部に漏れ出る磁束で、機器性能に影響を与える

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診断技術

故障検出や機械の状態監視に活用される測定技術

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対策技術

磁気シールドや設計改良による漏れ磁束の抑制方法

漏れ磁束モータの基本概念と発生メカニズム

モータにおける漏れ磁束は、磁気回路から外部に漏れ出る磁束のことで、モータの性能や周辺機器に重要な影響を与えます。一般的にモータは開磁路構造を持つため、磁束はコア内部から外部に出て、再びコアに戻るループを形成し、この過程で漏れ磁束が発生します。特に金属加工現場で使用される大型のモータでは、この漏れ磁束が工作機械の精度や作業環境に大きな影響を与える可能性があります。
参考)https://product.tdk.com/ja/techlibrary/applicationnote/leak-flux_inductor.html

 

誘導電動機の場合、ギャップ磁束分布とモータ外部の漏れ磁束分布には明確な関係があり、漏れ磁束の空間n次調波成分の大きさは、モータ軸中心からの距離の(n+1)乗に反比例することが解析により明らかになっています。これは漏れ磁束の高次の異常調波成分がギャップ磁束に比べて現れにくくなることを意味しており、故障診断における重要な特性となります。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04650241/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04650241/amp;mdash; 研究課題をさがす

 

永久磁石モータでは、磁石の磁束が効率的に利用されることが重要ですが、設計や製造過程での問題により漏れ磁束が増加する場合があります。特に表面磁石同期モータ(SPMSM)では、組立着磁後の回転子における漏れ磁束を用いた永久磁石磁化推定手法が開発されており、モータの品質管理に活用されています。
参考)組立着磁後におけるSPMSM回転子の漏れ磁束を用いた永久磁石…

 

誘導電動機の漏れ磁束による故障診断技術

誘導電動機の故障診断において、漏れ磁束検出法は非常に有効な手法として確立されています。この診断技術の最大の利点は、センサを誘導電動機の反負荷側の近傍に設置するだけで、センサ取り付けのための改造が不要であり、簡便に実施できることです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmedmc/2012/0/2012__626-1_/_pdf

 

かご形回転子のバー切れやエンドリング切れなどの異常が発生した場合、特徴的な漏れ磁束パターンが現れます。アナログ遅延回路とPLL回路を組み合わせた異常調波成分検出回路により、インバータ駆動時を含めて、漏れ磁束波形に含まれる正常な調波成分を除去し、異常調波成分だけを検出することが可能です。
実際の現場での適用例では、人為的に故障を模擬した供試機を用いた実験により、この診断法の有効性が確認されています。バー連続3箇所切れなどの重大な故障では、商用電源駆動時の漏れ磁束波形に明確な異常パターンが現れ、故障の早期発見が可能になります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicetr1965/29/11/29_11_1269/_pdf

 

永久磁石モータの漏れ磁束測定と効率最適化

永久磁石同期モータでは、漏れ磁束の測定と制御が効率向上の鍵となります。可変漏れ磁束型永久磁石同期モータ(VLF-IPM)は、鉄心材料の磁気飽和現象を積極的に利用して可変磁束特性を実現し、広い速度範囲で高効率運転を可能にする革新的な技術です。
参考)可変漏れ磁束型永久磁石同期モータの実機検証

 

この技術では、電機子巻線を集中巻で構成することにより、コイルエンドの短縮に伴う銅損の低減や構造の薄型化、巻線工程の簡単化による生産性向上が期待されます。従来の分布巻から集中巻への変更により、可変漏れ磁束モータの有用性が大幅に向上します。
参考)https://www.nidec.com/jp/nagamori-f/subsidy/report/pdf/nagamorizaidan%20jyosei%202017_ngr17011_Yuichi%20Yokoi.pdf

 

実機検証では、自動車の駆動用モータとしての性能が確認されており、ハイブリッド車や電気自動車に求められる広い速度範囲での高効率運転を実現しています。永久磁石の磁化推定においても、組立着磁後の回転子の漏れ磁束を活用した手法が開発され、品質管理の精度向上に貢献しています。

モータ漏れ磁束の対策技術と磁気シールド

モータの漏れ磁束対策には、磁気シールド技術が重要な役割を果たします。パワーインダクタの例では、ノンシールドタイプ、レジンシールド(セミシールド)タイプ、フルシールドタイプ、金属一体成型タイプの4つの主要な磁気シールド構造があり、それぞれ異なるシールド効果を持ちます。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1807/09/news042.html

 

ステッピングモーターでは、漏えい磁束を最大90%まで抑制する技術が開発されており、従来品と比べて50~90%の漏えい磁束低減を実現しています。これにより、磁気ヘッドを通した可聴周波数帯域のノイズ混入を防ぐことができ、精密機器での使用において大きなメリットがあります。
参考)https://hi-tech.repo.nii.ac.jp/record/2526/files/02_04_03_048-054.pdf

 

実際の対策方法として、モータ下面を金属板で覆って漏れ磁束を遮断する磁束遮断技術や、ポイントとの吸引力を低減する方法があります。金属板の規模によっては車両側だけで対策できるため、既存システムへの適用が容易です。また、磁束漏れ防止プレートとして、スチール製の内側リングとアルミやステンレス製の外側リングを塑性流動結合により一体化させる技術も開発されています。
参考)https://www.saitama-j.or.jp/wp-content/uploads/2024/07/16_2.pdf

 

金属加工現場でのモータ漏れ磁束管理実務

金属加工現場では、工作機械や搬送装置に使用されるモータの漏れ磁束が、加工精度や製品品質に直接影響を与えるため、適切な管理が不可欠です。特に75kW以上の大型モータでは、インバータ制御の高速スイッチングにより固定子巻線から漏れ電流が発生し、モータ内の磁束が不平衡となって対地軸電圧に影響を与えます。
参考)モータなどの軸電圧・軸受電流対策|テクノロジー通信|福田交易…

 

磁気測定においては、局所ベクトル磁気特性測定における漏洩磁界の影響を考慮する必要があります。ティース先端では磁気シールドの影響が大きく、磁気シールドを設置すると磁石表面の磁束が磁気シールドに吸収されるため、ステータに適切に磁束が流れるようになります。
参考)https://www.oita-ri.jp/wp-content/uploads/%E5%B1%80%E6%89%80%E3%83%99%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E7%A3%81%E6%B0%97%E7%89%B9%E6%80%A7%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%BC%8F%E6%B4%A9%E7%A3%81%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF.pdf

 

実務的な対策として、VHセンサに磁気シールドを施すことにより、漏洩磁界の多いティース先端0mmで最も磁気シールド効果が高くなることが実証されています。ティース先端から13mm離れた位置では、磁気シールド無しではX方向で45%、Y方向で12.7%の誤差が生じますが、磁気シールドを設置することでX方向で0.3%、Y方向で1.7%と大幅に改善されます。現場での品質管理においては、このような定量的なデータに基づいた対策実施が重要となります。