税額ゼロでも申告しないと、あとで数十万円の延滞税が追加請求されます。
贈与税の配偶者控除(通称「おしどり贈与」)は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産または居住用不動産取得のための金銭を贈与した場合に、最高2,000万円の控除が受けられる制度です。さらに、暦年贈与の基礎控除110万円と組み合わせることで、合計最大2,110万円まで贈与税を非課税にできます。
これが基本です。
国税庁では毎年、この特例を適用できるかどうかを確認するための「チェックシート」を公開しています。令和7年分(2025年中の贈与)に対応したチェックシートは、東京国税局のウェブサイトからPDFで入手できます。チェックシートは全9問で構成されており、回答欄の「はい」側にのみチェックが入れば、原則として特例の適用を受けられます。
9つの確認事項は以下のとおりです。
| 番号 | 確認内容 |
|---|---|
| ① | 贈与者はあなたの配偶者(夫または妻)か |
| ② | 婚姻届を出した日から贈与を受けた日まで20年以上か |
| ③④ | 同じ配偶者からの特例適用は今回が初めてか |
| ⑤ | 受け取った財産は不動産(土地等・家屋)または金銭か |
| ⑥ | その不動産は国内にあるか(不動産贈与の場合) |
| ⑦ | 贈与された金銭を翌年3月15日までに国内居住用不動産の取得に充てるか(金銭贈与の場合) |
| ⑧ | 対象不動産に現在居住しているか、または翌年3月15日までに居住する見込みか |
| ⑨ | 今後も引き続きその不動産に居住する予定か |
9項目すべてを満たして初めて特例が適用できます。ひとつでも「いいえ」があれば、原則として適用不可です。チェックシートは確認ツールであり、これを提出する義務はありませんが、申告前の自己確認に非常に役立ちます。
以下に、令和7年分のチェックシートが入手できる国税庁の公式ページへのリンクを記載します。
国税庁(東京国税局)が公開している令和7年分の公式チェックシートPDF(要件確認の出発点として最適):
令和7年分 贈与税の配偶者控除の特例のチェックシート|国税庁(東京国税局)
チェックシートの②「婚姻届を出した日から贈与を受けた日まで20年以上か」という問いには、大きな誤解が潜んでいます。
20年のカウントは「婚姻届を提出した日」から始まります。
たとえば、内縁関係や事実婚で15年同居していたカップルが、婚姻届を出してから5年後に贈与を行った場合、同居期間を合わせると20年を超えていても、法律上の婚姻期間は5年としか計算されません。この場合、特例は適用できないのです。「長く一緒にいるから問題ない」と思っていると、申告後に修正を求められる事態になりかねません。
具体的な期間の計算ルールも正確に覚えておく必要があります。婚姻届を出した日と贈与日が同じ月日の場合でも、「20年以上」とは20年目の記念日以後を意味します。2005年3月1日に婚姻届を提出した夫婦であれば、2025年3月1日以後の贈与でようやく20年の要件を満たします。2025年2月28日の贈与ではアウトです。たった1日でも要件が欠けると特例が受けられなくなります。
もう一つ見落とされがちな点が、「同じ配偶者からの特例適用は生涯1回限り」という制限です。これは使うタイミングを慎重に選ぶ必要があることを意味します。たとえば、夫と離婚して再婚した場合は、元夫との間で1回、新たな配偶者との間で1回と、別々に使えます。同じ配偶者との間では1回しか使えないというルールです。
「婚姻」の定義と「1回限り」の条件が基本です。
多くの方が犯しやすい最大のミスが「税額がゼロだから申告しなくていい」という思い込みです。これは間違いです。
贈与税の配偶者控除を適用した結果、贈与税の納付税額が0円になったとしても、贈与税の申告手続きは必ず必要です。税務署は申告書が提出されていなければ、配偶者控除を適用したのか、単なる申告漏れなのかを区別することができません。
申告しないままでいると、相続発生時などの税務調査で過去の贈与が発覚し、無申告加算税(原則15〜20%)や延滞税が上乗せされます。たとえば2,000万円の不動産を贈与して申告を怠り、後から税務署に指摘された場合、本来ゼロだった贈与税が発生するだけでなく、発覚時点からさかのぼって延滞税も課せられます。申告漏れが発覚するのは相続発生時が最も多く、税務署は相続税の調査の際に被相続人の過去の口座移動や不動産登記を確認します。
申告期限は「贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで」です。この期間内に、受贈者(財産を受け取った側)の住所を管轄する税務署へ申告書を提出します。なお、期限後申告でも配偶者控除の適用自体は認められていますが、その場合でも延滞税は発生します。なるべく早く手続きすることが原則です。
申告期限後でも「なるべく早く」が基本です。
申告方法は次の3つです。
贈与税の申告書等の作成方法は国税庁のページで詳しく解説されています。
チェックシートで要件を確認したあとは、申告書と添付書類の準備に進みます。必要書類は4種類あり、それぞれ取得の条件や注意点があります。
戸籍謄本と戸籍の附票は「10日経過後」が条件です。
