FRP(Fiber Reinforced Plastic)は、プラスチック樹脂にガラス繊維を混ぜることで軽量性を保ちながら強度を向上させた複合材料です。車のバンパーやエアロパーツによく使用されており、加工や補修がしやすく安価という特徴があります。
しかし、曲がりやねじれに弱く弾力性が低いため、軽い接触でも割れてしまう欠点があります。特にC-WEST製のジムカーナ用バンパーのように軽量化のため薄く作られているものは、より破損しやすい傾向にあります。
FRP修理に必要な基本材料は以下の通りです。
作業工具として、ベルトサンダーやランダムサンダーがあると作業効率が大幅に向上します。手作業の場合と比べて時間も手間も雲泥の差があるため、本格的な修理を行う場合は導入を検討しましょう。
FRP修理で最も重要なのが下処理です。この工程を怠ると接着力が不十分になり、修理後に再び破損する原因となります。
破片の整理と清掃
まず、破損したバンパーの破片を全て回収し、どの部分に接続するかを確認します。欠損部分がある場合は、後でパテ埋めが必要になるため写真で記録しておきましょう。
表面処理
割れた破片のバリを除去し、接着面をサンドペーパー(#60~#120の粗目)で研磨します。この作業により接着面積を増やし、樹脂の食いつきを良くします。研磨後は脱脂剤で油分を完全に除去してください。
仮組みと養生
外側から養生テープを使って破片をつなぎ合わせ、バンパーの形状を復元します。この時点で全体のバランスを確認し、大きなずれがないかチェックします。養生テープは樹脂が硬化するまでの型の役割も果たすため、しっかりと固定することが重要です。
下処理で注意すべき点は、作業環境の温度と湿度です。樹脂の硬化時間は気温に大きく左右され、夏場では1時間程度、冬場では数時間かかることもあります。湿度が高い環境では硬化不良を起こす可能性があるため、除湿機の使用も検討しましょう。
樹脂とガラス繊維による接着は、FRP修理の核心部分です。正しい手順で行わないと強度不足や硬化不良の原因となります。
樹脂の調合
不飽和ポリエステル樹脂に硬化剤を加えて混合します。硬化剤の添加量は通常樹脂重量の1~3%程度ですが、気温や作業時間に応じて調整が必要です。混合は均一になるまで丁寧に行い、気泡が入らないよう注意します。
ガラスマットの準備と貼付
ガラスマットを破損部分より少し大きめにカットします。調合した樹脂にガラスマットを浸し、十分に含浸させてから内側に貼り付けます。この際、ガラス繊維が樹脂で完全に濡れることが重要で、白い部分が残らないようにしましょう。
積層作業
大きな破損の場合は、複数層の積層が必要です。1層目が半硬化状態(指で触れても指紋が付かない程度)になったら、2層目を施工します。完全硬化後に積層すると層間剥離の原因となるため、タイミングが重要です。
硬化時の注意点
硬化過程で発熱反応が起こるため、厚盛りしすぎると過度な発熱により樹脂が変色したり、収縮クラックが発生したりします。一度の施工で厚さ5mm以下に抑え、必要に応じて複数回に分けて施工しましょう。
樹脂の品質管理も重要な要素です。開封後の樹脂は空気中の酸素により劣化が進むため、密閉容器で保管し、開封から6ヶ月以内に使用することを推奨します。
接着作業が完了したら、表面を平滑にするためのパテ整形とトップコート塗装を行います。この工程により、修理痕を目立たなくし、元の美観に近づけることができます。
パテの調合と塗布
FRP補修トライアルキットに付属するパテ用パウダーを樹脂、硬化剤と混合してパテを作ります。パウダーの添加量により硬さや研磨性が変わるため、作業性を考慮して調整します。作ったパテを割れた部分や欠損部分に塗布し、周囲の面より少し高めに盛ります。
研磨による整形
パテが硬化したら、ランダムサンダーや手研ぎで表面を滑らかに整形します。#120から始めて段階的に#400程度まで番手を上げ、周囲との段差をなくします。研磨粉は後の塗装に影響するため、完全に除去してください。
トップコートの準備
トップコートの調合について、ホームセンターでは「そのままでは固いから希釈が必要」という情報もありますが、製品により異なります。FRP専門業者の製品は通常そのまま使用可能ですが、粘度調整が必要な場合は専用シンナーを使用します。
塗装作業
トップコートは複数回に分けて塗布します。1回の塗布量は2kg程度を目安とし、8kg塗布する場合は4回に分けて作業します。継ぎ足し作業時は、前回使用した容器に追加調合することも可能ですが、硬化開始前に行うことが重要です。
塗装環境は温度20~25℃、湿度50~70%が理想的です。風やホコリの影響を受けない環境で作業し、塗装面が完全に硬化するまで48時間程度養生します。
FRP修理では様々な失敗が起こりがちです。事前に失敗パターンを知ることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
硬化不良による失敗
最も多い失敗が硬化不良です。原因として、硬化剤の添加量不足、混合不足、低温環境、湿度過多などがあります。症状としては、数日経っても表面がべたつく、指で押すと凹むなどが見られます。対策として、作業前の温湿度確認、正確な計量、十分な混合時間の確保が重要です。
接着力不足による再破損
下処理不足により接着力が不十分で、修理後短期間で再び破損するケースがあります。特に油分の除去不足や研磨不足が原因となることが多いです。修理前に脱脂剤による清拭を複数回行い、接着面を十分に粗面化することで防げます。
色調の不一致
トップコート後の色調が元の色と合わないという美観上の問題もあります。これは樹脂の黄変や硬化剤の影響によるものです。UV吸収剤入りの樹脂を使用したり、最終的に全面再塗装を前提とした修理計画を立てたりすることで対応できます。
作業時のトラブル対策
作業中の樹脂の早期硬化を防ぐため、少量ずつ調合し、涼しい時間帯での作業を心がけます。また、工具類の樹脂付着を防ぐため、アセトンなどの溶剤を準備し、作業後すぐに清拭することが重要です。
安全管理の徹底
FRP作業では有機溶剤や刺激性物質を扱うため、換気不足による健康被害も考慮すべきリスクです。作業場所の十分な換気、保護具(マスク、手袋、保護メガネ)の着用、皮膚接触時の即座の洗浄など、安全管理を徹底しましょう。
長期的な視点では、修理部分の定期点検も重要です。温度変化や振動により接着部分に微細なクラックが発生することがあるため、半年に一度程度の目視確認を行い、早期発見・早期対応を心がけることで、再度の大規模修理を防ぐことができます。
FRP修理は正しい知識と技術があれば、業者並みの仕上がりも可能です。ただし、構造部材や安全に関わる部品の場合は、プロの診断を受けることも検討しましょう。