物質・材料研究機構(NIMS)のナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)は、2007年に世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)として設立されました 。このセンターは、ナノテクノロジーと材料研究分野における代表的な国際研究拠点として、「ナノアーキテクトニクス」という新しいパラダイムを切り拓いています 。ナノアーキテクトニクスとは、原子・分子からなる「ナノ部品」を組み合わせ、まったく新しい現象を発現させる革新的な材料創出概念です 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f752bd8cf8585cb879d33dfe0c94584fff4f01bb
金属加工従事者にとって注目すべきは、同センターが物質の原子・分子レベルの構造を精密制御することで発現する量子機能を扱う「量子材料分野」と、二次元ナノシートや一次元ナノワイヤーなどの革新的なナノマテリアルを扱う「ナノ材料分野」が密接に連携していることです 。この融合的アプローチにより、従来の金属材料では実現できない特性を持つ新材料の開発が可能となっています 。
参考)MANA
物質・材料研究機構では、金属材料の加工技術において画期的な革新を実現しています。特に注目されるのは、機械学習を適用した超合金粉末の製造技術です 。航空機エンジン用材料として有望なNi-Co基超合金の高性能・高品質な粉末を、わずか6回の試行で収率約78%を達成し、従来の10-30%を大幅に上回る成果を上げています 。
参考)機械学習により超合金粉末の製造コスト削減に成功
NIMSの材料創製・加工ステーションでは、「溶解塑性加工」、「溶接」、「設計試作」、「鍛造シミュレータ」など6つのグループが連携し、金属系材料を対象とした溶解・鍛造・圧延・熱処理の一貫した支援業務を行っています 。1500トン鍛造シミュレータをはじめとする最先端設備により、主にジェットエンジンや発電用ガスタービン部品の製造プロセス開発を推進しています 。この技術により、従来の製造コストを約72%削減することに成功しており、金属加工従事者にとって極めて実用的な価値を提供しています 。
参考)NIMS「材料創製・加工ステーション」紹介href="https://www.nims-open-facility.jp/page/page000190.html" target="_blank">https://www.nims-open-facility.jp/page/page000190.htmlamp;nbsp;
ナノアーキテクトニクス技術は、金属加工分野において従来の概念を覆す革新をもたらしています。この技術体系は「原子・分子操作新技術」、「外場誘起材料制御」、「化学的ナノ構造操作」、「制御された自己組織化」の4つの主要技術で構成されています 。走査トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)などの近接プローブを用いることで、個々の原子や分子の配列や結合状態を精密に制御できます 。
参考)https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/03/1301852_02.pdf
金属加工従事者にとって特に重要なのは、この技術により金属材料のサイズ、形状、次元性、配列構造を制御することで、プラズモン特性を変化させ、光学的性質を柔軟に変化させることができる点です 。低次元金属ナノ材料のアーキテクトニクスにより、赤外プラズモン機能を活用した新しいエネルギー・環境材料の創生が可能となっています 。この革新的なアプローチにより、従来の金属加工技術では実現できなかった機能性を持つ材料の製造が可能になりました 。
参考)https://www.jsps.go.jp/file/storage/grants/j-grantsinaid/23_startup_s/hyouka23/01/outline_03_nagao.pdf
物質・材料研究機構では、航空宇宙産業の厳しい要求に応える耐熱合金技術の開発を推進しています。戦略的イノベーションプログラム(SIP)の「革新的構造材料」において、NIMS拠点では「航空機用耐熱合金の革新的加工技術」の研究開発を行っています 。この研究では、鍛造シミュレータ(大型鍛造プレス機)を用いたTi合金、Ni基合金鍛造材のデータベース(DB)を作成し、信頼性の高い組織・特性予測ツールを構築しています 。
参考)領域紹介 耐熱合金|「革新的構造材料」 戦略的イノベーション…
金属加工従事者にとって注目すべきは、新規粉末プロセスのレーザ粉体肉盛、粉末射出成形技術です 。これらの技術により、ニアネット成形による高生産性、低コスト化した部材創製法が確立されています 。特にNi基合金等の発電用ディスクを独自の加工法により創製する技術は、従来の製造工程を大幅に簡素化し、製造コストの削減と品質向上を同時に実現しています 。このような革新的な加工技術は、航空機エンジン部品製造の競争力向上に直結する重要な技術です 。
物質・材料研究機構では、従来の金属加工技術と熱電変換技術を融合した革新的な研究成果を上げています。同機構の研究チームは、弱い強磁性体と呼ばれる金属において、強磁性転移温度付近で熱電能が急激に増大することを発見しました 。この現象は、Fe ドープ Fe2V(Al,Si)において、転移温度285K付近で50%の熱電性能増強が確認されており、スピン揺らぎによるエネルギー変換効率の向上が原因とされています 。
金属加工従事者にとって特に興味深いのは、この技術がIoTデバイスの動作電源として期待されている点です 。従来の金属加工技術で製造された部品に熱電変換機能を付加することで、廃熱を電力に変換する自立型システムの構築が可能になります 。この研究成果により、室温付近で動作する高性能熱電材料の開発が加速し、金属部品の付加価値向上と新たな市場創出が期待されています 。これらの技術は、製造業における省エネルギー化と持続可能な生産システムの構築に貢献する革新的な技術として注目されています 。