株式を「タダ」で渡しても、あなたは売ったと同じ税金を払わされます。
みなし譲渡とは、資産を無償または時価より著しく低い価額で譲渡した場合に、税法上は「時価で譲渡したもの」とみなして課税する制度です。根拠条文は所得税法第59条で、課税の公平性を保つために設けられています。
もし時価より極端に安く株式を渡すことで税金を免れるなら、誰もが節税目的で低額譲渡を繰り返せてしまいます。それを防ぐのがこの制度の狙いです。
ここで重要なのは、実際にお金を受け取っていなくても課税されるという点です。これが多くの人にとって盲点になります。
たとえば、あなたが取得価額500万円の非上場株式を、現在の時価1,500万円のときに法人へ無償で贈与した場合を考えてみましょう。受け取った金額はゼロです。しかし税法上は「1,500万円で売った」とみなされ、差額1,000万円が譲渡所得として所得税の課税対象になります。これがみなし譲渡課税の核心です。
みなし譲渡に関係する税目は大きく分けて「所得税」と「消費税」の2種類です。
| 税の種類 | 適用される主なケース |
|---|---|
| 所得税 | 個人が法人へ株式・不動産等を無償または低額で譲渡した場合 |
| 所得税 | 限定承認により遺産を相続した場合 |
| 消費税 | 法人が役員に資産を無償または低額で譲渡した場合 |
| 消費税 | 個人事業主が事業用資産を家事使用(自家消費)した場合 |
みなし譲渡の基本はこの表で押さえておけばOKです。
株式に絡むみなし譲渡のケースは、大きく3つに整理できます。それぞれ状況が異なるため、自分がどのケースに該当するか確認することが重要です。
① 個人から法人への株式の無償譲渡・低額譲渡
個人が法人に株式を贈与した場合、または時価の2分の1未満の価額で売却した場合、みなし譲渡が適用されます。「時価の2分の1未満」というのが判断の境目です。
例を挙げると、時価2,000万円の非上場株式を800万円(時価の40%)で法人に売却した場合、実際の収入は800万円であっても、税計算には時価の2,000万円が使われます。取得費が400万円だとすると、2,000万円−400万円=1,600万円が課税対象の譲渡所得になります。実際の受取額との乖離が非常に大きいため、事前に把握しておくことが必須です。
② 限定承認による株式の相続
限定承認とは、プラスの相続財産の範囲内でマイナス財産(借金)を引き継ぐ相続方法です。相続放棄と単純承認の中間に位置する方法といえます。
限定承認で株式を相続した場合、税法上は「被相続人から相続人へ、相続開始時の時価で株式を譲渡した」とみなされます。たとえ実際の売買は一切なくても、被相続人に対してみなし譲渡所得税が課されます。
M&Aや企業グループ内での株式移転においても、適格要件を満たさない場合はみなし譲渡として扱われることがあります。非適格組織再編では株式の含み益が課税対象になります。これは企業オーナーや投資家が注意すべき点です。
ここが最も見落とされやすいポイントです。みなし譲渡は「主に法人への譲渡」で適用される制度です。
個人から個人への株式譲渡は、みなし譲渡にはなりません。
親から子へ、あるいは友人へ非上場株式を時価より大幅に安く売ったとしても、売り手側にみなし譲渡課税は発生しません。この事実は多くの人が誤解しています。
ではその場合、何も税金がかからないのかというと、そうではありません。
個人間の低額譲渡では、受け取る側(買い手)に対して「みなし贈与」として贈与税が課される可能性があります。時価と実際の売買価格の差額が「贈与を受けたもの」とみなされるのです。
たとえば親が時価3,000万円の株式を子に1,000万円で売却した場合、差額の2,000万円に対して子に贈与税が課税されることがあります。贈与税の最高税率は55%ですので、計算上1,100万円超の税負担が生じる可能性があります。厳しいところですね。
また、個人間の譲渡で売り手に譲渡損失が生じた場合でも、みなし譲渡規定の適用はないものの、「損失はなかったものとして取り扱われる」という別のルールが存在します(所得税法第62条)。損失が認められないため、節税効果は得られません。
まとめると、「個人→個人」の低額譲渡でも、みなし譲渡にはならないが、みなし贈与課税のリスクがある、という2段構えの注意が必要です。
みなし譲渡が適用されるかどうかは「時価の2分の1未満かどうか」が鍵になります。上場株式であれば市場価格が時価の基準になるため比較的わかりやすいですが、問題は非上場株式です。
非上場株式には市場価格がありません。そのため、税務上の時価は以下の3つの評価方法から算定されます。
- 類似業種比準価額方式:同業種の上場企業の株価を参考に算定する方法
- 純資産価額方式:会社の純資産(資産−負債)をベースに算定する方法
- 配当還元方式:少数株主向けの簡易評価方法(配当額をもとに計算)
この評価方法の選択によって、時価が大きく変わることがあります。
実際に過去の判例では、配当還元方式で計算した譲渡価額が、純資産価額方式による時価の2分の1に満たないとして、みなし譲渡(低額譲渡)に該当すると判断されたケースがあります(所得税法第59条1項2号)。つまり、自分では「安く売っただけ」と思っていても、税務署から「時価の半額未満での低額譲渡だ」と認定されるリスクがあるのです。
これは意外ですね。
非上場株式の株価算定は非常に複雑です。会社の支配権を持つ同族株主かどうか、会社規模がどの程度かによって適用される評価方法も異なります。株式を譲渡する前に、必ず税理士に相談して適正な時価を確認しておくことを強くおすすめします。
