固有振動数と共振周波数の違いと金属加工への影響

機械設計における固有振動数と共振周波数の概念の違いを理解し、金属加工時のびびり振動問題とその対策について考察します。加工精度向上の鍵となる振動理論とは何でしょうか。

固有振動数と共振周波数の違い

固有振動数と共振周波数の基本概念
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固有振動数の特性

物体が自由振動する際の固有の振動数で、質量と剛性により決定される

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共振周波数の現象

外部からの強制振動と固有振動数が一致した際に発生する大振幅振動

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金属加工での重要性

切削工具と工作機械の振動特性を理解することで加工品質向上が可能

固有振動数と共振周波数は、振動工学において重要な概念であり、特に金属加工分野では加工精度や品質に直接影響を与える要因です。これらの概念の違いを正確に理解することで、より効率的な加工プロセスの実現が可能となります 。
参考)【振動】固有振動数と共振周波数|振動くんの独り言

 

固有振動数は、物体が外力や減衰力を受けずに自由振動を行う際の振動数を指します。この値は物体の質量と剛性によって決定され、外部からの初期条件(振れ幅や離す位置)に関わらず一定の値を持ちます 。一方、共振周波数は外部からの強制振動の周波数が固有振動数と一致した際に発生する現象で、この時に極めて大きな振動が生じます 。
参考)固有振動数とは - SimScale

 

固有振動数の定義と計算方法

固有振動数は、物体固有の振動特性を表す基本的な物理量です。バネ-質量系のモデルにおいて、固有振動数は次の式で表現されます :
参考)固有振動と固有振動数 - 株式会社神戸工業試験場

 

f=12πkmf = \frac{1}{2\pi} \sqrt{\frac{k}{m}}f=2π1mk
ここで、fは固有振動数[Hz]、kはバネ定数(剛性)[N/m]、mは質量[kg]です。この関係式から、質量が大きくなるほど固有振動数は低下し、剛性が高くなるほど固有振動数は上昇することが分かります 。
参考)【今月のまめ知識 第96回】固有振動数::NIC アルファマ…

 

固有振動数は物体の形状、材質、支持条件によって変化し、複数の固有振動数(モード)が存在します。最も振幅が大きく周波数が低い第一次モードが、一般的に「固有振動数」として参照されることが多いです 。金属加工では、工具や工作機械の各部位がそれぞれ異なる固有振動数を持つため、これらを把握することが重要です。

共振現象のメカニズムと周波数特性

共振は、外部からの強制振動の周波数が物体の固有振動数と一致した際に発生する物理現象です。この時、振動エネルギーが効率的に物体に伝達され、通常では考えられないほど大きな振幅の振動が生じます 。
参考)「共振」揺れが大きくなる現象-まるわかりガイド

 

共振曲線は、入力振動の周波数と応答振幅の関係を示すグラフで表現されます。固有振動数付近で振幅が最大となり、その形状は減衰比によって決定されます 。減衰が小さい場合は鋭いピークを示し、減衰が大きい場合は広がりのある曲線となります。
金属加工において、切削工具の回転数や送り速度が工作機械の固有振動数と一致すると共振が発生し、びびり振動として問題になります 。これにより加工面の品質悪化や工具の異常摩耗が生じるため、作業条件の適切な設定が不可欠です。
参考)機械加工の振動とは何ですか?また、その低減方法は?

 

金属加工における固有振動数の影響

金属加工分野では、切削工具と工作機械の振動特性が加工品質に大きく影響します。工具の突出し長さ、径、材質などが固有振動数を決定し、これらの値が加工条件(主軸回転数、送り速度など)と相互作用することで、びびり振動の発生可能性が決まります 。
参考)加工中のビビりをなくすには? ~発生要因とその対策法を徹底解…

 

工具の突出し長さが短いほど剛性が向上し、固有振動数は高くなります。逆に突出し長さが長い場合や工具径が細い場合は、剛性が低下して固有振動数が下がり、びびり振動が発生しやすくなります 。このため、加工設計においては工具の固有振動数を事前に把握し、適切な加工条件を選定することが重要です。
参考)機械加工で生じる「びびり」を抑えるためのポイント6選!

 

また、ワークの固定方法や支持条件も固有振動数に大きく影響します。薄肉部品や長尺ワークでは、追加の支持材の使用や固定方法の改善により、振動特性を改善できます 。真空チャックや多点固定システムの活用により、ワーク全体の剛性を向上させることが可能です。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_processing/mp01/j0078.html

 

切削加工における共振周波数対策

切削加工では、共振を回避するために「振動周期をずらす」方法と「工具剛性を高める」方法の2つのアプローチがあります 。振動周期をずらす方法では、主軸回転数や送り速度を調整して、切削周波数を固有振動数から離すことで共振を回避します 。
参考)工具剛性で差をつける!びびりを抑え、生産性を最大化する方法と…

 

具体的な対策として、回転数の微調整により「スイートスポット」と呼ばれるびびりが発生しない回転域を見つけ出すことが有効です 。また、不等ピッチエンドミルの使用により、切削力の変動周波数を分散させ、特定の周波数での共振を避けることも可能です 。
参考)【徹底解説】びびりとは?びびりの種類と発生要因、対策を紹介

 

工具剛性を高める方法では、焼きばめホルダや油圧チャックなどの高剛性ツールホルダの使用、工具突出し長の最小化、多刃工具の採用などが効果的です 。さらに、ダンパ内蔵工具や振動吸収装置の導入により、機械的に振動を抑制することも可能です 。

振動解析による固有振動数測定と活用法

現代の金属加工では、モーダル解析や周波数応答解析を用いて、工作機械や工具の動特性を詳細に評価することが一般的になっています 。これらの解析により、固有振動数だけでなく振動モード形状や減衰特性も把握できます。
参考)工作機械におけるびびり振動を予測する振動解析|CAE・Ans…

 

レーザードップラー振動計などの非接触測定技術により、回転中の工具や動作中の機械部品の振動特性をリアルタイムで測定することが可能です 。この技術により、従来困難であった動作状態での振動解析が実現し、より実用的な振動対策の検討が可能となっています。
参考)工具製造と機械工学における精密振動測定

 

FFT解析(高速フーリエ変換)を活用した周波数分析により、加工中の振動信号から共振ポイントを特定し、安定切削領域(stability lobe diagram)を作成することで、最適な加工条件の選定が可能になります 。これらの解析結果をCAMソフトウェアと連携させることで、自動的に最適な回転数と送り速度の組み合わせを選定するシステムも開発されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10781387/