書類の準備でよくある失敗が、贈与契約書を作成していないことです。贈与契約書は添付書類としては必須ではありませんが、贈与の事実や日付を証明するために用意しておくことを強く推奨します。特に不動産の場合、登記事項証明書の「所有権移転日」が贈与日として扱われますが、贈与契約書があれば意思の合致があった時点を客観的に示せます。
なお、居住部分が全体の9割以上を占める「店舗兼住宅」については、店舗部分も含めた全体に配偶者控除を適用できる特例があります。一方で、9割未満の場合は居住用部分のみに特例が適用されます。こうした細かな点もチェックシートの注釈として記載されており、見落とさずに確認する必要があります。
「2,000万円が非課税になる」という点だけに注目して手続きを進めると、思わぬコスト増に直面することがあります。金融に関心のある方ほど、数字の全体像を把握しておく必要があります。
生前贈与で不動産を取得した場合、贈与税とは別に以下の2つの税金が発生します。
| 税金の種類 | 生前贈与の場合 | 相続の場合 |
|---|---|---|
| 不動産取得税 | 固定資産税評価額の約3%(軽減措置あり) | 非課税 |
| 登録免許税 | 固定資産税評価額の2% | 固定資産税評価額の0.4% |
たとえば固定資産税評価額が1,000万円の自宅を贈与した場合、登録免許税だけで20万円かかります。同じ自宅を相続で引き継いだ場合の登録免許税は4万円です。この差額だけで16万円。不動産取得税も加えると、数十万円単位のコスト差になります。
コスト差が出るということですね。
さらに見落とされがちなのが「小規模宅地等の特例」との関係です。この特例は、被相続人が住んでいた自宅の土地を相続した場合に、330㎡まで評価額を80%減額できる強力な制度です。配偶者が相続した場合は売却後でも適用できますが、生前に自宅を贈与してしまうと、その不動産は被相続人(贈与した側)の財産ではなくなるため、この特例が使えなくなります。
これは大きな損失になり得ます。たとえば自宅の土地の評価額が3,000万円だった場合、小規模宅地等の特例を使えば相続税の計算上の価格は600万円まで圧縮されます。生前贈与で特例が使えなくなると、この節税効果が丸ごと消えてしまいます。
ただし、配偶者が受け取った財産についての「相続税の配偶者の税額軽減」は非常に手厚く、法定相続分(通常は遺産の2分の1)か1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税が課税されません。相続税の負担が心配なケースでは、生前贈与よりも相続による移転の方がトータルで有利になることもあります。
こうした複数の制度を組み合わせた総合判断が必要で、数字だけの比較では正解が出しにくい分野です。国税庁の「タックスアンサー No.4452」では贈与税の配偶者控除の概要が確認できます。
No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
この制度には、少し調べると出てくる「よくある誤解」があります。金融に関心のある読者層でも思い込みで判断するとミスにつながるため、正確な知識を整理しておくことが重要です。
誤解1:「別の不動産を贈与すれば2回目も使える」
同じ配偶者から2回目の贈与を受ける場合、たとえ別の不動産であっても配偶者控除は適用されません。これは一生涯を通じて「同じ配偶者から1回限り」というルールです。例外はありません。
誤解2:「離婚後は特例が取り消される」
贈与時点で要件を満たしていれば、その後に離婚しても特例の適用は有効です。贈与の有効性は贈与時点で判断されます。ただし、「既に離婚が決まっていた状態での財産移転」は贈与ではなく財産分与と判断される可能性があります。財産分与には贈与税が課税されません(不動産の場合は譲渡所得税が問題になることがあります)が、配偶者控除の適用もできません。贈与時点での婚姻関係の実態が問われます。
誤解3:「贈与後にすぐ売却してもOK」
贈与を受けた居住用不動産に「翌年3月15日までに居住し、その後も継続して住み続ける見込みがあること」が要件です。売却を前提とした贈与では特例が適用できないため、節税目的でとりあえず名義を変えてから売るという方法は通用しません。税務署からの指摘を受ける可能性が高く、特例の取り消しや追徴課税につながるリスクがあります。
誤解4:「リフォーム費用に充てるための金銭贈与でも使える」
金銭を贈与する場合は「居住用不動産の取得」に充てることが条件です。増築は適用の対象になりますが、外壁塗装や水回りのみのリフォームは「取得」とは見なされないため、配偶者控除の適用対象外です。リフォーム代として渡したいだけの場合は別の贈与税非課税制度を検討する必要があります。
4つの誤解すべて、金額に関わる実害があります。配偶者控除を活用するかどうかの判断は、相続税や不動産取得税も含めた全体最適の観点で、税理士など専門家に相談することが確実です。複数の制度が絡み合っているため、一側面だけを見て「お得」と判断することは避けた方が無難です。
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除(タックスアンサー)|国税庁