相当の地代を払っていても、土地が地価上昇で同族会社に移るとあなたの相続財産が減ります。
貸宅地とは、他人が建物を建てる目的で有償で貸し付けた土地、いわゆる「底地」のことです。相続税の評価において、貸宅地は自用地(更地として自分が使っている土地)よりも評価額が低くなります。それは、土地の上に他人の建物が建っており、土地の利用に制限が生じているからです。
基本の計算式はシンプルです。
| 評価パターン | 計算式 |
|---|---|
| 通常の貸宅地(借地権の取引慣行がある地域) | 自用地評価額 × (1 − 借地権割合) |
| 借地権の取引慣行がない地域 | 自用地評価額 × 80% |
借地権割合は路線価図のアルファベット(A〜G)で表され、それぞれ90%〜30%に対応しています。たとえば「D」なら60%です。つまり、借地権割合が60%の地域では、貸宅地の評価額は自用地評価額の40%になります。
ここで注意すべき点があります。貸宅地に該当するのは「有償で貸し付けた土地」のみです。無償または固定資産税以下の地代で貸し付けている土地は「使用貸借」とみなされ、貸宅地評価の対象外となります。使用貸借では借地権が認識されないため、評価額は自用地と同額になってしまいます。つまり評価減のメリットを一切受けられないのです。
また、貸宅地は建物の敷地に限られます。資材置き場や駐車場など建物のない土地を貸している場合は「貸し付けられている雑種地」として別の評価方法が適用されます。これが基本です。
実務上で混同されやすいのが、「貸宅地」と「貸家建付地」の違いです。貸宅地は土地の上に借地人の建物が建っているケース、貸家建付地は土地所有者自身の建物を他人に貸しているケースを指します。評価方法が根本的に異なるので、どちらに該当するかを最初に確認することが不可欠です。
国税庁|相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭和43年通達)
相当の地代方式の根拠となる国税庁の法令解釈通達。評価額を「自用地の80%」とする根拠が示されています。
相当の地代とは、権利金(借地権設定時の一時金)の代わりとして支払う、普通より高い地代のことです。権利金を支払わないで土地を貸す場合、本来であれば借地権が借主に移ったとみなして法人税が課税されます(これを「権利金の認定課税」といいます)。それを回避するために設けられた仕組みが相当の地代です。
相当の地代の計算式は以下の通りです。
たとえば、過去3年間の路線価評価額の平均が8,000万円だった場合、相当の地代は「8,000万円 × 6% = 480万円/年」になります。一方、通常の地代(借地権割合70%の地域の場合)は「8,000万円 × (1 − 70%) × 6% = 144万円/年」です。相当の地代は通常の地代の約3倍以上になることも珍しくありません。かなりの負担です。
この水準の違いが相続税評価額にも直接影響します。地代の水準ごとの評価方法を表にまとめます。
| 実際の地代の水準 | 貸宅地の評価方法 |
|---|---|
| 相当の地代以上 | 自用地評価額 × 80% |
| 通常の地代超〜相当の地代未満 | 自用地評価額 − 借地権評価額(調整計算あり)、上限80% |
| 固定資産税等超〜通常の地代以下 | 自用地評価額 × (1 − 借地権割合) |
| 固定資産税等以下(使用貸借) | 自用地評価額(評価減なし) |
ここで重要なのが「相当の地代を支払っている場合、貸宅地の評価額は自用地の80%になる」という点です。借地権割合が60〜70%の地域では、通常の貸宅地評価(自用地の30〜40%)より高くなります。つまり相当の地代を支払っていると、地主側の評価額は逆に上がる場合があるのです。意外ですね。
ただし、この20%の評価減は「他人の建物が建っており土地利用に制限がある」という点を考慮した例外的な措置です。借地権の認定課税を回避しつつ、一定の評価減も確保できるという構造になっています。
国税庁タックスアンサー|No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂
相当の地代の定義、認定課税の回避要件、改訂方法について国税庁が公式に解説しています。
相当の地代方式には「固定方式」と「改定方式」の2種類があります。どちらを選ぶかで相続税評価額が大きく異なるため、この選択は非常に重要です。
固定方式は、最初に決めた地代の金額をそのまま据え置く方法です。土地の価格が上昇しても地代を改定しません。地価が上昇し続ける局面では、実際の地代が相当の地代を下回るようになり、その差分が「自然発生借地権」として借主(同族会社など)に移っていきます。その結果、地主(個人)の土地評価額が下がり、相続税の節税につながるという仕組みです。
たとえば最初に路線価3,000万円の土地を貸し始め、地代を年180万円に設定したとします。その後地価が上昇して路線価が7,000万円になっても地代は180万円のままです。このとき相当の地代は420万円になっているので、実際の地代は相当の地代を大きく下回ります。この「差」が会社側の借地権評価額の増加となり、個人の土地評価額を実質的に圧縮する効果をもたらすのです。
一方、改定方式は概ね3年以下の期間ごとに地代を見直す方法です。地代は常に相当の地代水準に保たれるため、自然発生借地権は生じません。改定方式を選んだ場合は、税務署に「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を借地人と連名で提出する必要があります。届出がない場合は自動的に固定方式を選択したものとして扱われます。これは覚えておくべきルールです。
実務上の注意点として、近年は固定方式はあまり使われなくなっています。地価が下落傾向の時代では自然発生借地権が生まれにくく、高い地代を払い続けるだけになってしまうためです。現在の主流は、土地の無償返還に関する届出書を提出する「無償返還方式」との組み合わせです。