非上場株式の税務上の時価の考え方については、税理士法人山田&パートナーズが詳細な解説を公開しています。
みなし譲渡は課税されるだけの制度ではありません。「みなし譲渡損失の特例」という、投資家にとって有利に使える制度も存在します。これを知らないまま申告しないと、本来戻ってくるはずの税金を見逃すことになります。
この特例は、保有している上場株式が会社の倒産などによって無価値になった場合に適用されます。
通常、株式を売却しなければ損失は確定しません。しかし倒産した会社の株式はもう売れません。そこでこの特例では、株式が無価値化した段階で「譲渡したものとみなす」ことで、損失を確定させて他の利益と損益通算することを認めています。
具体的な適用条件は以下の通りです。
- 特定口座(特定管理口座)で管理している上場株式であること
- 発行会社が解散・破産・100%減資(会社更生法・民事再生法適用後)などにより無価値化が確定したこと
- 証券会社が発行する「価値喪失株式に係る証明書」を添付して確定申告を行うこと
たとえば、100万円で購入した株式が倒産により無価値になった場合、みなし譲渡損失の特例を使えば100万円の損失として計上できます。その年に他の株式の譲渡益が150万円あれば、150万円−100万円=50万円が課税対象になり、実質的に税負担が軽減されます。これは使えそうです。
ただし、特定管理口座を事前に開設しておかないと「価値喪失株式に係る証明書」が発行されず、特例が使えなくなります。上場廃止になる前に準備が必要です。
大和証券が特定管理口座の仕組みについてわかりやすく説明しています。
【参考】「みなし譲渡損失の特例」について(大和証券) ─ 特定管理口座の開設方法と証明書発行のプロセスが確認できます。
相続は多くの人が「みなし譲渡」を見落としやすい場面です。特に「限定承認」を選んだ場合は注意が必要です。
限定承認を選択すると、税法上は被相続人が相続人に対して株式や不動産などをすべて「時価で売却した」とみなされます。実際の売買は一切ないにもかかわらず、です。
たとえば、被相続人が300万円で取得した非上場株式が、相続時に時価2,000万円になっていたとします。この場合、差額の1,700万円が被相続人の譲渡所得となり、所得税が課されます。この所得税は被相続人のものですが、被相続人はすでに亡くなっているため、相続人が「準確定申告」を代わりに行う必要があります。
準確定申告の期限が重要です。
通常の確定申告は翌年2月16日〜3月15日の1か月程度ですが、準確定申告の期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。この期限は相続税の申告期限(10か月)とは異なります。単純承認と勘違いして申告を怠ると、延滞税や加算税が課される可能性があります。
また、限定承認では株式の取得価額が「相続時の時価」にリセットされます。将来その株式を売却した際の計算起点が変わるため、取得費の引き継ぎを前提にした節税計画が通用しない点も覚えておく必要があります。
なお、限定承認によって生じたみなし譲渡所得税は被相続人の債務として扱われます。もし借金と所得税を合算した債務が遺産を上回る場合、超過分の所得税は免除されます。限定承認が有効なのはこういう場面でもあります。
限定承認とみなし譲渡の詳細な税務処理については、国税庁タックスアンサーや専門税理士に確認することが最も確実です。
【参考】No.3217 時価より低い価額で売ったとき(国税庁) ─ 法人への低額譲渡における課税の根拠と計算方法が公式に解説されています。
みなし譲渡課税はゼロにすることは難しいですが、正しく理解しておけば想定外の課税を防げます。実務上意識すべきポイントを整理します。
時価の50%以上で譲渡する
低額譲渡のみなし譲渡規定は、時価の2分の1未満(50%未満)の価額での譲渡が対象です。時価の50%以上であれば、所得税法上のみなし譲渡は適用されません。ただし、相続税法上の「みなし贈与」(相続税法第7条)は別の基準で判定されるため、注意が必要です。
適切な株価算定を事前に行う
特に非上場株式の場合、自分で決めた価格が税務上の「時価」とかけ離れているリスクがあります。評価通達(財産評価基本通達)に基づいた正確な株価算定を税理士に依頼することが、課税リスクを下げる最も確実な方法です。
組織再編は「適格要件」を満たす設計にする
株式交換や株式移転などのM&Aでは、税制適格の要件を満たす形で設計すれば、みなし譲渡課税を繰り延べることができます。要件には事業の継続、雇用の維持などが含まれるため、専門家を交えた事前設計が重要です。
みなし譲渡損失の特例は積極的に活用する
保有株式が倒産して無価値になる可能性がある場合は、特定管理口座を事前に開設しておきましょう。上場廃止になってからでは間に合いません。特例を使えば損失を損益通算・繰越控除として活用できます。確定申告は必須です。
みなし譲渡は複雑な制度ですが、「誰に・何を・いくらで渡すか」を事前に整理するだけで、大半のリスクは対処できます。法人への株式移転を検討している方や、相続を控えている方は、早めに税理士に相談することが損失を防ぐ最善策です。
【参考】No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(国税庁) ─ 損益通算・繰越控除の要件と手続きが詳しく解説されています。