タンディッシュ モールド鋼材品質向上技術解説

連続鋳造工程におけるタンディッシュとモールドの役割と仕組みを詳しく解説。耐火物材料の特性や温度管理技術、介在物除去システムなど、鋼材品質向上に欠かせない技術要素を専門的に紹介しますが、なぜこれらの技術が製品品質に大きな影響を与えるのでしょうか?

タンディッシュ モールド連続鋳造システム

連続鋳造工程での役割と機能
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溶鋼分配機能

タンディッシュが複数のモールドに安定した溶鋼供給を実現

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温度制御システム

プラズマ加熱や誘導加熱による溶鋼温度の最適化

品質向上技術

介在物除去と電磁制御による高品質鋼材の製造

タンディッシュ構造と耐火物ライニング技術

タンディッシュ(Tundish:TD)は連続鋳造設備において取鍋とモールド間に設置された重要な中間容器です。その形状は上部から見たときにI型やT型が一般的で、容量は最大80トン程度に設計されています。
参考)https://www.nipponsteel.com/tech/report/pdf/415-11.pdf

 

内張り構造は鉄皮側から3層構成となっており、最内層のパーマネント耐火物、中間のウェア耐火物、最表面のコーティング材で構成されています。この多層構造により、溶鋼温度の低下を効果的に抑制し、安定した操業を実現します。
耐火物材料の特性

  • パーマネント層:アルミナ・シリカ質耐火れんがや流し込み材
  • コーティング材:マグネシア質材料をスプレーまたはコテ塗りで施工
  • 耐用温度:1500-1600℃の高温環境に対応

コーティング材の成分は溶鋼との化学的適合性を重視して選定され、特にマグネシア(MgO)系材料が優れた耐食性を発揮します。
参考)https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/taikabutsu.pdf

 

タンディッシュ溶鋼流動制御と介在物除去機能

タンディッシュの最も重要な機能の一つが、比重の軽い非金属介在物の浮上分離です。溶鋼がタンディッシュ内で一定時間滞留することにより、密度差を利用して介在物を効率的に除去できます。
流動制御システム

  • ダム・ウィア配置による流路設計
  • 渦発生防止構造の最適化
  • 滞留時間の制御による分離効率向上

実際の操業では、ダムとウィアの配置を工夫することで流動状態を制御し、より効果的に介在物の浮上を促進できます。これにより、最終製品の清浄度が大幅に改善されます。
日本製鉄の連続鋳造用耐火物技術レポート - タンディッシュ設計指針と操業実績

タンディッシュ熱間回転技術による歩留り向上

タンディッシュ熱間回転(ホットターナラウンド)は、鋼の連続鋳造後にタンディッシュから残溶鋼・スラグを熱いまま排滓し、メンテナンス時間を大幅に短縮する技術です。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2639755B2/ja

 

従来の冷却後引き抜き方法と比較して、作業効率が飛躍的に向上します。この技術の核心は、領域分離による残鋼・スラグの完全排出にあります。

 

設計の要点

  • 溶鋼注入領域(領域1)に凹部を形成
  • 浮上領域(領域2)との間にノロ切り堰を設置
  • 堰の高さは領域2の底より低く、領域1の底より高く設定

特に小断面ビレットの製造において、タンディッシュ・モールド間の断気鋳込みが可能となり、鋳込み中の溶鋼酸化を防止できます。この結果、鋼中非金属介在物を大幅に低減させることができ、製品品質の向上と歩留りの改善を両立します。
参考)https://www.ube.co.jp/ubs/seikou/mono.html

 

スラグ巻き込み指数(ε/H²)^(1/3)を3未満に制御することで、チャージ間継目部分の品質問題を根本的に解決できます。

モールド冷却システムと凝固制御技術

モールド(水冷鋳型)は溶鋼を固化させる最終工程の要となる設備です。モールド内では溶鋼との接触面側が急速に凝固し、内部は液相状態を保ちながら徐々に固化が進行します。
冷却制御技術

  • 水冷ジャケット構造による均一冷却
  • 銅製モールドによる高効率熱伝達
  • 振動機構による離型性向上

モールド内の溶鋼流動は電磁ブレーキ(静磁場制御)によって最適化されます。これにより、溶鋼の流れが鋳型の深い所まで均一に届き、表面品質の向上を実現します。
参考)https://www.nipponsteel.com/company/nssmc/science/pdf/V13.pdf

 

モールドパウダーの役割も重要で、溶鋼表面の保温、潤滑機能、酸化防止の3つの主要機能を果たします。粉末状または中空顆粒状の製品が溶鋼の熱で溶融・スラグ化し、安定した鋳造環境を提供します。
参考)製品紹介 日本サーモケミカル株式会社

 

日本セラミックス協会 連続鋳造用耐火物技術資料 - 冷却システム詳細解説

タンディッシュ モールド最適化による持続可能製造

近年、環境負荷低減と省エネルギー化を目指した技術開発が加速しています。タンディッシュとモールドの最適化により、エネルギー効率を大幅に改善できます。

 

省エネルギー技術
🔥 断熱性能向上による熱損失最小化
♻️ 耐火物リサイクル技術の導入
誘導加熱システムの高効率化
特に注目されるのは、ガス透過性モールド材料の開発です。超微細プレス加工用途では、成型不良を減らすガス透過性材料が実用化され、従来比で不良率を30%削減する成果を上げています。
参考)成型不良を減らす超微細プレス加工用ガス透過性モールド(金型)…

 

また、自動化設備の導入により、作業者の安全性向上と操業安定性の向上を同時に実現しています。タンディッシュ内残鋼自動排出装置や自動開閉式モールドカバーシステムなど、人的ミスを排除する技術が普及しています。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/archives/ksc_giho/28-1/j28-066shin.pdf

 

温度制御システムでは、黒鉛トーチによるプラズマ加熱と誘導加熱(IH)を併用することで、タンディッシュ内や浸漬ノズル内での溶鋼凝固を完全に防止できます。これにより、製造工程の安定性が格段に向上し、品質バラツキの最小化を実現しています。
数値解析技術の活用により、レードルからタンディッシュ、さらにモールドへの鋳込量を精密に制御し、理論値との誤差を±2%以内に収める高精度な操業が可能となりました。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/60/7/KJ00002709803.pdf