専門家の利用と監査で守る財務の信頼性と資産

監査における専門家の利用は、財務の信頼性を高める一方で、選定ミスや評価不足が重大なリスクを招きます。三様監査の仕組みや監査人の責任範囲を正しく理解していますか?

専門家の利用と監査で守る財務の信頼性と正確性

「専門家に任せれば監査報告書に名前が載り、お墨付きになる」は間違いで、無限定意見の報告書に専門家の業務を利用した旨は記載禁止です。


この記事の3ポイント要約
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専門家の利用には「監査人側」と「経営者側」の2種類がある

監査基準報告書620が定める「監査人の利用する専門家」と「経営者の利用する専門家」は別概念。どちらを誰が評価するかで、監査証拠の扱いが変わります。

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専門家に任せても監査責任は100%監査人にある

専門家の業務を使って無限定意見を表明した場合、その事実は報告書に記載できません。責任軽減にはならず、監査人が単独で意見に責任を負う原則が貫かれています。

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三様監査の連携が資産・財務を守る最前線

内部監査・監査役監査・会計監査人監査の三様が連携することで、不正や虚偽表示の見落としリスクを大幅に低減できます。


専門家の利用と監査の基本:「監査人側」と「経営者側」の違い


監査の世界で「専門家の利用」というとき、実は2つの異なる概念があります。この区別を知らないまま投資判断や内部管理を行うと、リスクの所在を見誤る恐れがあります。


一つ目は「監査人の利用する専門家」です。これは、公認会計士などの監査人が、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、会計・監査以外の分野の専門知識を持つ個人や組織を利用するケースです。複雑な金融商品の評価モデルを専門家に依頼したり、不動産の鑑定評価を外部の鑑定士に求めたりする場面が代表例です。


これを定めているのが、日本公認会計士協会の監査基準報告書620「専門家の業務の利用」です。同報告書は2011年に制定され、2023年1月に最終改正されており、監査人が専門家を使う際の手続き・評価・合意内容について詳細な要求事項を定めています。


二つ目は「経営者の利用する専門家」です。企業が財務諸表を作成する際に、自社では扱いきれない専門知識が必要となり、外部の専門家に依頼する場合を指します。こちらは監査基準報告書500「監査証拠」のA34項からA48項が扱います。


つまり、「専門家の利用」といっても、


- 監査人が証拠収集のために使う専門家(監査人の利用する専門家)
- 企業が財務諸表を作るために使う専門家(経営者の利用する専門家)


という2つが存在します。重要なのは原則です。どちらの場合も、最終的な監査意見への責任は監査人が単独で負います。 専門家の業務を利用したからといって、その責任は軽減されません。監査基準報告書620の第3項に明確に記載されている事項です。


日本公認会計士協会「監査基準報告書620 専門家の業務の利用(最終改正2023年1月)」:監査人の利用する専門家に関する要求事項の全文はこちら


専門家の利用と監査における評価・選定の落とし穴

「専門家に依頼したのだから大丈夫」という認識は危険です。それが失敗の入口になります。


監査基準報告書620の第8項は、監査人に対して専門家の「適性・能力・客観性」の3点を必ず評価するよう求めています。ここでいう客観性とは、専門家と被監査会社の間に利益相反がないかどうかの確認です。外部専門家を使う場合には、その専門家が阻害要因となる利害関係を持っていないか、積極的に質問しなければなりません。


金融庁の公認会計士・監査審査会が2025年7月に公表した「監査事務所検査結果事例集(令和7事務年度版)」では、以下のような不備事例が繰り返し指摘されています。


  • 経営者の利用する専門家の適性・能力・客観性の評価が不十分であった
  • 専門家に任せきりにし、業務の適切性を独自に検討していなかった
  • 被監査会社が作成した情報の信頼性に関する検討を実施していなかった


これは「専門家を使えばいい」という姿勢では監査の品質が担保されないことを、監督当局が明示している証拠です。


外部の専門家が関与したとしても、監査人はその結論や仮定・方法の合理性を自ら評価しなければなりません。具体的には、専門家の「指摘事項と結論の適合性」「採用した仮定・方法の合理性」「基礎データの正確性・網羅性」の3点を確認することが求められます。


専門家の業務が不適切だと判断した場合、監査人は追加の業務を依頼するか、自ら追加的な監査手続を実施しなければなりません。専門家への再確認義務があるということですね。


金融庁「監査事務所検査結果事例集(令和7事務年度版)」の公表ページ:専門家利用に関する指摘事例の詳細が掲載されています


監査報告書と専門家の業務利用:投資家が見落としやすい法的ルール

金融に興味のある方が意外と知らないのが、「専門家の業務を使ったこと」は監査報告書に書けないというルールです。これは重要なポイントです。


監査基準報告書620の第13項は明確に定めています。「監査人は、表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、無限定意見の監査報告書において監査人の専門家の業務を利用したことを記載してはならない」というものです。