石橋税理士事務所|相当の地代の「固定方式」と「改定方式」について
具体的な数字の例を用いて固定方式・改定方式の違いを詳細に解説しています。実務的な視点で理解しやすい内容です。
個人が同族会社に土地を貸している場合、通常の第三者への貸付とは異なる評価ルールが適用されます。これを正しく理解していないと、相続税申告において大きな誤りにつながる可能性があります。
権利金をやり取りしない同族会社への土地の貸付では、まず「権利金の認定課税」を回避する必要があります。回避方法は主に2つです。
「土地の無償返還に関する届出書」とは、借地契約終了時に土地を無償で返還することを約束し、それを税務署に届け出る書類です。この届出書を提出することで、権利金の認定課税を回避できます。さらに相続税評価においても、貸宅地の評価額を「自用地評価額 × 80%」に抑えることができます。これは使えます。
なお、無償返還届出書が提出されている場合、借主(同族会社)の側には借地権が認識されません。ただし、個人(地主)の土地で減額した20%分は、同族会社の株式評価(純資産価額)に加算される点に注意が必要です。土地と株式を合算すると、土地の価値は100%として課税されます。課税逃れにはならない仕組みです。
同族会社への貸付で地代が固定資産税程度の場合、「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」の適用を受けられないリスクもあります。特例の適用には営利性が認められる地代の設定(固定資産税を超える有償での貸付)が前提条件になります。この点は見落とされがちです。
G.S.ブレインズ|同族会社が借主の場合の貸宅地の評価
権利金なしの場合の相当の地代方式・無償返還届出書との関係を、計算例を交えて詳しく解説しています。
貸宅地の相続税評価額をさらに下げる手段として「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」があります。これを活用すると、200㎡までの評価額を50%減額することができます。東京都内の土地(路線価が高い地域)では、この特例だけで数百万円単位の節税につながることも珍しくありません。
貸付事業用宅地等として特例を適用するための主な要件は以下の通りです。
たとえば路線価評価額が1億円の貸宅地(200㎡以内)に小規模宅地等の特例を適用した場合、評価額は5,000万円まで圧縮されます。相続税の実効税率が20%であれば、それだけで1,000万円の節税効果が生まれる計算です。
ただし、相当の地代を支払っている場合の貸宅地の評価は「自用地評価額 × 80%」が起点になります。たとえば自用地評価額1億円の土地なら、まず8,000万円に評価されたうえで、小規模宅地等の特例をさらに適用して4,000万円まで下げることができます。通常の貸宅地評価(1億円 × 40% = 4,000万円)とほぼ同水準ですが、相当の地代方式の場合は「権利金認定課税の回避」という別のメリットが加わります。
注意すべきは「相続開始前3年以内に新たに貸し付けを始めた土地」には原則として特例が適用されない点です。駆け込み対策として直前に貸付を始めても効果がありません。これは確認が必要です。
また、特定事業用宅地等(限度面積400㎡・減額率80%)との併用も一定のルールの下で可能ですが、計算が複雑になるため専門の税理士に依頼することをおすすめします。
トゥモローズ税理士法人|貸宅地の相続税評価をわかりやすく徹底解説
貸宅地の評価パターンを網羅的に解説。身内への貸付・法人への貸付・使用貸借など場面別の評価方法が詳しくまとめられています。
多くの方が見落としがちな論点として、「借地権の取引慣行がない地域」における評価の特殊性と、地価変動が貸宅地評価に与える影響があります。この2点を理解しておくだけで、相続税申告の誤りを防ぐことができます。
まず、借地権の取引慣行がない地域とは、路線価図に借地権割合を示すアルファベット(A〜G)の記載がない地域のことです。このような地域では、たとえ有償で土地を貸していても借地権割合は実質20%として扱われます。したがって貸宅地評価は「自用地評価額 × 80%」となります。一見すると相当の地代を支払っている場合と同じ計算式に見えますが、ルールの根拠が異なるため混同しないようにしましょう。
次に、地価変動リスクについてです。相当の地代は「過去3年間の路線価評価額の平均 × 6%」で計算します。地価が大幅に上昇しているエリアでは、相当の地代の水準も引き上げられるため、固定方式を選択していた場合に実際の地代が相当の地代を大きく下回ることになります。この「ギャップ」が自然発生借地権を生み出し、地主の評価額を下げる節税効果をもたらします。
逆に、地価が下落傾向の地域では相当の地代の水準も低下するため、固定方式でも自然発生借地権が生まれにくくなります。その結果、地主は高い地代を受け取り続けているにもかかわらず、節税効果が薄れるというジレンマが生じます。この状況は近年の郊外エリアで見られるパターンです。
最終的に、貸宅地の評価は次のような要素が複雑に絡み合います。
これらの要素を正確に把握し、適切な評価方法を選択することが、相続税の過払いを防ぐ最大の対策です。貸宅地を相続財産として持っている場合や、今後同族会社に土地を貸す予定がある場合は、相続税専門の税理士に事前に相談することが強くすすめられます。評価額が数千万円単位で変わるケースもあるためです。
フジ相続税理士法人|貸宅地(借地権等の目的となっている宅地)の相続税評価を解説
無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地評価を含む、特殊ケースの評価方法を実例とともに詳しく解説しています。