FRP補修を成功させるには、適切な材料と道具の選定が不可欠です。基本材料として以下が必要になります。
基本材料一覧
・FRP用ポリエステル樹脂(主剤)
・ポリエステル樹脂硬化剤
・ガラスマット(450番手推奨)
・アセトン(洗浄剤)
・ポリエステルパテ
作業工具
・電動サンダー(#60~#320番手)
・耐水ペーパー(#600~#2000番手)
・ローラー(脱泡用)
・樹脂用容器(ポリ製推奨)
・撹拌棒
安全装備
・ニトリル手袋(薄手)
・防塵マスク
・保護ゴーグル
・換気設備
ガラスマットは素手で触るとチクチクするため、必ず手袋着用で作業してください。また、ポリエステル樹脂は引火性があるため、火気厳禁での作業が必要です。
市販のFRP補修キットを使用する場合、小規模補修なら十分対応可能ですが、大型パーツの場合は個別に材料を調達した方が経済的です。
FRP補修の基本手順は「診断→下地調整→積層→養生→仕上げ」の5段階で構成されます。
1. 診断・積層計画
補修範囲を確定し、使用する繊維の種類と積層数を決定します。割れの状況に応じて表面補修か貫通補修かを判断してください。
2. 下地調整工程
・#60~#120番手のサンドペーパーで研磨
・油分、劣化塗膜、ゲルコート層の除去
・クラックがある場合は瞬間接着剤で前処理
3. 繊維の裁断と配置
ガラスマットを補修面より100mm程度大きくカットします。繊維方向に配慮し、ハサミではなく手でちぎると馴染みが良くなります。
4. 樹脂調合と塗布
樹脂に硬化剤を1~4%添加し十分撹拌します。少量の塗料を混ぜると撹拌ムラを防げます。
・基材に樹脂を軽く塗布
・ガラスマットを配置
・さらに樹脂を塗布
・ローラーで脱泡作業
5. 積層と養生
厚みが必要な場合は複数層を積層します。標準硬化時間は15~30分ですが、温度や湿度により変動するため、爪を立てて傷つかなくなるまで待ちます。
大きな割れの場合、銀テープで仮固定してから裏面から補修すると効果的です。
FRP補修で最も重要なのは下地処理です。密着不良の多くは研磨不足が原因となります。
研磨のポイント
・番手30~60の粗目サンドペーパーを使用
・研磨方向をクロスさせて密着力向上
・研磨範囲は補修面の2倍程度に拡大
樹脂調合の注意点
・硬化剤の添加量は季節により調整(夏場は少なめ)
・一度に大量調合せず、作業可能量のみ調合
・撹拌時の気泡混入を最小限に抑制
よくある失敗と対策
失敗例 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
硬化不良 | 硬化剤不足、撹拌不足 | 45℃以下で加熱、日光照射 |
表面のべとつき | ノンパラフィン系樹脂の特性 | パラフィン添加で回避 |
気泡混入 | 脱泡作業不足 | 至急樹脂充填、場合により貼り直し |
密着不良 | 下地処理不良 | 研磨範囲拡大、クリーニング徹底 |
作業環境も重要な要素です。高湿度や低温環境では硬化不良が発生しやすいため、理想的な作業温度20~25℃、湿度60%以下で作業してください。
FRP補修後の仕上げ工程は、補修部の強度と美観を決定する重要な段階です。
表面整形工程
塗装前処理
・シリコンリムーバーで脱脂処理
・タッククロスで埃除去
・マスカー紙で養生
・サフェーサー塗布
塗装工程の実際
各工程間で十分な乾燥時間を確保し、急激な温度変化を避けることが重要です。特にクリアコート後は24時間以上の養生期間を設けてください。
仕上げ研磨とポリッシング
・#1000~#2000番手の耐水ペーパーで水研ぎ
・ポリッシングコンパウンドでバフ掛け
・最終的な艶調整
この段階で周囲との色合わせが重要になります。既存塗装との境界をぼかし処理することで、自然な仕上がりを実現できます。
整備業界では、FRP補修において材質の見極めが補修成功の鍵となります。特に近年多様化している樹脂材料への対応が重要です。
材質判別の実践方法
・ポリプロピレン(PP)製品はFRPが密着しない
・ABS樹脂とFRPの判別は燃焼テストで確認
・カーボン繊維複合材は専用工法が必要
温度管理による硬化コントロール
プロの現場では、作業環境の温度管理で硬化時間を意図的に調整します。
・夏場対策: 硬化剤を0.5~1%に減量、作業時間短縮
・冬場対策: 硬化剤を3~4%に増量、加温設備使用
・湿度対策: 除湿機使用で硬化不良を防止
応力集中部の補強技術
割れが再発しやすい箇所には、以下の予防的補強を実施します。
・コーナー部の面取り処理
・応力分散のための段階的厚み変化
・補強リブの追加による局所応力軽減
作業効率化の業界テクニック
・樹脂の粘度調整による作業性向上
・専用治具による形状保持
・UV硬化促進による時間短縮
品質管理のチェックポイント
これらの技術は長年の現場経験から生まれた実践的なノウハウです。特に高級車やレーシングカーの補修では、これらの細かな配慮が仕上がり品質を大きく左右します。
コスト削減と効率化
材料の無駄を削減するため、補修面積に応じた最適な材料発注量の算出方法や、硬化剤の保存方法なども重要な要素となります。適切な在庫管理により、材料劣化による品質低下を防止できます。