無限定意見とは、財務諸表が適正に表示されているという、いわばオールクリアの意見です。この場合、専門家の名前や業務内容が報告書に載ることはありません。


これには重要な意味があります。投資家の立場からすると、「監査報告書にお墨付きがある」という理解だけでは不十分ということです。監査人がどのような専門家を使い、どう評価したかは報告書の表面には現れません。


例外があります。それは除外事項付意見(限定意見・不適正意見など)を表明する場合で、専門家の業務が除外事項の理由に関連するときに限り、専門家の業務への言及が認められます。ただし、この場合でも「監査人の責任が軽減されるわけではない」という旨を必ず記載しなければなりません。


| 監査意見の種類 | 専門家業務の記載 |
|---|---|
| 無限定適正意見 | ❌ 記載禁止 |
| 限定付適正意見・不適正意見 | ✅ 条件付きで可(責任軽減なしの旨を記載) |
| 意見不表明 | ✅ 条件付きで可(責任軽減なしの旨を記載) |


投資家や財務担当者は、監査報告書を読む際にこの構造を理解しておく必要があります。専門家の関与の有無が報告書からは読み取れない点は要注意です。


日本公認会計士協会「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)2024年2月版」:報告書の記載ルールに関する詳細解説


三様監査と専門家の利用:内部監査・監査役・会計監査人の連携実務

企業の財務健全性を守るには、1つの監査機能だけでは限界があります。これが「三様監査」という考え方の出発点です。


三様監査とは、内部監査・監査役監査・会計監査人(外部)による監査の3つを指します。それぞれの役割と専門家の活用方法は異なります。


監査の種類 主体 専門家利用の典型例
会計監査人監査 公認会計士・監査法人 複雑な金融商品の評価専門家、IT監査専門家
監査役監査 監査役(社内・社外) 外部弁護士、専門的知見を持つ社外監査役
内部監査 内部監査部門 外部コンサルタント、公認内部監査人(CIA)


金融機関やIPO(株式上場)準備中の企業では、この三様監査の連携が特に重視されます。金融庁の監督指針でも「外部の専門家等による業務監査が実施されているか」「監査結果が経営陣に適切に報告されているか」が評価項目として明示されています。


3つの監査機能が連携するメリットは大きいものがあります。内部監査が発見した不備事項を監査役が受け取り、会計監査人と情報共有することで、同じリスクを複数の視点からチェックできます。これにより、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを実質的に低減できます。


連携が機能していない場合の代表的な問題は次のとおりです。


  • 内部監査部門の発見事項が会計監査人に伝わらず、監査手続の設計が不十分になる
  • 監査役が内部監査の結果を活用せず、監査コストが重複する
  • 外部専門家の評価を誰も最終確認しないまま意見が表明される


三様監査の連携は任意ではありません。コーポレートガバナンス・コードでも、内部監査部門と監査役・会計監査人との効果的な連携が求められています。上場企業であれば、連携体制の整備と開示が事実上必要です。


マネーフォワード「三様監査とは?役割の違いや連携の重要性などを解説」:IPO準備企業向けに三様監査の実務を解説


AIと専門家の利用が変える2026年の監査実務と投資家への影響

監査における専門家の利用は、いま大きな転換期を迎えています。これは金融に関わるすべての人に影響する動向です。


EY新日本監査法人は2025年9月から、財務諸表の監査リスク評価にAIエージェントを活用し始めました。KPMGあずさ監査法人でも2025年8月より会計士約1,000人規模でAIエージェントを導入、監査調書の初稿分析・最新監査手法との照合・業務フローのフローチャート自動作成などを実施しています。AIを活用した一部プロセスでは50〜80%の時間短縮が報告されています。


ただし、AIは「新たな種類の専門家」として位置づけられ始めており、監査基準の枠組みでは依然として監査人が評価する義務を負います。AIの出力結果をそのまま採用することは許されません。


これは投資家にとっても知っておくべき事実です。监査品質が向上する一方で、AIの判断の妥当性・学習データの適正性・出力の解釈という新たなリスクが生まれています。監査報告書の読み方も変わり始めています。


一方、人間の専門家にしか担えない領域も依然として大きいです。複雑な契約の法的解釈、経営者の誠実性評価、将来見積りの合理性判断など、職業的懐疑心と経験が不可欠な場面では、専門家の判断が引き続き監査品質の核心を担います。


金融・投資の視点で押さえておくべき点は次の2つです。


  • 📌 AIを活用した監査法人が増えても、監査責任の所在は変わらない(監査人が単独で負う)
  • 📌 AI導入による効率化は監査コスト低減の可能性があるが、AIリスク管理コストが新たに発生する


2025年以降、監査の現場はAIと人間の専門家が分業する体制に移行しつつあります。この構造変化を理解しておくことが、財務情報の読み方の精度を高めることにつながります。


EY Japan「AIエージェントが切り開く会計・監査の未来(2026年1月)」:監査分野のAIエージェント活用の現状と展望を解説


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