ダイセット 金属加工における構造と役割及び種類

この記事では、金属加工に欠かせないダイセットの基本構造から最新技術まで詳しく解説します。ダイセットの選択が製品品質にどのように影響するのでしょうか?

ダイセットと金属加工

ダイセットの重要性
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金型保持装置

ダイセットは金型を正確に保持し、高精度な加工を実現する重要な装置です

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金属加工の要

プレス加工や鍛造など様々な金属加工工程で使用され、製品品質を左右します

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技術革新の場

ダイセットは各メーカーの創意工夫や技術力が表れる重要な部分です

金属加工の世界において、ダイセットは非常に重要な役割を担っています。ダイセットとは、文字通り「ダイ(金型)」をセットする装置のことで、金属加工の精度や効率を大きく左右する重要なコンポーネントです。特にプレス加工や鍛造などの金属加工において、金型を正確に保持し、高精度な加工を実現するための基盤となります。

 

金属加工業界では、高品質な製品を効率的に生産するために、ダイセットの性能と品質が非常に重視されています。ダイセットは単なる金型の取り付け器具ではなく、金属加工の精度を決定づける重要な要素であり、各メーカーの技術力や創意工夫が表れる部分でもあるのです。

 

ダイセットの基本構造と金属加工での役割

ダイセットは、基本的に複数の部品から構成されています。主な構成要素としては、金型を保持するための「ダイセット上型/下型」、上下の型の芯合わせをするための「ガイドポスト」、ガイドポストを導く円筒状のスリーブである「ガイドブシュ」などがあります。これらの部品が正確に組み合わさることで、高精度な金属加工が可能となります。

 

ダイセットの主な役割は以下の3つに集約されます。

  1. 金型の固定:金型のぐらつきを抑え、確実に固定することで、安定した加工を実現します。
  2. 加工精度の向上:ガイドポストとガイドブシュの機構により、金型を正確に上下させることで、製品の加工精度を高めるとともに、金型の寿命向上にも寄与します。
  3. 段取替えの効率化多品種少量生産の現場では、スピーディーな金型交換が求められます。金型を装着したダイセットをあらかじめ複数用意しておき、ダイセットごと交換することで、効率的な生産体制を構築できます。

金属加工において、ダイセットはプレス機の直下に設置され、加工時の圧力を全体で受け止める役割も担っています。ダイセット上型が下降して上下の金型が正確に合わさることで、精密な鍛造加工が実現するのです。

 

金属加工におけるダイセットの種類と特徴

金属加工の多様なニーズに対応するため、様々な種類のダイセットが開発されています。それぞれのダイセットは、加工方法や目的に応じた特徴を持っています。

 

1. 標準ダイセット
標準的なダイセットは、上下二枚のプレートとガイド・ポストで構成されています。共通して対応できる標準のダイセットを製作することで、一部分(成形部の金型など)のみの交換だけで、複数の工程及び製品を塑性加工することが可能です。

 

2. 閉塞ダイセット
閉塞ダイセットは、閉塞鍛造用のダイセットを指し、上下の金型を閉じて空間に鍛造素材を押し込んで成形するための装置です。閉塞鍛造法の最大の特徴として、バリ無し成形やプレスの動きの方向に対し90°異なる方向の成形が可能な点が挙げられます。

 

閉塞鍛造は以下の2種類があります。

  • 片閉塞鍛造:素材を片側のみから押し込む方法
  • 両閉塞鍛造:素材を上下から同時に押し込む方法

3. 高精度ダイセット
高精度ダイセットは、既存のプレス設備をそのまま利用しながらも、最新の高精度な設備の冷間鍛造工程と同等もしくはそれ以上の寸法精度を実現するダイセットです。プレスモーションの影響を排除する技術、高精度位置決め技術、ゼロクリアランス成形技術などを適用しています。

 

4. スマートダイセット
最新技術を採用したスマートダイセットは、鍛造の異常検知を行うためのセンサー(PiezoBolt)および関連機器の配線をダイセット内に格納した高機能なダイセットです。これにより、安全性の向上や段取り時間の削減、さらには遠隔地からのリモート監視も可能となっています。

 

ダイセットによる金属加工の精度向上のポイント

金属加工において、高精度な製品を安定して製造するためには、ダイセットの精度が非常に重要です。ダイセットの精度を向上させるためのポイントをいくつか紹介します。

 

1. 偏芯精度の確保
ダイセットにおいて「偏芯精度」の確保は最重要課題です。加工精度および組付け精度が悪いと、パンチ側(上側)とダイス側(下側)の同芯が確保できず、金型や製品に悪影響を及ぼします。

 

