酸水フランジ加工とは何か基本知識から応用まで

酸水フランジ加工について詳しく解説し、具体的な加工方法や注意点、実際の応用例まで幅広く紹介します。金属加工従事者にとって必要不可欠な知識を身につけませんか?

酸水フランジ加工とは

酸水フランジ加工の基本
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フランジ加工の基本原理

金属板に穴を開け、その周囲に立ち上がり形状を作る塑性加工技術

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酸水環境での特殊性

酸性環境や水に接触する配管用フランジの専用加工法

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加工の重要性

耐食性と強度を両立した接続部品の実現

酸水フランジ加工とは、金属板材に対して行われる塑性加工の一種で、特に酸性環境や水に接触する配管系統において使用されるフランジの専用加工技術です。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/31672/

 

フランジ加工は別名バーリング加工とも呼ばれ、板金加工の分野では重要な技術の一つです。基本的な工程では、加工対象の素材に下穴を開け、その下穴よりも径の大きいパンチを圧入することで穴の周囲に立ち上がり形状を作り出します。
酸水フランジの特殊性は、通常のフランジ加工とは異なり、強酸性環境や高温水との接触を前提とした設計・加工が必要な点にあります。このため、材料選定から表面処理まで、従来のフランジ加工とは異なるアプローチが求められます。

 

酸水フランジ加工では、特に 耐食性の確保シール性の維持 が最重要課題となります。酸性環境では材料の腐食が進行しやすく、また高温水との接触により熱膨張や熱応力が発生するため、これらに対応できる専用の加工技術が必要です。

 

酸水フランジ加工の基本原理と特徴

酸水フランジ加工における基本原理は、従来のフランジ加工技術をベースとしながら、耐酸性と耐水性を重視した専用工程を組み込んだものです。

 

まず、材料選定 の段階から特別な配慮が必要です。酸性環境に対する耐性を持つステンレス鋼、特にSUS316やSUS316Lなどのモリブデン含有ステンレス鋼が主に使用されます。これらの材料は、通常の炭素鋼と比較して塑性変形特性が異なるため、加工パラメータの調整が不可欠です。
参考)ニュース - ステンレス鋼フランジの加工方法は?

 

加工工程では、下穴加工フランジ成形熱処理表面処理 の順序で進められます。下穴加工では、パンチとダイのクリアランスを通常のフランジ加工よりも厳密に管理し、バリの発生を最小限に抑えます。これは、酸性環境でバリが腐食の起点となりやすいためです。
フランジ成形時の特徴として、しごき加工 が多用されます。しごき加工により、立ち上がり部の板厚を均一化し、内径・外径の寸法精度を向上させることができます。これにより、ガスケットとの接触面積を最大化し、優れたシール性を確保します。
参考)https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/catalog/P01.pdf

 

酸水フランジ加工の専用工具と設備

酸水フランジ加工には、通常のフランジ加工とは異なる専用工具と設備が必要です。

 

パンチとダイの材質 は、高硬度工具鋼やセラミック系工具材料が使用されます。これは、ステンレス鋼の塑性変形時に発生する高い加工荷重と摩耗に対応するためです。パンチの先端形状も、通常の円錐形ではなく、段付き形状R付き形状 が採用されることが多く、材料の流動をより制御しやすくしています。
プレス機 については、通常のフランジ加工よりも高い加圧力が必要なため、油圧式の高剛性プレス機が推奨されます。また、加工中の材料温度上昇を防ぐため、クーラント供給システム の併用も重要です。
測定設備では、三次元測定機 による立ち上がり部の角度精度測定や、表面粗さ計 による接触面の仕上げ状況確認が不可欠です。酸水環境では、わずかな形状不良や表面粗さの悪化が深刻な漏洩や腐食につながるため、通常の加工よりも厳しい品質管理が求められます。

 

また、非破壊検査装置 として、浸透探傷試験装置や超音波探傷装置の導入も推奨されます。これらの装置により、目視では確認できない微細なクラックや内部欠陥を検出し、酸水環境での長期使用に耐える品質を確保します。

 

酸水フランジ加工における材料特性と選定基準

酸水フランジ加工において、材料選定は最も重要な要素の一つです。使用環境の厳しさから、通常のフランジ加工とは異なる材料特性が要求されます。

 

耐酸性 の観点では、クロム含有量18%以上、ニッケル含有量8%以上のオーステナイト系ステンレス鋼が基本となります。特に、モリブデンを2-3%含有するSUS316系材料は、塩酸や硫酸などの強酸に対する耐性が優れています。さらに、フッ化水素酸 に対する耐性が必要な場合は、ニッケル基合金やチタン合金の検討も必要です。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2024.1372981/pdf?isPublishedV2=False

