有効期間切れの36協定でも残業させると、会社側に懲役刑が科されることがあります。
労使協定の有効期間とは、締結した協定が法的な効力を持ち続ける期間のことです。この期間内であれば、会社は協定の内容に基づいた労働条件を従業員に適用できます。逆に言えば、有効期間が終了した瞬間から、協定は効力を失います。
注意が必要なのは、すべての労使協定に有効期間があるわけではない点です。労働基準法上、有効期間の設定が「必須」な協定と、法律上は期間の定めが不要な協定の2種類があります。これは多くの人が見落としがちな事実で、金融業界など労務管理に関心が高い方でも混同しやすいポイントです。
有効期間の定めが必要な主な協定は次の5種類です。
| 協定の種類 | 有効期間の目安 | 届出義務 |
|---|---|---|
| 時間外・休日労働(36協定) | 原則1年間 | ✅ 必要 |
| 1か月単位の変形労働時間制 | 3年以内が望ましい | ✅ 必要 |
| 1年単位の変形労働時間制 | 1年程度が望ましい | ✅ 必要 |
| 事業場外みなし労働時間制 | 定期的な見直しが望ましい | ✅ 必要(条件あり) |
| 専門業務型裁量労働制 | 3年以内が望ましい | ✅ 必要 |
一方、賃金の一部控除に関する協定・フレックスタイム制(清算期間1か月以内)・年次有給休暇の計画的付与・休憩の一斉付与の除外などは、法律上の有効期間の定めが必須ではありません。つまり「一度締結すれば、期限なく有効」という運用も法律上は可能です。
ただし、だからといって「ずっと使い続ければよい」とは限りません。実務上は職場環境の変化に合わせた見直しが推奨されます。有効期間の有無だけに注目せず、各協定の目的と運用実態をセットで理解することが重要です。
参考リンク(厚生労働省が発行する労使協定の種類・有効期間・届出義務を一覧で確認できる公式資料):
労使協定とは(奈良労働局監督課)|厚生労働省
36協定を管理するうえで、「有効期間」「対象期間」「起算日」の3つを混同してしまうケースが後を絶ちません。それぞれの意味はまったく異なります。
まず「有効期間」は、協定書そのものが効力を持つ期間のことです。有効期間が切れれば、協定が存在しない状態と同じになります。
次に「対象期間」は、協定に基づいて実際に時間外労働や休日労働を命じることができる期間を指します。残業時間の上限カウント(例:年360時間・月45時間)は、この対象期間の中で管理されます。
そして「起算日」は、対象期間のスタート日のことです。たとえば起算日を4月1日に設定した場合、年間360時間の残業上限は翌年3月31日まで計算されます。
3つの関係を整理するとシンプルです。
重要なルールとして、有効期間は対象期間よりも長く設定しなければなりません。たとえば対象期間が「2025年4月1日〜2026年3月31日(1年間)」なら、有効期間はそれ以上でなければならないのです。
このルールを知らずに「有効期間=対象期間」と設定してしまっている企業は少なくありません。これは、起算日の前日に届出が必要という実務上のタイミング管理とも深く関わる問題です。
「有効期間」だけ覚えておけばOKです、ではなく、3つの概念をセットで理解することが管理ミスの防止につながります。
参考リンク(36協定の対象期間・有効期間・起算日の違いを詳しく解説した記事):
労使協定(36協定)の有効期間とは?下限や更新が必要なケース・理由を解説|jinjer Blog
有効期間が切れた状態で従業員に残業を命じた場合、それは36協定を締結していないのとまったく同じ状態です。これは多くの人が「うちは36協定を出しているから大丈夫」と誤解している落とし穴のひとつです。
法的なリスクは非常に重大です。労働基準法第119条第1号により、36協定を締結していない(または有効期間切れの)状態で法定外残業をさせた場合、使用者に対して「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。罰則の対象は残業した従業員ではなく、使用者(会社)側です。
金額だけを見ると「30万円以下なら大きくない」と感じるかもしれません。しかし、それだけでは終わりません。
つまり、30万円の罰金で済む話ではなく、企業規模によっては数百万円から数千万円規模の損害に発展する可能性があります。これは条件です。
金融業界で資産運用や経営判断に携わる人ほど、こうした法的リスクがバランスシート外の損失として顕在化することを理解しておく必要があります。
参考リンク(36協定違反の罰則と実際のリスクをまとめた解説):
36協定届の提出期限はいつまで?有効期間や提出忘れ時の罰則も紹介|HRノート
有効期間が切れる前に新たな協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが基本原則です。この「空白期間をつくらない」ことが、36協定の更新で最も重要なポイントです。
更新の流れは以下のとおりです。
届出のタイミングには特に注意が必要です。36協定は「届出が受理されて初めて効力が発生」します。起算日ぎりぎりに届けようとして不備があった場合、効力発生が遅れてしまい、その間の残業が違法状態になります。
更新手続きで見落とされやすい点として、「労働者代表が管理職に昇進していないか」の確認があります。管理監督者(課長・部長など)は労働者代表になれません。昇進後も同じ人物が代表として署名していた場合、その協定は無効と判断されるリスクがあります。いいことですね、というわけにはいかない深刻な落とし穴です。
また、賃金から社食代・積立金・組合費などを天引きする「賃金控除の協定」は有効期間の定めが法律上は不要なため、何年も前の協定書のまま放置されているケースが多いです。しかし実務上、代表者の退職や交代があった際には、その後の更新タイミングで結び直すことが推奨されます。
参考リンク(36協定の締結・届出の手引きを公開している厚生労働省公式ページ):
時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚生労働省
36協定の更新忘れは、知識があっても実務の忙しさの中で起きてしまうことがあります。「毎年更新しているつもりだったのに、気づいたら1か月空白期間があった」という事例は珍しくありません。これは使えそうです。
有効期間の管理で現場が取り入れている実務上の工夫を紹介します。
特に金融業界では、コンプライアンスリスクの管理が企業評価に直結します。36協定の有効期間管理の不備は、対外的に「労務管理が甘い会社」という評価につながりかねません。IR情報や企業格付けにも影響する法令遵守の観点から、有効期間の管理はバックオフィスの基本インフラと位置づけるべき領域です。
有効期間の定めが必要な協定が5種類ある一方で、定めが不要なものも複数あります。自社に存在するすべての労使協定を一度棚卸しし、それぞれの有効期間・届出要否・最終更新日を整理することが、法的リスクを防ぐ最初の一歩です。有効期間の管理が条件です。
参考リンク(労使協定の種類・届出義務・有効期間を整理した実務向け解説):