2. 高精度な嵌合
特に閉塞ダイセットでは、上下金型が指定位置で正確に嵌合することが重要です。同芯度、位相、傾きを高精度に管理する必要があり、嵌合に関わるガイド・ポスト・嵌め合い部分等のクリアランスは10ミクロン単位で設定されます。また、嵌合面は常に適切な潤滑が供給されていることが重要です。

 

3. プレスモーションの影響排除
高精度ダイセットでは、同芯度および垂直度へ悪影響を及ぼす横方向の動作成分および回転動作成分の影響を低減する構造が適用されています。これにより、プレス機自体の精度に依存せずに高精度な加工が可能となります。

 

4. 位置決め技術の向上
高精度ダイセットでは、上下金型の同心精度を確保するための位置決めを凹凸形状とし、金型の外側上面に位置させています。さらに、位置決め部に対してパンチがゼロクリアランス状態になるような構造を採用することで、高精度な加工を実現しています。

 

金属加工における精度向上は、最終製品の品質に直結する重要な要素です。ダイセットの精度を向上させることで、より高品質な金属製品の製造が可能となります。

 

中空鍛造とダイセットの関連性と応用

中空鍛造は、中空構造を持つ金属部品を効率的に製造するための重要な技術です。この工法において、ダイセットは非常に重要な役割を果たしています。

 

中空構造を形成するための「成形ピン(パンチ)」は、ダイセットに取り付けることにより金型と一体化し、高精度な中空鍛造加工を実現します。例えば、上下の金型が閉じてワークを加圧した後、水平4方向×垂直2方向から成形ピンを突入させることで、ワンショットによる中空鍛造が可能となります。

 

中空鍛造技術は、軽量化が求められる自動車部品などの製造において特に重要です。中空構造により材料使用量を削減しながらも、必要な強度を確保できるため、環境負荷の低減とコスト削減を同時に実現できます。

 

ダイセットは通常、鍛造プレス機を購入する際にメーカーからセットで購入するのが一般的ですが、中空鍛造が可能なダイセットへのカスタマイズを自社で行い、独自のノウハウを蓄積している金属加工メーカーも存在します。こうした技術力の差が、各社の競争力を左右する要因となっています。

 

ダイセットの最新技術と金属加工業界の未来

金属加工業界におけるダイセット技術は、日々進化を続けています。特に近年では、IoTやセンシング技術を活用した「スマートダイセット」が注目を集めています。

 

スマートダイセットは、鍛造の異常検知を行うセンサー(PiezoBolt)および関連機器の配線をダイセット内に格納した革新的なダイセットです。ボルト型圧電式荷重センサーを組み込むことで、微小な荷重変化の計測が可能となり、金属加工中の異常を早期に検知することができます。

 

スマートダイセットの主な特徴としては以下の点が挙げられます。

  1. センサー類の配線がダイセット内に格納されているため、安全性が高く断線等のリスクが低減されます。
  2. 面倒な配線の取り回し作業が不要で、電源供給がワンタッチで可能なため、段取り時間を大幅に削減できます。
  3. 現場だけでなく、遠隔地からもリモートでリアルタイム監視が可能となり、生産管理の効率化が図れます。

また、既存の古いプレス設備でも高精度な鍛造品生産を可能にする「高精度ダイセット」も注目されています。これにより、大規模な設備投資を行うことなく、高品質な金属加工が実現可能となります。

 

さらに、ダイセットの材質や構造に関する研究も進んでおり、より軽量で高剛性、高耐久性を持つダイセットの開発が進められています。これらの技術革新により、金属加工の精度向上、生産効率の改善、そして環境負荷の低減が期待されています。

 

金属加工業界は今後も自動車産業や電子機器産業などからの高度な要求に応えるため、さらなる技術革新が求められています。その中で、ダイセット技術は金属加工の品質と効率を左右する重要な要素として、今後も進化を続けていくでしょう。

 

日本塑性加工学会の研究報告書 - 高精度ダイセット技術の最新動向について詳しい情報が掲載されています
ダイセットは一見すると地味な機械部品ですが、金属加工の精度と効率を決定づける重要な要素として、今後も金属加工業界の発展に大きく貢献していくことでしょう。特に自動車業界の電動化や軽量化の要求に応えるため、より高精度で効率的な金属加工技術の開発が進められており、ダイセット技術もそれに合わせて進化を続けています。

 

金属加工メーカーにとって、最適なダイセットの選択と運用は、製品品質の向上とコスト削減の両立を実現するための重要な課題です。今後も技術革新を取り入れながら、より効率的で高品質な金属加工を実現するためのダイセット技術の進化に注目していく必要があります。