 

塑性加工性 については、ステンレス鋼は炭素鋼と比較して加工硬化が大きく、スプリングバック も顕著に現れます。このため、金型設計時にはスプリングバック量を見込んだ補正が必要です。また、加工中の 発熱 により材料特性が変化しやすいため、適切な潤滑剤の使用と加工速度の調整が重要です。
溶接性 も重要な考慮事項です。酸水フランジは配管との接続において溶接される場合が多く、溶接熱影響部での耐食性低下を防ぐため、低炭素系のステンレス鋼(SUS316L等)の選定が推奨されます。また、溶接後の 固溶化熱処理 により、炭化物析出を防止し、耐食性を回復させる工程も重要です。
参考)https://www.ckmetals.co.jp/wp-content/uploads/W%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E2%85%A1%E6%8A%80%E8%A1%93%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%88231120-%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E7%89%88%EF%BC%89.pdf

 

表面処理前の 前処理 も材料特性に大きく影響します。加工後の表面には、塑性変形による残留応力や微細な傷が存在するため、電解研磨化学研磨 により表面層を除去し、均一な表面状態を作り出すことが耐食性向上に寄与します。
参考)メッキライブラリ

 

酸水フランジ加工の品質管理と検査方法

酸水フランジ加工における品質管理は、通常のフランジ加工よりもはるかに厳格な基準が適用されます。使用環境の厳しさから、わずかな品質不良も重大な問題につながる可能性があるためです。

 

寸法精度管理 では、立ち上がり部の内径・外径の公差を±0.05mm以内に管理することが一般的です。これは、ガスケットとの密着性を確保するためで、通常のフランジ加工の公差(±0.1-0.2mm)よりも厳しい基準となっています。測定には三次元座標測定機を使用し、円筒度・真円度・表面粗さを総合的に評価します。
表面品質管理 では、接触面の表面粗さをRa0.8μm以下に管理します。これは、ガスケットとの密着性確保と、腐食の発生源となる表面欠陥の除去が目的です。表面粗さの測定は、JIS B0601に準拠した触針式表面粗さ計を使用し、複数点での測定により品質の均一性を確認します。
非破壊検査 では、浸透探傷試験(PT) により表面クラックの検出を行います。特に、立ち上がり部の根元付近は応力集中が発生しやすく、微細なクラックが発生する可能性があるため、重点的な検査が必要です。また、磁粉探傷試験(MT) により、材料内部の欠陥検出も実施されます。
化学成分分析 も重要な品質管理項目です。蛍光X線分析装置(XRF)を使用し、クロム・ニッケル・モリブデン等の主要合金元素の含有量を確認します。これにより、材料の耐食性能が仕様を満たしていることを保証します。

酸水フランジ加工の実際の応用事例と注意点

酸水フランジ加工の実際の応用事例として、化学プラント での酸性廃液処理配管、半導体製造装置 でのエッチング液配管、食品工業 での洗浄装置配管などが挙げられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11011877/

 

化学プラントでの事例では、濃硫酸(98%)を扱う配管システムにおいて、SUS316L製の酸水フランジが採用されました。この場合、フランジ加工後に 550-650℃での応力除去焼鈍 を実施し、加工時の残留応力を除去することで、応力腐食割れの発生を防止しています。また、ガスケット材料として テフロン系材料 を使用し、酸に対する化学的安定性を確保しています。
参考)シグマガスケット|プラント・プロセス事業|美浜株式会社

 

半導体製造装置での応用では、フッ化水素酸 を扱う配管において、特殊な表面処理を施した酸水フランジが使用されています。この場合、通常の電解研磨に加えて、フッ素系表面処理 により、フッ化水素酸に対する耐性を向上させています。
作業時の注意点 として、まず安全性の確保が最優先です。酸性環境での使用を前提とした製品のため、加工中に発生する粉塵や切削液が酸性物質と反応する可能性があります。適切な 換気設備保護具の着用 が必要です。
加工条件の設定では、切削速度送り量 を通常のフランジ加工よりも低く設定し、加工熱の発生を抑制します。また、水溶性切削液 の使用により、加工部の冷却と潤滑を効果的に行います。

 

品質面では、加工後の即座な洗浄 が重要です。加工時に付着した切削液や金属粉は、後の腐食の原因となるため、中性洗剤による洗浄後、純水でのすすぎを実施します。

 

保管 についても特別な配慮が必要で、加工品は乾燥した環境で保管し、異種金属との接触を避けることで、電食 の発生を防止します。また、梱包材料には 中性紙プラスチックフィルム を使用し、酸性物質との接触を防ぎます。